27話 【私】とアタルさんの策
「――疾ッ!」
今度は思い切り振りかぶるような、あからさまな投擲フォーム。
槍を持っている手とは逆の手や足元を注視しますが、特に妙な動きは――
『イヴ! なにやってんだ!』
「へ? ……あっ!」
槍は既にヘンリーさんの手元から離れ、私のすぐ前まで肉薄していました。
二度に渡って繰り出された死線誘導にばかり気を取られ過ぎて、
普通に投擲してくるという可能性を完全に忘れていました。
〝ガギィン!〟
難なく。……とは言いませんが、アルベリック様が表情を変えず槍を打ち落とします。
是非とも死線誘導を見極めるコツを教えてほしいところではありますが――
『今のは……どういうことだ……?』
「アタルさん?」
いつの間にか、私の真後ろまで移動していたアタルさんが怪訝そうに呟きます。
『だが……チッ、どのみち防戦一方か……わるい、俺の見通しが甘かったみたいだ』
「そんな……! アタルさんが謝ることじゃ……!」
『動きについていけたらイヴも戦いについていけるかと思ったんだが……』
はい。実際、そうはなりませんでした。
現状、アルベリック様は私やお兄ちゃんをかばっているせいで攻めあぐねています。
私も私で完璧に槍を躱すか、打ち落とすかが出来ればよかったのですが、
あの速度、威力ともに、とても付け焼刃で対処できる程度のものではなく、
下手にそれを試みようものなら致命傷を負いかねません。
いくらお兄ちゃんがいるとはいえ、即死してしまったら元も子もありません。
要するに、ただただ足を引っ張っているという不甲斐ない状況にいるわけで、
アルベリック様も本当ならさっきみたいに接近戦で戦いたいはずなのに――
「……あれ、そういえばアタルさんは一度ヘンリーさんを退けてたんですよね?」
『ん? ……ああ、まあな』
「一体、どうやったんですか?」
『俺の場合、あいつとは相性がよかっただけじゃねえかな』
「相性……ですか」
『実際、あいつがこんな小手先を使ってくるタイプだったなんて知らなかったからな』
「じゃあ、アタルさんの時は今とは違った戦い方だったということですか?」
『ああ、なんか技名叫びながらやたら突進してきてたっけ』
「そ、そうだったんですか……」
なんというか、今のヘンリーさんの戦い方を見ていると想像がつきませんね。
『……だが、それも今考えりゃ仕方なかったのかもしれねえがな』
「どういうことですか?」
『今はなぜか使えねえが、あの時の俺はそれなりに魔法を使えてた』
「魔法とそのヘンリーさんの直線的な戦い方とで、なにか関係が……?」
『つまりだな、あいつがいくら小手先を使おうが、魔法の前では意味なかったんだよ。
死線誘導とか言ったか? 相手の気を逸らして死角から攻撃を繰り出すやつ。
それって、接近戦や今みたいな状況だと効果はあるかもしれんが、
中長距離で戦う魔法使いは、相手の状態関係なく魔法をぶっ放すだけだからな』
「いくら小手先を使おうと惑わされる事はない……というですか」
『要するに、物量で押し切ってくる脳筋相手にはあんま意味がないってことだな』
「……あの、ひとつお訊きしたいのですが――」
『代われねえからな』
「なんでわかったんですか」
『まぁ、考えてることは同じってことだな』
「それって……」
『ああ、もちろん何度かおまえの体に触れてみたが、ただ通り抜けるだけだった』
「試みてはくれたんですね……じゃあもう私が手から火とか出すしか……」
『……出せるのか?』
「すみません。出せません。ですが――」
一見、八方ふさがりに見えるこの状況。
このままヘンリーさんの槍が無くなるまで消耗戦を仕掛けるのもひとつの手ですが、
残りの槍の数を見誤れば、即座に手痛い攻撃を受けてしまいます。
それにこのまま、アルベリック様が飛んでくる槍を必ず落とせるとも限りません。
場合によってはただジリ貧になり、最終的に押し込まれて終わる可能性もあります。
ということは、やはりアタルさんの言うとおり、
ヘンリーさんが距離を詰めざるを得ない状況を作り出すしかないのかも。
つまり、こちらも圧倒的な物量で攻勢に転じることが出来れば……苦労はしませんよね。
それか、なんとかしてアルベリック様の得意な接近戦に持ち込むことさえ出来れば、
ヘンリーさんもその対処に手一杯になり、私に気を回す余裕も無くなる。
……のでしょうが、そうしようとすると、やはり私という存在が邪魔になるんですよね。
『なにか考えついたのか、イヴ?』
「私が決死の覚悟でヘンリーさんに突撃し、無理やり隙を作り出せばいいのでは……?」
『正気かおまえ。ふざけてる場合じゃねえぞ』
珍しく、割と本気でアタルさんに怒られてしまいましたが――
「ですが、他に案が……!」
『だからって、何もイヴがやる必要は……って、そうだ!
どうせやるなら、あえてヨハンに特攻させるってのはどうだ?』
「いやいや、それだと何のためにお兄ちゃんが復活するのを待ったのか意味が……」
『だからこそだ。俺たちの頼みの綱で最終的な回復手段でもあるヨハンをあえて手放す。
きっとヘンリーの野郎も面食らう……だろう……ぜ……』
アタルさんの言葉は次第に勢いを失っていき、そのまま黙り込んでしまいました。
「ど、どうしたんですか?」
『いや……ありかもな』
「アリ……?」
『なあイヴ、おまえいっちょ特攻してみるか』
「え、いいんですか!?」
『なんでちょっと嬉しそうな声出してんだよ……』
今度は割と本気で呆れられてしまいます。
「だ、出してないですよ!」
『どうせ、役に立てることに喜んでんだろうが』
「そ、それは……」
『あのな、いちおう言っとくけど、
こういう状況でおまえが一番しちゃいけないのは、考えるのを止めることだ』
「考えるのを……」
『そうだ。八方塞がりでどうしようもなくて、
〝それだったらもうイチかバチかに賭けてしまえ〟ってのが一番しょうもねえ。
最後の最後まで考えて、足掻いて、その時出来る最善を探すんだ』
「……で、ですが、結局は特攻するんですよね?」
『俺のは考え抜いた末の特攻で、おまえのはただの自暴自棄だ』
「な、なんなんですか、それ……!」
『それともあれか? やっぱ止めとくか?』
「は? や、やりますが? やらせていただきますが?」
『よし、ならいっちょ散ってこい』
「お、おうよ……!」
なんだか上手いこと乗せられた感じはありますが、そもそもが私の提案した事ですし、
これでアルベリック様の役に立つことが出来るなら、私も本望です。
『ただし、手元が狂うといけないから、俺が合図してから全力ダッシュだ』
「わかりました。……手元?」
一体、なんのことでしょうか。
私としてはただ突っ込んで行くだけだと思ったのですが、
やはりアタルさんには何かべつの考えがあるみたいです。
ですが、考えもなにも、そもそも指示が全力ダッシュとしか――
『よし! 今だ!』
「え? あ、は、はい……!」
私はアタルさん言われるがまま、その場から駆け出しました。




