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33話 【俺】とイヴと再出発

 

「……アタル、おまえまさか、そのヘンリーの娘のことまで知っていて……?」

「いや、それに関してはイヴから聞くまでは知らなかった。本当だ」

『じゃあ仮に、アタルさんは私がサラさんに似てるという事を知っていたのなら、

 あの命令はくだしてなかったんですか?』

「くだしてたな」

『ほら!!』

「間違いなく」

『ほらほら!!』

「ほらほらって言われてもな……ただ俺の中ではあの瞬間、

 疑問だったことが確信に変わっただけだ。俺はあの時俺が出来ることをしたまでだ」

『で、でも……だからって……』

「その疑問って……ヘンリーがイヴを殺すか殺さないかってことだよな」


 俺はヨハンの助け舟(とい)に静かに頷いた。

 おそらくヨハンもヨハンで、俺に同調しているところがあるのだろう。

 まだあまり話し合ってはいないが、こいつの考えはすこし俺に近いところがある。


「……そうだ。俺はあの時それがわかっていたから、

 イヴの言うように、イヴ自身を人質にヘンリーに突撃するよう判断をくだした。

 怪我を負う可能性こそあったものの、殺される心配がないのはわかっていたし、

 なにより、アルベリックが仕掛けるまでの時間稼ぎにでもなればと思っていた」


 ……けどまさか、いくら面食らっていたとはいえ、

 あのヘンリー相手に、イヴがあそこまで立ち回れるのは予想外だったけどな。


「イヴに怪我を負わせること前提の計画については色々と言いたいことはあるが、

 大体の流れと考えはわかった……が、やはりひとつ気になる事がある」

「なぜあいつに、イヴを殺す気がなかったのかってことだな」

「ああ。話に聞く限りだと――思い出したくもないが、

 森の近く、例の蠢く明星の巣の件で、イヴは一度殺されていたのだろう?」

「まあな。だが、あの時イヴは(ヘルム)もかぶっていて顔は見えていない状態だった。

 さらにイヴはこの年齢で、それも女にしては身長が高いほうだ」

「だから、男だと勘違いされていたと……?」

「その可能性は大いにある。

 それに、俺に代わってから……つまり、素顔を晒してからのあいつの行動も妙だった。

 今思えばあの時のあいつは、何度も(イヴ)を殺せる機会はあったように思える」

「どういうことだ」

「さっきの戦闘の時と森での一件の時とで、その戦闘力にかなりの開きがあった」

「手加減していたと?」

「そこまでは言わない。ただ、イヴの言うとおり葛藤はあったんだと思う。それに――」

「まだあるのか」

「俺が確信を持てたのはおまえの存在があったからだよ、ヨハン」

「……ぼ、僕? なぜだ」

ヘンリー(あいつ)が言ってたろ、戦いの基本はまずは補給路を断つみたいなこと」

「ああ。それでまず回復魔法を使えた僕が殺されたんだったな。……あれは痛かった」


 ヨハンはそう言って、思い出すように首元をさすった。

 即死とはいえ、痛覚はあるようだ。なんとも難儀な体質(・・)だな、こいつも。


「……だが、それの何がおかしいんだ?」

「そもそもの話、なんであいつはヨハンが回復魔法を使えるって知ってんだ」

「え?」

「あいつの目の前で使ったか?」

「いや、それは……そういえば使ってないな」

「俺は使った。それもあいつの目の前で、腹の穴を塞ぐほどの強力なものを」

「そう……だよな。ヘンリーの理論で言えば、まっさきに狙われるのはイヴだったはずだ」

「だが、あいつは殺さなかった。俺の時以上にいつでも機会はあったのにだ」

「……イヴが自分の娘に似ていたから」


 俺は否定も肯定もしなかった。

 もちろんヘンリーにとってそれだけではないだろうが、

 それが占める割合はかなりのものだったはずだ。


「……なぁイヴ、アタルはあの時ああするしかなかったんだよ。あまり責めてやるな」

『お兄ちゃん……』

「ヤツの境遇に同情できる余地があったとはいえ、

 やったこと自体は決して許されることじゃない。言葉は悪いが、自業自得だ。

 それに、綺麗事だけじゃヤツを倒せなかったのも事実。……そうは思わないか」


 ヨハンが諭すように言うと、今度はイヴがゆっくりと口を開く。


『……ヘンリーさん、息を引き取られるその瞬間まで、

 何度もうわ言のように謝られていました。彼にだって葛藤がなかったわけじゃない……』

「そうか、姿が見えないと思ったら……おまえは最期までずっと見てたんだな」

『はい……それが、せめてあの時の私ができることでしたので……』


 イヴはそう言うと、改めて俺の目をまっすぐに見てきた。

 さきほどまでとは比べ、少し冷静さを取り戻しているように見える。


『アタルさん、私だってなにも、黙って殺されたほうがよかったなんてことは言いません。

 そもそもヘンリーさんの提案を蹴り、彼と戦う道を選んだのは私です。

 でも、なんというか、その、せめてヘンリーさんには正道で引導を渡したくて……』

「だからなイヴ、アタルは――」


 俺はヨハンを手で制すと、首を横に振った。

 ここから先は他の誰でもなく、俺自身がイヴに言わなければならないことだ。


「イヴ、おまえの言いたいこともわかる」

『アタルさん……』

「……まぁ正直、少し前の俺なら今のイヴを小馬鹿にしたりしてたと思う。

 自分の命以上に優先すべき事なんてないとか、あまりにも考えが非合理的だとか。

 だが人には人の、それぞれに譲れない物事ってのはどうしてもある。

 だから俺はそれがたとえ何であれ、誰であれ、軽々しく否定するつもりはない。

 けど、今回に限っていえば、

 俺の譲れないものとイヴの譲れないものがたまたまぶつかってしまった。それだけだ」

『でも、それじゃあ……』

「だから、強くなろう」

『強く……』

「弱いやつは何も守れない。弱いやつは勝ち方にこだわれない」

『だから、強く……!』

「そう、一緒にな」

『一緒……いいんですか?』

「まあな。約束もしちまったし」


 俺はそう言うと、ヨハンの顔をちらりと見た。


 約束。そう約束だ。

 せめてイヴ(こいつ)が騎士の学校を卒業するまでは――


『そうです!』


 イヴが突然、思い出したように声を上げる。


「……は?」

『そういえばずっと引っかかってたんですけど、

 なんでアタルさんとお兄ちゃんって、お互いを知っているふうなんですか?』

「え、それは……」

『ふたりとも初対面なはず……でしたよね?』


 イヴの純粋な視線から逃れるように、自然に俺とヨハンの視線がかち合った。


 思えば、あいつとはついさっきまで自然に会話してしまっていた。

 不用心と言われるとそうなのだが、状況が状況だったためしょうがなかった。


「……イヴ、森から村に帰った日を覚えてるか?」

『え、はい』

「じつはその夜、おまえに内緒で魔法の訓練をしようと家を抜け出してたんだ」

『そうだったんですか?』

「まあな。んで、そん時に出会ったのがヨハンってわけだ」

『……ですが、その時も外見は私のままでしたよね。

 お兄ちゃんはどうしてアタルさんだとわかったのでしょう?』

「す、すぐにバレるだろうそんなこと! 何年一緒に居たと思ってるんだ」


 ヨハンのやつ、だいぶ苦しいな。


『それに、たとえ分かったとしても私の中に誰かがいるって発想になったかな……』


 イヴのヤツも無駄に鋭いな。


「だから、俺から正直にすべて話したんだよ」

『な、なんでそんなことを……。

 アズモディアス様からも滅多に言わないほうがいいって言われてましたよね』

「あの場にはイヴの親父(ジョン)もいた。そうすることが、せめてもの礼義だと思ったんだ」

『なるほど……そんなことが……って、あれ? じゃあお父さんは今朝、

 あえてアタルさんのことについて触れなかったということになるんですよね』

「え、まぁ、そうなるよな……」


 なんだ。

 なんかヤケにさっきからツッコんでくるなこいつ。


『なんで何も言わなかったんだろう……』

「あまり心配かけたくなかったんじゃねえかな」

『そっか……そうなんですかね……』


 これはもちろん嘘じゃない。

 嘘じゃないけど、大事なことは何も伝えていない。

 なぜなら、ジョンに口止めをされているからだ。


「そ、そういえば、僕もずっと気になってることがあったんだ」


 ここでヨハンがたまらず切り出す。

 すこし違和感はあるが、ここでの話題変更はナイスだ。


『なにを?』

「なんであのアルベリックがこうも簡単に捕まって、拷問まで受けていたんだ?」

「それは……たしかに俺も気になるな」


 即興で考えたわりに案外きちんとした質問だったので、思わず俺も唸ってしまう。

 この件に関しては、イヴもなにか事情を知っているような素振りを見せていた。


「両腕を失っていた状態であそこまで戦えていたのに、

 万全な状態のアルベリックを、ここのやつらはどうやって捕まえたのか」

『それはたぶん……万全じゃなかったからじゃないかな?』

「やはり……イヴは何か知ってるのか?」

『知ってるも何も……あっ、言われてみればそうでした。

 アタルさんってばその時、気絶していましたね』

「気絶? いつの話だ」

『ほら、ラファヤ様と戦ったすぐ後の事ですよ』

「ああ、たしかアズモディアスが直接交渉してやっと帰ってもらったっていう……」

『え? なんですかそれ? 交渉?』

「なんだ、違うのか? アズモディアスがそう言ってたんだが……」

『違うも何も……私、その場に今の状態でいましたが、戦っておられましたよ』

「た、戦う……? ……誰と誰が?」

『アズモディアス様とアルベリック様とラファヤ様です』


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