閑話 魔法について ①
「そういえばアタルさんが言っていた〝だあと〟とか〝まるくと〟ってどういう意味なんですか?」
「あれは魔法の階級だな」
「階級……じゃあ騎士で言うところの団長や一般団員、騎士見習い、騎士見習い(仮)みたいな感じですか?」
「そうだ。ちなみに魔法はその威力や危険性から11の階級に分けられている」
「え、11もあるんですか?」
「ああ。上から順にダアト、ケテル、コクマー、ビナー、ゲブラー、ケセド、ティファレト、ネツァク、ホド、イェソド、マルクトの11階級だ」
「うわ……似たような名前ばかりで、なんというか覚えづらいですね」
「まぁ、それほど魔法の種類が多いってことだな」
「そうなんですね。ちなみにアタルさんはそれらの魔法は全部覚えてあるんですか?」
「いや、さすがに全部は無理だな。けどまぁ大体の魔法は覚えてるぞ」
「へえ、そうなんですか」
「基本的な魔法からド派手な魔法や格好いい魔法、便利な魔法は網羅してる」
「でもそのわりに、ラファヤ様の魔法はすぐに記憶にないとかって断言してましたよね?」
「それについてはもう言ったと思うが、〝見えない斬撃を遠方から飛ばす魔法〟なんて便利な魔法、俺が見落とすはずがないからな」
「な、なるほど……」
「結果的にあれはあいつオリジナルの複合魔法だったしな。……とはいえ、11階級あると言っても、大まかに分類すると魔法の性質は二種類しかない」
「あれ、そうなんですか?」
「ああ。ひとつは、自分の中にある魔力をリソースとして魔法を生成するもの。もうひとつは、目に見えない大気中の精霊の力を借り、魔法を生成するもの」
「じゃああの火や水の玉は……」
「前者だな。後者はおまえの前ではまだ使った事はないが、精霊に語りかけて魔力をわけてもらうって魔法だ」
「あ、それなら知ってます。たしか詠唱魔法っていうんでしたっけ?」
「そうだ。よく知ってるな」
「えへへ」
「とはいっても、じつは前者も後者もやろうと思えばその手段は選べるんだよ」
「どういうことですか?」
「例えばイヴが言っていた火の玉を出す魔法、火球は詠唱して使うことも出来る。逆に俺がラファヤの前で詠唱して失敗してた土壁を作り出す魔法も詠唱をしないこと……専門的な言葉で不詠って言うんだが、それで使用することも出来る」
「へー、じゃあその差ってべつにあってないようなものなんですか?」
「乱暴な言い方をするとそうなるな。ただもちろん、詠唱魔法と不詠にはそれぞれメリットとデメリットがある」
「それは?」
「さっきも言ったように、詠唱というのは精霊に語りかけて魔力をわけてもらう過程のことを差す。つまり、不詠と比べて魔力消費をかなり抑えることが出来るんだ」
「ああ、なるほどですね。……あれ? でも、それだったら不詠にはどんなメリットがあるんですか? 魔力の消費量を抑えられるんでしたら、詠唱したほうがいいですよね?」
「色々あるが、不詠の一番のメリットはやっぱり、詠唱しないでいいってところだな」
「どういうことですか?」
「魔法って、普段どういう時によく使うと思う?」
「えっと……普段の暮らしを楽にしたりとか?」
「まぁ、それもあるが、この場合は戦闘面だな」
「戦闘面……」
「魔法ひとつ発動させるためにいちいち長い文言をペチャクチャペチャクチャと並びたてるより、すぐにパッと使えたほうがいいだろ?」
「そうなんですか?」
「まぁ、イヴにはまだわからんかもしれんが、戦闘ってのは速さがモノを言う。詠唱を短縮できるってのは、それだけでかなりのアドバンテージになるんだ」
「そういうものなんですね……」
「あとメリットといえば、詠唱すれば、相手が魔法に詳しいやつとかだったら事前に何を使うかバレてしまうことだな」
「あ、それはたしかにイヤですね」
「だろ?」
「はい。そう考えると不詠が出来るか出来ないかで大きく戦況が変わりそうですね」
「その通り。だからそのぶん不詠を使うには、自分の魔力量を常に把握しておかなければならない」
「つまり不詠は上級者向けの技……ということですか?」
「ああ、その認識で大体合ってる。あと、どの魔法を不詠で使うかによって、その魔法使いの力量を計れる大きな指標にもなる」
「なるほど。魔法使いにも色々あるんですね……」
「だが、ひとつだけ例外もある」
「例外……ですか?」
「イヴもよく耳にした魔法だと思うが、最上級の魔法は精霊から魔力を借りることが出来ないんだよ」
「ダアトって、アタルさんがずっと使ったって言って憚らないあの……?」
「だいぶ言い方にトゲを感じるが、その炉心溶融がそうだ」
「ですが、なんで炉心溶融は精霊から力を借りれないんですか? ていうかそもそも、精霊って何なんですか?」
「精霊は現象だな。俺のいた世界だとつい生物っぽいものを想像してしまいがちになるが、その実態は物に近い」
「モノ……ですか」
「空気や水に近しいもの……というより、ほとんどそのものだな」
「なる……ほど?」
「空気がなければ呼吸ができない。水がなければ喉を潤せられない。精霊がいなければ……」
「魔法が使えない?」
「そうだ」
「じゃあ……つまり、魔力みたいなものですか?」
「厳密に言うと違うが、まぁ一緒くたに考えても問題はない」
「あ、わかりました! じゃあダアト級の魔法が不詠で使えないのは、精霊から借りる魔力だけでは賄えないからじゃないですか?」
「その通りだ。ダアト級の魔法は膨大な魔力を必要とする。だが、そんな魔力を賄える精霊なんて存在しないんだよ」
「ならつまり、ダアト級の魔法を使うには自分自身が持っている魔力を使うしかなくて、そんな膨大な魔力を内に秘めている存在も滅多にいない……だから、ラファヤ様が即座に飛んできたんですね」
「お、なかなか冴えてるじゃねえか」
「……でも、そうなってくるとやっぱりひとつ疑問がわいてきますよね」
「疑問?」
「はい。あの森を焼いた魔法……炉心溶融は本当にアタルさんが使ったのかどうかですよ」
「いやいや! さすがにそれは俺が使ったに……」
「使ったに?」
「決まっている……と思いたい」
「なんというか、だんだん断言できなくなってきましたね」
「でもなぁ、あの状況で俺以外に使えるようなやつっていないだろ?」
「それは……たしかにそうですけど」
「たしかラファヤの話だと、現在この世界で炉心溶融を使える存在って天使3柱と魔王1体、あとはもう死んだ人間と死んだ魔王だけだったろ?」
「よく覚えてましたね」
「仮にあの場にそれっぽいやつがいたとして、あのラファヤがそれを見逃すと思うか?」
「……その可能性は限りなく低いですね」
「だよな」
「とすれば、ラファヤ様……天使の皆々様でも把握されていない使い手が……って、そっちのほうが可能性は低いですよね」
「だろ?」
「なら、アタルさんが使った魔法はじつは炉心溶融じゃなかったとか?」
「仮に炉心溶融じゃなかったとして、それに引き寄せられたラファヤやアズモディアスはただの勘違いしたマヌケってことになるな」
「……なさそうですね」
「だからあの炉心溶融は俺が使った!」
「うーん……」
「……と思いたい」
「そこはやっぱり断言はできないんですね……」




