34話 【俺】と魔王と騎士団長
「いやいや、なんでその三人が戦ってたんだよ」
『あ、いえ、正確に言うと、お三方が戦ったのではなく、
アズモディアス様とアルベリック様が、ラファヤ様と戦っておられたのです』
「つまり、2対1で戦ってたってことか……?」
『はい』
「いや……まだよくわかんねえな。そいつらは一体何のために戦ってたんだ……」
『そうですね、これはあくまで私の意見なんですけど、
おふたりは、アタルさんをかばっているように見えました』
「アズモディアスと、アルベリックが俺をかばうって……ラファヤからだよな……」
なんだ、どういうことだ。
俺が気絶していた時、いったいあそこで何が起きてたんだ。
そもそもそんな戦いがあったことなんてアズモディアスは言っていなかった。
もしイヴの言っていることが本当だとすると、
あの魔王は俺に嘘をついていたってことになるが……何のために?
むしろ〝天使から救ってあげたんだから感謝してほしいっス〟
みたいなことを言って、恩を売りつけてくるような性格してたろうに。
「……わりぃ、もうちょっと詳しく話してくれるか?」
『勿論です。えっと……どこからお話ししましょうか』
「俺が気絶したすぐあとからだ」
『わかりました。……じつはですね、ちょっと言いづらいんですけど、
アタルさんが決死の覚悟で引き起こした魔力暴走についてですが――』
「それは知ってる。ラファヤにダメージは与えられなかったんだろ?」
『それは、アズモディアス様から……?』
「ああ。……って、もしかして、それも嘘だったりするのか?」
『いえ、実際ラファヤ様は魔力暴走を受けてもピンピンしていました。
そしてラファヤ様はそんな気絶しているアタルさんに近づいていったんです』
「なんで……って、まぁそれは訊くだけ野暮か」
あの戦いの後で、気絶している俺にラファヤが近づいてきた理由……。
そんなもん、いちいち考えなくてもわかる。俺にトドメを刺すためだ。
『でも、その前にお二人が現れて、ラファヤ様と何か言い合いを始めたんです』
「言い合い……? ちなみにそのとき三人は何を言い合ってたんだ?」
『すみません。私、その時すごく動揺してて、それについてはあまり覚えてないんです』
「そうか……」
「なあアタル、それが気になるなら直接本人に訊いてみればいいんじゃないか?」
『そう……ですね。その話なら私よりもアルベリック様のほうが詳しいと思います』
イヴはそう言いつつも、なぜかすこし悔しそうにしているようにも見える。
「それもそうだな……」
俺たち三人は同時に頷くと、今度はアルベリックのほうへと歩いていった。
彼女は俺たちに気が付くと、もたれかかっていた木から体を離した。
顔色こそ、牢屋の中にいたときより幾分かマシになったようには見えるものの、
瞼が半開きだったり、目の下にクマが出来ていたりと、疲労の色は隠しきれていない。
いくら騎士団長がすごい存在だと呼ばれてようが、あくまで彼女は人間だ。
いまも相当体に無茶をさせているのだろう。
「もう話のほうはよかったのですか?」
「ああ、いえ、じつはその前にアルベリック様にお訊きしたい事が……」
「私に? なんでしょうか?」
「私がラファヤ様との一件で気絶している間に起きた、戦いの件についてです」
「ラファヤ様……って、もしかして、イヴ殿はあのときの……?」
アルベリックはそう言って、目を皿のように丸くさせ俺の事を見てきた。
それにしても、今の今まで気づかれていなかったのか。
「……なるほど。そうだったのですね。
アズモディアス様が珍しく人間にご執心なさっていたので、
その対象が何者なのかはずっと気になっていましたが、まさかイヴ殿だったとは」
「アズモディアス様が私にご執心……? どういうことですか?」
あの時の俺は異世界人だったとは知られていなかったはずだ。
そんな俺なんかに執着する理由がわからんのだが――
「その理由は、私にもわからないのです」
「わからない……?」
「はい。アズモディアス様が他人の為に行動するというのは、滅多にありません。
だから私もすごく覚えてはいるのですが……なぜそうしたかまでの動機は……」
アルベリックが申し訳なさそうに首を横に振った。
「そうでしたか……とはいえ、
アルベリック様とアズモディアス様がラファヤ様を退けてくれたのですよね?
その件についてはなんとお礼を申し上げたらいいか……」
「いえ、私も実際は戦いこそしましたが、結果は痛み分けに終わりましたよ」
「痛み分け……ですか?」
「そうです。アズモディアス様はいかにイヴ殿がこの世界の脅威足り得ないかを説き、
ラファヤ様は舐めた態度をとられたから……とかで、お怒りになられていました」
「は、はぁ……」
ラファヤに関しては相変わらずだな。
だが、話を聞いているとますますアズモディアスが俺をかばう理由がわからない。
「結局、ラファヤ様のほうが先にイヴ殿に対する興味がなくなり、
そのまま、徒歩でお帰りになられました」
「徒歩は嘘じゃなかったんだ……」
「それからはご存じのとおり、アズモディアス様はその場に残ってイヴ殿の手当てをし、
私はその帰路でヘンリー殿と出くわし、捕縛され、
イヴ殿たちと出会うまで拷問を受けていました」
アルベリックが何について拷問されていたかが気になるが、
さすがに面と向かって聞くわけにはいかないだろう。
どのみち、アルベリックはこのまま帰るみたいだし、
後日、何かしらの手段で改めて明らかになるだろう。
だが、こうなってくるとアズモディアスが語った内容の何が本当で、
何が嘘なのかわからなくなってくるな。
あいつ自身、偽物のアルベリックのことも察しがついていたみたいだし、
俺たちがアジトでこうなることも、ひょっとすると予想していたのかもしれない。
「これは……もう一度、会う必要があるかもしれません」
「アズモディアス様にですね」
「はい。まだ色々と訊きたい事があるので」
「そうですね。……では私がお取次ぎしますよ」
「いいんですか?」
「勿論です。今回の事の御礼の意味も込めて」
ぶっちゃけ、むしろ俺らのほうが助けられてはいるんだけど、
ここは素直に彼女の厚意に甘えておくとしよう。
「……ですが、その前にまず、イヴ殿の村に戻ったほうがいいですね」
そりゃそうだ。積もる話はたくさんある。
ジョンにもいくつか報告しなければいけないことが出来たし、
それになにより、もう体を休めたくて仕方がない。
「ありがとうございます、アルベリック様。
では、村までもう少しなのでこのまま進みましょう」
こうして俺たちはまた歩を進めるのだが、
俺がジョンに報告することは、永遠になくなってしまった。
俺たちが村に着いた頃には、そこはすでに廃村と化していたのだ。




