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31話 【俺】と双頭狼

 

 蛇の尾にふたつの頭を持つ狼。

 洞窟の中だと保護色になりそうな土色の毛並み。

 その眼光は鋭く、薄暗いこの空間でうっすらと紅く光っているように見える。

 体高は(イヴ)と同じくらいの大きさだが、体長はその倍くらいはある。


 この世界に来て二体目の魔物だが、

 実際にこうして向かい合うとなると、その迫力にちびりそうになる。

 でも、いま俺が一番気になっているのは――


「えっと、これもしかして、連中にハメられた可能性あります……よね?」

「ええ、そう考えるのが妥当かと」

「で、ですよね……」

双頭狼(オルトロス)の鼻はすさまじく利くと言われています」

「鼻……? え、じゃあ、もしかしてあいつらが集団で自決したのって……」


 俺がそこまで言うと、アルベリックはゆっくりと頷いてみせた。


「あくまで仮説ではありますが……」

「ま、まじかよ……」


 要するにあいつは保証と称し、部下の命を犠牲に俺たちを納得させることと、

 双頭狼(オルトロス)を呼び出すことを同時にやってのけたってわけだ。


 〝あくまで手を出したのは自分たちではなく双頭狼(オルトロス)であり、

 自分たちではない。したがって約束を一方的に反故にしたりはしていない〟


 つまりはそういうことなのだろう。

 なるほど。あの場面であの男が考えてそうな詭弁だ。

 次に会ったら絶対ぶっ飛ばす。


「気を引き締めてくださいイヴ殿。今まで――」


 突然、双頭狼(オルトロス)の目がギラリと鈍く紅く輝く。


「う……ぐっ……!?」


 それと同時に俺は何かに殴りつけられたような衝撃を受け、宙を舞う。

 それがアルベリックによる蹴りだったと気づいた頃には、

 すでに双頭狼(オルトロス)の前脚の爪が、俺が立っていた場所に深く突き立てられていた。


 あまりにも展開が速すぎると思ったのも束の間。

 次の瞬間には、アルベリックの剣が双頭狼(オルトロス)の前脚に深く突き刺さっていた。


 〝グオオオオオオオオオオオオ!!〟


 双頭狼(オルトロス)はたまらず俺たちから距離をとると、

 刺さっていた剣を器用に口で引き抜き、そのままベッと吐き出した。

 吐き出された剣は地面を転がる前に雲散霧消する。


 剣は深く突き刺さっていたものの大したダメージは与えられなかったのか、

 出血量は思いのほか少なく、今の攻撃で双頭狼(オルトロス)の戦意を削るには至らなかった。


 それどころか、余計に警戒させてしまったようにも見える。


「イヴ殿! お怪我は……!」


 尻もちをついて呑気に分析している俺に、アルベリックが声をかけてくれる。

 俺は急いで立ち上がると、そのまま彼女のもとへ合流した。


「イヴ殿、不用意に後ろは見せないでくださいね」

「……へ?」

双頭狼(オルトロス)の習性です。あれは獲物の背後から襲い掛かる習性があり、

 背中を見せると条件反射のように襲い掛かってくるのです」

「なるほど……だから急に後ろに……」

「それと、咄嗟のこととはいえ、蹴り飛ばしてしまい申し訳ありません」

「いえ、あれがなかったら今頃どうなっていたか……」

「イヴ殿ももうおわかりだとは思いますが、

 双頭狼(オルトロス)の持つ武器は爪でも牙でもなく、その俊敏性です」

「俊敏性……」


 たしかにあいつの移動する速度は異常だった。

 目が光ったと思ったら、次の瞬間には俺の背後にいたんだからな。


「ですがその動きは単純で、一直線にしか動けません」

「一直線、ですか? それならどうやって俺の背後に……」

「洞窟の天井を見てください」

「天井……?」


 言われた通り天井を見てみると、えらくパラパラと土が崩れている箇所があった。


「もしかして、あいつは天井を蹴って……!」

双頭狼(オルトロス)の素早い動きは直線的な動きの中でしか活かすことができませんが、

 壁や天井を経由すれば、ある程度自由に狙いがつけられるようになるのです」

「それなら、この場所って双頭狼(オルトロス)と戦うには最悪なんじゃ……?」

「ええ、普通ならそうですね」


 何か含みを持たせるような言い方だ。

 思えばアルベリックは、

 双頭狼(オルトロス)と対峙した時からどこか余裕があるようにも見えた。

 名前とか特性とかも妙に詳しいみたいだし、

 もしかすると致命的な弱点や、対策法も知っているのではないだろうか。


「やっぱり、なにか秘策があるんですね?」

「秘策というか……そうですね。

 騎士団内では、〝双頭狼(オルトロス)と遭遇したらこうしろ〟

 というマニュアルみたいなものは……あるにはありますね」

「なんか嫌に歯切れが悪いですね。それでそのマニュアルというのは……?」

「〝点ではなく線で進路を予想して弱点である鼻に攻撃を叩き込め〟」

「……終わりですか?」

「以上です」

「それはなんというか……ずいぶん詳細がぼやけてますね」

「まぁ、このマニュアルを作ったのがヴァレリアン殿ですので……」


 アルベリックは〝皆さんご存じの〟と言いたげだが、俺には誰かわからん。

 そもそもなんでそんなやつにマニュアルなんて作らせてるんだよ。


 とはいえ、知らないのも変に思われそうだから、ここは適当に相槌打っとくか。


「な、なるほど……あのヴァレリアン殿が……それはしょうがないですね……」


 とかなんとか言ってみる。


「いちおうヴァレリアン殿の為にフォローしておくとですね、

 このマニュアルが頒布されたことにより、団の被害は劇的に抑えられたのです」

「そうなんですか?」

「はい。双頭狼(オルトロス)の攻撃方法や弱点はそれまではわかっていなかったのです。

 なので双頭狼(オルトロス)を討伐するとなると、物量で圧すしかないと考えられていました。

 けれどその対策法がわかり、双頭狼(オルトロス)の速度に対応できる者を一名編成すれば、

 ほとんどの被害を抑えられるようになったのです」

「有体に言うと、大多数の人にはほとんど意味のない助言だったけど、

 刺さる人には刺さる助言だったということですね」

「ですので、もし双頭狼(オルトロス)と遭遇したらなるべく背中は見せず、

 周囲の遮蔽物を利用したりして、逃げるようにと部下たちには言ってあります」

「ないですね……遮蔽物……」

「で、ですが……! さきほどのヘンリー殿との戦いについてこられたのでしたら、

 双頭狼(オルトロス)が次にどこを経由して、何を狙っているかがわかるのです」


 無茶言うな。

 と思わずツッコんでしまいそうになったが、

 俺もイヴみたく目に魔力を集中させれば出来るかもしれない。


 試しに全身の魔力を目に集中させてみようとするが……案の定(・・・)、無理だった。

 というのも、俺がよく使用する手や指先から魔法を放つタイプのものと、

 自身の身体を強化するイヴのものとでは、かなり勝手が違うからだ。


 軽く要約すると、俺の魔法は魔法自体(・・・・)を理解しなければならないのに対し、

 イヴの身体強化はイヴの身体を理解しなければならないのだ。


 自分の体でも難しいのに、それも他人の、それも性別の違う人間の体を、

 数日かそこらで理解しろというのは土台無理な話だ。


 でも、だからといって、ここから簡単に逃げることもできない。

 だから今残っている手札で、なんとか勝ち筋を探っていくしかないのだが、

 そうなってくると、やはり鍵は直線的な動きと弱点の鼻か……。

 だったら――


「すみませんアルベリックさん、じつはさきほどの戦闘で膝をやってしまいまして」

「ひ、ひざ……!? そうだったんですか!? 大丈夫なんですか!?」

「大事には至っていません。けど、さきほどみたいに動くことが出来なくなってしまい……」

「そうだったんですか……だから急に動きが……」


 まぁ、大した怪我はしてないが、イヴみたいに動けなくなったのは本当だからな。

 ……なんて、心の中で言い訳をしてみる。


「ですが、その代わりと言ってはなんですが、魔法が使えるようになりまして……」

「あ、そういえばさっき使って……なんで?」


 ここへきて素の声の疑問が飛んできたが、今は流しておこう。


「それでひとつ作戦というか、双頭狼(オルトロス)を倒す算段がついたのですが……」

「え、そうなんですか!?」

「はい。なので、まずは双頭狼(オルトロス)に襲われてみてもらえませんか」

「……へ?」

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