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19話 【私】と兄と瀕死の騎士

「助けに来たぞ、イヴ」

「な、なんで、お兄ちゃんが……!?」


 私は体が動かなかったことも忘れ、上半身を起こし、声の聞こえたほうを向きました。

 そこにいたのは体中が血まみれのお兄ちゃんでした。


「ど、どうしたのその血!?」

「血? ……いや、その前に気になる事はないのか」

「あ、そうだ。お兄ちゃん、なんで……? おにいちゃんはあの時……」

「そうだ。僕はあの時死んだ。……だが、今はこうして生きている」

「え、な、なんで……」

「それについては……おいおい話してやる」

「おいおいって……」


 なんでいま話してくれないの。


「僕はおまえたちの声を聞いてここまで来たんだ。ったく、もうすこし静かに喋れないのか」

「あ、ごめ……え? おまえたち(・・)?」

「おい、アタル。状況は」


 そう言ってお兄ちゃんがアタルさんを見ます。


「え? え? え?」


 私はただ疑問符を浮かべながら、そのふたりを交互に見ることしか出来ません。


 なんでお兄ちゃんが生きているのか。

 なんでお兄ちゃんはアタルさんの姿が見えているのか。

 なんでお兄ちゃんはアタルさんの名前を知っているのか。


『……驚いたな。本当にあの状態から生き返るのかよ』

「うるさい。今は脱出することが先だ。違うか」

『ま、そうだな。……おい、イヴ動けるか?』

「え……え? あ、え、うん……はい」


 動く?

 そうです、動かないと。

 あれ?

 お兄ちゃんも動いてるけど……あれ?


『……ダメだな。完全に放心状態……てより、現状に頭と心が追い付いてないって感じだ』

「チッ……じゃあ、どうするんだ」

『話してやれよ。おまえのことを』

「だが、それは……」

『ここ数日、尋常じゃない出来事が何度も、立て続けに起きたんだ。

 大人でも相当きついってのに、イヴはまだガキだろ。いつ心が壊れてもおかしくない。

 今こいつが踏ん張れてるのは、こいつが強いからだ。

 その負担を軽くするのも、支えてやるのも、兄貴の仕事じゃねえのか?』

「それも……そうだ。あんたの言う通りだ」

『もちろん、何を話すかはきちんと(・・・・・・・・・・)吟味しておけよ(・・・・・・・)

「ふぅ……イヴ」


 お兄ちゃんは私の名前を優しく呼ぶと、片膝をついて私の目線に合わせます。


「手を出してくれ」

「……手?」


 私は言われたまま、手を鉄格子に向かって差し出します。

 お兄ちゃんはそれを両手で掴み、ギュッと握りました。


「……あれ?」


 体にわずかに残っていた痺れがきれいさっぱりと無くなっていきます。

 それに……すごく温かい。なんでしょうこれは。


「見ての通りだ。俺には他人の傷や病気を治療する力がある」

「治療って……」

「とりわけ、自己治療に関してはおまえも見た通り、

 あの状態(・・・・)からでも治すことが出来るほどだ。

 今まで黙っていたのは……今は言えない。

 だが、とりあえずここから脱出しないとその話をすることも出来ない。

 イヴ、とりあえず僕についてきてくれないか」


 お兄ちゃんは治療(?)を終えると、その手を放し、ゆっくりと立ち上がりました。

 そして、私はふたりが私の為に時間と心を割いてくれたことに気が付きます。


「ご、ごめんなさい! ちょっと、ボーっとしちゃって……! もう大丈夫だから!」


 私も立ち上がり、力こぶを作って大袈裟にアピールしてみますが、

 アタルさんとお兄ちゃんは微妙そうな顔で、お互いの顔を見合わせています。


「ほ、本当だから! 元気! 元気! それよりほら、はやくここから脱出しよ?」

「あ、ああ……そうだな」


 私は両手で鉄の棒を掴むと、いつも通りの要領で集中し始めます。

 肩から二の腕、前腕、そして手から指先へ――

 力という液体を流動させ、作動させたい部位に隅々まで行き届かせるイメージ。


 メキ……メキメキ……!!

 鉄の棒がお菓子のようにひしゃげていき、人ひとり通れる隙間が生まれます。

 一度力が行き届くと、以降は脱力するまで力が続く。

 これが――


『魔力だ』

「いまのが……魔力……」

『間違いない。今ので確信した』


 不思議な感じです。

 今まで自然にやっていた行為が、じつは魔法だったなんて。

 私としては他の皆にも出来るものだと思っていました。


『昔からやっているだけあって、魔力の移動はかなりスムーズだったな。

 時間にして、ほんの数秒といったところか。……十分実戦レベルだ』

「実戦って……でも私、もともと人に使う気はないですよ」

「……それはつまり、僕は人じゃなかったと?」


 嫌味っぽく訊いてくるお兄ちゃん。

 それもそのはずで、昔はよくこれでお兄ちゃんに迷惑(・・)をかけてました。

 その度に加減というものも徐々に覚えていったのですが、

 今考えると、たしかにお兄ちゃんの()の治りは早かったような気がします。


 つまり、私が今普通に力を使えているのも、お兄ちゃんの尊い犠牲があってのこと。

 これは感謝しなくてはなりませんね。


「おい、僕の前で手を合わせるな!」

「ありがとう、お兄ちゃん」

「……それより、もう動いても平気なのか?」

「うん。お兄ちゃんのお陰でだいぶ楽になったよ」

「そうか。……作戦についてはあらかた聞いた。もう始めるのか、アタル?」

『いつでもいい。とにかくおまえらは自分の周囲と、その足音にだけ注意しろ』

「わかりました」

「わかった」


 私とお兄ちゃんが同時に頷くと、

 アタルさんはそのままふわふわと壁の中へと消えてしまいました。


 取り残された私はとりあえず、今のうちに体が問題なく動くか確かめておきます。

 肩を回し、首を回し、腰を回し、屈伸したりしてみますが、特に問題はないようです。


 それにしても、なぜ私だけこうして生かされたのでしょうか。

 アタルさんはずっと私の隣にいたみたいですし、会話も聞いていたはず。

 だったら、ここを出たら一度訊いておいたほうが……いえ、ダメですね。

 まだ出ていないうちにそんな事を考えているなんて、油断が過ぎます。


 まずはここを出ること。

 全神経をそこへ集中させなければ――


『お、おい……!』


 珍しくアタルさんの狼狽えるような声。

 私がその声色に気を取られている間に、お兄ちゃんが返事をします。


「どうかしたか」

『すまん、ちょっとなんというか、俺ひとりではこいつは処理できそうもない』

「……へ?」

「おい、何が言いたいんだおまえ?」

『わるい。だがちょっとそこまで(・・・・)誘導するから、ついてきてくれないか。

 幸い、そこへ行くまでの道のりに教団員はひとりもいないから……』


 なんでしょう。

 アタルさんにしては珍しく要領を得ない物言いです。

 それほどまでに衝撃的なものを見てしまったのでしょうか?

 ふとお兄ちゃんを見ると、お兄ちゃんのほうも私を見ていて、

 思わず互いに首をかしげてしまいます。

 ……とりあえず、心の準備だけはしていたほうがよさそうです。


『こっちだ』


 そう言ってアタルさんは誘導を開始します。

 洞窟内は山中とは思えないほど整備されており、分かれ道が多く急な斜面はありません。

 まるで人の手の入った人工的な迷路といった感じです。


 洞窟内は相変わらず薄暗く、10メートル先は全く見渡せないほど。

 アタルさん自身は光ってはいるものの、光源としては全然機能していません。


 そんな道を歩き続けてから、ほんの3分ほど経ったくらいでしょうか。

 やがて私たちの前に、鉄格子をはめられた空間が、

 ちょうど私が入っていたくらいの大きさの牢屋が現れました。


『ここだ』

「ここが……?」

「アタルさん、ここには何が――」


 ヒュー……ヒュー……――

 ヒュー……ヒュー……――


 なんでしょう、風の音……でしょうか?

 ですが、そもそも皮膚に風が当たるような感触はありません。


 ヒュー……ヒュー……――

 ヒュー……ヒュー……――


 さらに耳を澄ましてみると、その音は牢屋の中から聞こえてくるようです。


『おまえらにはすこし見えづらいか……』

「おいアタル、勿体ぶらずに教えろ」

『……その鉄格子に手をついて、よく牢屋の中を見てみてくれ。大丈夫、危なくはない』

「はあ? いや、だから牢屋の中に何があるかを教えろって――」

『いいから』

「……本当に、危なくないんだろうな?」


 お兄ちゃんがそう尋ねると、アタルさんはゆっくりと頷きました。

 それを確認すると、次にお兄ちゃんは牢屋に近づいていき、鉄格子を掴んで中を覗きます。


 ヒュー……ヒュー……――

 ヒュー……ヒュー……――


 その間も、この不規則な風音が止む気配はありません。

 そして――


「お、おい……イヴ、おまえも見てみろ……!」

「へ? なにかあるの?」

「いいから……!」


 なんなんでしょう、このふたりは。

 そんなに他人を焦らして、なにが楽しいのでしょうか。

 私はおそるおそる鉄格子に手をかけ、その薄ぐら闇に目を凝らします。


「……人?」


 かなり大柄の男性が項垂れていて、女の子座りで……女の子?

 そういえば聞いた事があります。男性は普通、女の子座りはできないと。

 ということは、あの大柄な人は男性ではなく、女性ということになるのでしょうか。

 女性は苦しそうに肩を大きく上下させており、その度にあの風音が――


「あれ?」


 よく見ると、肩が……肩から先、腕がありません。それも両方。

 しかも、ずっと前から無かったというより、つい最近切り落とされたような――


「ちがう……」


 そうじゃない。

 たしかに(そこ)も重要ですが、今見るべきはそこじゃない。

 あれは……あの髪型は、あの顔は……あの御方は――


「アルベリック……様……?」


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