02.私は絶対泣いていい
少し話は変わるが、私には双子の兄がいる。
双子の兄、という言い方だと私が双子なのか兄たちが双子なのかという解釈の齟齬が生まれてしまうので、もう少し情報を補足しておくと双子なのは兄の方。
つまり今の私には二人の兄がいるということだ。
更に言うなら『兄』という表現も厳密には少し違うというか、もっときちんと彼らと私の関係を言い表すなら『血の繋がりはあるが兄妹ではない』と表現するのが正しかったりする。
でも、こんな情報は件の乙女ゲームのまとめサイトでも見たことがないので、制作陣が意図的に表にユーザーたちに出していなかった情報か、この世界が件の乙女ゲームの世界とよく似た並行世界のどちらかだろう。
まあ、正解がどちらでも今の私がそれを知る術はないし、私たち三人が腹違いの兄妹として育てられている現状に変わりはないのでこの話はここまでにしておく。
……で、どうしていきなり義兄たちの話を始めたかといえば、察しの良い人なら既にお気付きだろう。
ヒロインがマツバと出会うことによってルート解放される攻略対象の三人のうち、二人がマツバの兄たちなのである。
DVモラハラヤンデレ共依存なんでもござれ、多くのユーザーが『しんどい』『ひどい』『無理』『制作陣に人の心がない』と言わしめた不幸な家庭の煮凝りのような義兄妹関係については順を追ってなるべくサラッと説明していくので、感情移入はせずにサラッと受け取ってもらえたらいいんじゃないかな。知らんけど。
まずは長兄、スオウ=オトギリ。
紫の垂れ目にアッシュブロンド、柔和で優し気な面立ちをしており、乙女ゲームの攻略対象に名を連ねるだけあって美少年。
ただし、弟と一緒にマツバをいじめるのが趣味というとんでもねぇクソガキで、精神的に追い詰めてくるのはこっちの方。
作中ではマツバに対してモラハラに比重を置いたDVを行っており、気に入らないことがあれば手を上げてくるなんて日常茶飯事。
ヒロインと結ばれればマツバに対するあれこれはなくなるものの、比例するようにヒロインに対する束縛が強くなって支配型ヤンデレに進化する。
なお、マツバに対するDVがなくなることとマツバとの兄妹仲が修復されることはイコールで繋がらず、スオウルートのハッピーエンドではマツバがボロ雑巾のように捨てられたことが制作陣の裏話で判明している。
マツバが生きてると良いですね、まあ生きているからと言ってマツバが正気かどうか、幸せかどうかはまったく別の話なんですけどと締めくくられた制作陣の血も涙もないインタビューで全ユーザーが泣いたのは、ファン界隈ではかなり有名な話である。
続いて次兄、ハイド=オトギリ。
双子なだけあって顔のパーツはスオウとよく似ているが、こちらは年相応に男の子っぽいシャープさがあるので、パッと見で『似てる』と思うことはあっても見間違うことはない。
兄と同じくマツバをいじめるのが大好きなクソガキその2で、身体的な苦痛というベクトルで追い詰めてくるのは大体こいつ。
作中でも妹に対して身体的・性的な暴力を日常的に働いており、高圧的な態度でマツバを支配している。
こちらもこちらでヒロインと結ばれればマツバに手を出すことはなくなるが、代わりにヒロインへの束縛が強くなって管理したがるタイプのヤンデレへとめでたく進化する。
マツバの末路については言わずもがなで、散々マツバに尽くさせておいていらなくなったらポイ捨てする、という人でなしっぷりに兄ともども『やはりナチュラルボーンクズ』『倫理観仕事しろ』『悪魔も黙る双子』とファン界隈では良くも悪くも騒がれていた。
……いやほら、趣味は人それぞれだから、むしろそういうのがイイ! っていうコアな層もいたらしいんだよ?
その証拠にこの双子が登場する二作目は評判だったから、良くも悪くも……。
そんなやべぇ双子がマツバの、ひいては今の私にとっての義兄にあたるのだが、この双子を攻略するルートに入った際の最大の特徴は『どちらかを攻略する時、その片割れが死んでいる』ということ。
つまりスオウルートを攻略すればハイドが、ハイドルートを攻略すればスオウが作中で故人の扱いになっており、スオウまたはハイドの死がマツバと残った兄(義兄?)の関係をひどく歪めていったとは制作陣の言葉である。
ちなみに、まとめサイトで読んだ記事によれば双子ルートで片割れが必ず死んでいることにも理由があるらしく、制作陣の座談会が掲載された初回限定版の付録ファンブックに『スオウとハイドはとても仲の良い双子なので、二人揃っているとヒロインと恋に落ちないから』と書かれていたそう。
ヒロインと恋愛させるために容赦なく仲の良い双子を引き裂いてトラウマを植え付けるあたり、制作陣に人の心がないと言われる理由がよくわかる。
二作目以降だとここまで人の心がない所業はない、ともっぱらの噂だったので(なんせ私はシリーズに触れ始めたばかりで三作目以降についてはほとんど知らない)、制作陣が企画段階から相当はっちゃけていたんだろうな……と思っている。
たぶん、制作陣も二作目でちょっとはっちゃけすぎたなーと自覚してくれたから、三作目以降ではちゃんと人の心を取り戻したキャラクターや展開を用意してくれたんだろう。
二作目は犠牲になったのだ……というやつである。
まあ、二作目の被害者筆頭は間違いなくマツバなんですけど。
……え、ヒロイン?
いやぁ、ヒロインは設定上、シリーズ通して同一人物らしいから二作目の攻略対象を選ばない限り順当に幸せになれるはずなんで。
どうあがいても幸せになれない世界線しかないマツバの方が被害者筆頭の肩書には相応しいんじゃないかと思うよ?
……自分で言いだしておいてなんだけど、こんな悲壮感あふれる肩書なんて欲しくなかった。
私は絶対泣いていい……。
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