11.悪いことだった?
仮と言えども和解、という決着に収めてしまったので、双子を木にくくりつけていた紐をほどいてやることにした。
といっても、双子が抜け出せないように力任せで固結びにしたので、結び目をほどくのは至難の業。
そんなわけで家から持ち出していた鋏を使い、木と紐の間に無理やり鋏の刃をねじ込んでちょきちょき切り落としていくことにする。
……一応、一応双子とは和解したので、鋏を使っている間は大人しくしているようにと注意もした。
暴れると間違って切りつけてしまうかもしれないから絶対に大人しくしていろと、ちょっとだけ命令じみた『お願い』になってしまったが、まあ、動くと危ないのは本当だから。
これぐらい強く言っておかないと双子はすぐに図に乗ったり調子に乗ったりするってこと、仮にも義妹だから私は知ってるんだ……。
「「マツバ」」
「……なに」
「ほんとに、ごめん」
「……ごめん、な」
ようやく身体の自由を得て、双子が真っ先にしたのは私への謝罪。
ハイドに対してはお前トイレ行きたいって言ってなかったっけ、とも思ったのだけど、今ここでそれを言うのはきっと野暮というものなのだろう。
地面に座り込んだまま、目をうるうるさせてしおらしく謝ってくる双子にどうにも調子が狂うな、と思いながら、私はまたひとつため息をついて。
「今更殊勝な態度取られたって、簡単に許せるわけねーんだわ」
「う、」
「……でも、一応、謝罪は受け入れる」
この双子が私に謝ること自体、かなりの進歩ではあるのだ。
今までは謝られたこともなければ、申し訳なさそうにされることも、今みたいに殊勝な態度をとられることもなくて。やられっぱなしで泣いている私を見てにやにやと笑っていたり、さらにからかったりしてくるのが常だった。
だから、そう、そんな双子が見せた多少の努力は認めてやらなくちゃいけない。
躾には鞭だけじゃなく飴も必要だし、和解、という体裁がある以上は私からも歩み寄りの姿勢を見せるのが誠意だと思う。
もっとも、私の誠意を踏み躙っておしゃかにするようなことがあれば、その時は問答無用でまた締め上げるつもりだけれど。
(――とはいえ、)
冷静になってみれば、さすがにちょっぴり、やりすぎたかもと思ったりもするわけで。
「……私も」
「「?」」
「その、……たくさん痛いことして、ごめんなさい」
腫れ上がったハイドの頬に手を伸ばし、その表面を触れるか触れないかの加減でそっと撫でる。
スオウとハイドに絶対にやり返してやるんだと思っていた時は、たぶん、アドレナリンがドバドバ出ていたから気にならなかったけど、落ち着いて考えると『よくあんなことできたな自分……』と我ながらちょっと引く。
今世はもとより前世でだって人を殴ったり蹴ったり叩いたりするようなこととは無縁だったので、今更ながら少し怖くなってきたかもしれない。
殴る、蹴る、叩く。
私が双子にやったのは言ってしまえばそれだけだけど、その感覚はやっぱり気持ちがいいものではなくて、好き好んでやりたくないなぁと思う。
これは私が女だからそう思うだけか、私個人の問題なのかは知らないしわからない。
けど、きっと双子は私と同じようには感じていないからこそ、今まで散々私に対してやってきたんだろう。
(ナチュラルボーンクズかどうかの違い、なのかなぁ……)
「マ、マツバ……?」
「……俺たちがやったことをお前がやり返しただけで、謝るようなことじゃないだろー?」
「アンタらに何度謝られたって足りないことと、私が悪いことしたのに謝らないのは話が別」
私に触れられたからか、ガチガチに身体を硬直させてきょどきょどと視線を彷徨わせるハイドの頬に添えた手を外し、嘆息しながらスオウにぴしゃりと言葉を返す。
……そりゃあ、私だってやられたことをそのままやり返すこと自体を『悪い』と認識しているわけじゃない。
だけど、今回のやり返す過程で私がふるったのは明らかに過剰な暴力だったし、結果としてスオウもハイドもボロボロになっている。
ここまでされてなお双子が『自分たちは悪くない』というスタンスを貫くようであれば、私も同じようなスタンスを取るつもりだったが、実際そうはならなかったわけで――なら、二人が泣くほど、怖がるほどに痛めつけたことをちゃんと謝るのが筋ではある、と思う。
どこまで本気かはわからないけど、二人からも謝られたわけだし。
「わるいこと……」
「?」
「……俺たちがやってたのって、悪いことだった?」
(おおっとここでナチュラルボーンクズ覚醒の片鱗か???)
首を傾げた双子からの問いかけに、私は戦慄した。
しかもその上、こちらを見つめる二対の目が心底不思議そうな無垢な色をしているものだから、なおさら私は心の中で震え上がって自分を抱きしめるように腕を組む。
……いやもうホントにやばいって、この双子やっぱりナチュラルボーンクズで確定じゃないか!!
ま――まあ、真面目な話をすれば、双子が今の疑問を投げかけてくるのも仕方がないと言えば仕方がない部分もある。
なにしろ義母は既に病没しているし、義父は義父で一企業のトップとして大変忙しく、オトギリ家は基本的に大人がいない環境だ。
つまりは子どもが何か悪さをしても叱ってくれる人、止めてくれる人がいないということであり、スオウとハイドが大人から善悪を教わる機会も皆無だったと言っても過言ではないだろう(お手伝いさんはあくまでも家事手伝いなので、子どもの教育に関しては基本的にノータッチである)。
しかもその上、この二人は双子だからなのか、自分たち二人だけで世界が完結している節がある……というか。
他者から何かを言われても知らんぷりをしたり、そもそも聞く気がなかったりと、マイルールで生きている節がある。
そんなわけで、双子の常識が欠けているのもある意味では当然だし、こういう二人だからこそナチュラルボーンクズに磨きと拍車がかかったのでは? というのが私の見解。
(……あれ?)
じゃあ、もしも双子の手綱を私が握っておくことができたなら、クズはクズでも多少救いようのあるクズの範囲に矯正できるのではなかろうか。
……なんて、一瞬そんな考えが頭に浮かんだけれど、すぐに私は気付かなかったことにした。
だってほら、どう考えても私一人でこの双子の手綱を握るとか無理だし。あと単純に面倒この上ない予感しかしないので、そのあたりはいずれ現れるであろうヒロインに押し付け――こほん、お任せすることにしよう。
大丈夫だいじょうぶ、ヒロインにはヒロイン補正があるんだから多少大変なことだって最終的には難なくこなせるよ(たぶん)。
ともあれ。
「……アンタらあとで倫理の授業な」
「「え」」
表現としては誤りだけど、頭痛が痛い気分っていうのはこういうことを言うんだろうなと、眉間を揉みながら双子に向けて宣告する。
……今後も一緒に生活していく以上、最低限の倫理観くらいは身につけてもらっていいですかね。
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