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28話 【私】の決着(?)

 

「イヴ殿!? なにを……!」


 背後(・・)からアルベリック様の声が聞こえてきます。

 ですが、既に私の目の前には目を丸くしたヘンリーさんが槍を持って立っています。


「チィ……! 莫迦者めが……ッ!」

「……あれ?」


 てっきり、そのまま槍の切っ先を私に向けてくるかと思っていましたが、

 ヘンリーさんは手元でくるりと槍を半回転させ、柄の部分で水平に薙いできました。

 死線誘導(ミスディレクション)が一瞬頭をよぎりましたが、咄嗟に両手が伸び、槍を受け止めにかかります。


 〝ズシン……!〟


 衝撃が手のひらから腕へ伝い、やがて体の芯までをも強く揺さぶられます。

 以前倒したジャバウォックの攻撃とは比べものにならないほど重い一撃。


「でも、受けきれないほどじゃない……!」

「なに……!?」


 私はそのまま槍の柄を力の限り握りしめると、

 ドアノブを回すように強く、素早く捻りました。


「ぐぬ……っ! なんだ……この怪力は……!?」


 それにより、片手で槍を持っていたヘンリーさんの体勢がぐらりと崩れます。

 私はその崩れた先にある頭に向けて、渾身の蹴りを繰り出しました。


 〝パアン!!〟


「入った……けど……!」


 足の甲がヘンリーさんの側頭部に綺麗に入りましたが、

 ここで私は自分の蹴りの違和感に気づきます。


「浅い……!?」

「否、軽いのだ!」


 意識を断つほどの、なんなら障碍が残ってもおかしくないほど強く蹴ったはずなのに、

 ヘンリーさんは蹴りを頭に受けながら私を睨みつけてきました。


「あ……! 魔力の操作を忘れて……!」

寝てろ(・・・)!!」


 ヘンリーさんは私が握っていた槍を捨て、

 即座に別の槍を取り出すと、それが伸縮する勢いで私のお腹を突いてきました。


「う……っ!?」


 その行為自体に大したダメージはありません。

 しかし、私は驚いて少し前屈みになり、ヘンリーさんから一歩距離をとってしまいます。


 それがよくありませんでした。

 本命の攻撃はその次、ヘンリーさんは再度私に攻撃すべく槍を振りかぶりました。


 〝ブン!〟


 この軌道から推測するに、その狙いは首元。

 即座に腕を持っていって防御を試みますが……どうやら間に合いそうもありません。

 おそらくこのまま失神させられるか、最悪死んで終わりでしょう。


 今回の敗因は圧倒的経験不足。


 ヘンリーさんの動きを追えていたのは目を強化していたから。

 ヘンリーさんの槍を受け止められたのは腕を強化していたから。

 でも、咄嗟の判断の連続に私の技術が、魔力の操作が追い付いていませんでした。

 あそこで強化した蹴りをきちんとヘンリーさんに当てられていたら……なんて、

 この状況では後悔しても意味がありませんね。


「――さすがです! イヴ殿!」

「ぐぬぉ……!?」

「アルベリック様!?」


 アルベリック様の声が聞こえてきたと思ったら、

 突然ヘンリーさんの体が後ろへ、それも物凄い勢いで吹き飛んでいきました。

 ヘンリーさんは勢いそのままで壁に叩きつけられると、

 私の背後から飛んできたアルベリック様に足で胸を押さえつけられ、

 身動きがとれない間に、影の剣をその喉元に突きつけられました。


「動かないでください、ヘンリー殿」


 ヘンリーさんの両肩にはいつの間にか剣が刺さっており、そこから血が滲んでいます。

 おそらくあれが肩に刺さった衝撃で、ヘンリーさんが吹き飛んでいったのでしょう。


「笑止。この期に及んで我に(こいねが)うか。

 動いてほしくなければ、其の切っ先を我が喉元に突き立てればよかろう」

「その手には乗りません。貴殿はこのまま生きて団まで連行させていただきます。

 ただ、私としては、出来ればこれ以上貴殿に危害を加えたくないだけ」

「フン、我が憎くないのかアルベリックよ」

「……何の話です」

「貴様を斯様な体にしたのはこの我だ。

 そして、その体では団に復帰するのも絶望的であろう。貴様は我を恨んでいる筈だ」

「いえ、間接的にはそうですが、直接手を下したのは貴殿ではありません。

 ……それに、たとえそうであったとしても、

 我が身は未だ(・・)スラット領における騎士団の長を(あずか)る者。

 私の役目を果たすまで。そこに私情を挟むつもりはありません」

「貴様……まだ言うか」

「……これもすべて貴殿から教わった事です」


 アルベリック様がきっぱりそう言うと、

 ヘンリーさんは複雑そうな表情を浮かべつつも、それ以上は何も言わなくなりました。


「これで終わった……のでしょうか?」


 結局、ヘンリーさんに対して色々とモヤモヤが残る終わり方にはなりましたが、

 ひとまずはこのまま、ここから脱出することが出来そうです。


『よくやったな、イヴ。まさかここまで体裁きが身についてるとは……』

「そのあたりはノーマン団長から教わっていましたし、

 それになによりヘンリーさんの動きが――」


 私を殺そうとする人の動きじゃなかった。

 本当にその気があったのなら、私は何度も死ぬような場面はありました。


『そ、そうか。なんつーか、あれだな。

 思いのほか、おまえの最初のドロップキックが効いてたのかもな……あはは……』


 アタルさんが呑気に……というより、意図的に話題を変えて総括を始めようとしますが、

 さきほどの戦いの件で、私はどうしてもアタルさんに訊きたい事が出来ました。


「アタルさん、さきほどのヘンリーさんの件でいくつか訊きたいことがあるのですが、

 なんでヘンリーさんはあくまでも私の命は――」


「ぬおおおおおお! 退()けぇッ!!」

「……へ?」


 突然、ヘンリーさんがアルベリック様の拘束を振りほどき、肩に刺さっていた剣を抜き、

 血を流しながら、ものすごい形相と勢いでこちらへ向かってきました。


 私はあまりの事に頭も体も理解が追い付かず、その場で立ち尽くすのみです。

 そんな私を他所にヘンリーさんはまた懐から槍を取り出すと、

 走りながら大きく横に振りかぶり、私めがけて思い切り水平に振り抜きました。


 〝ガツン!〟


「う……ぐっ……!?」


 咄嗟に腕を交差して防御したものの足の踏ん張りが効かず、

 私はまるでおもちゃのように、槍の軌道と同じ方向へすっ飛んでいきました。


 そしてヘンリーさんに飛ばされ、壁に叩きつけられるまでの刹那――


 突然、どこからか現れたローブを着た人が、

 ヘンリーさんの胸に剣を突き立てているのを見ました。


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