8話 【俺】と魔力の暴走
ガバァッ!
俺は覆いかぶさっていた泥土を取っ払い、根性で立ち上がる。
思っていた以上の強風に倒れてしまいそうになるが、なんとか片脚でバランスをとる。
正直、痛みはある。
しかし切り落とされた時と比べて、まだ我慢できる程度の痛みだ。
絶え間なくかけ続けていた治癒魔法が今になって効いてきたのだろう。
「……さて」
俺の考えが正しければ、ラファヤは既に俺の位置がわかっているはず。
俺のほうも言わずもがなだ。
あんな大声でがなり立てていれば、否が応でもどこにいるか目星は付く。
俺はゆっくりと視線を動かしていくと――
ちょうどラファヤの視線とかち合った。
このままラファヤ爆散大作戦を始めても構わないが、
相手はあくまでこの世界における大天使様。
最低限の礼節……つまり、挨拶は必要なのである。
俺は泥まみれの唇を泥まみれの腕で拭い、思い切り肺に息を取り込む。
「やあやあ! 我こそは――」
「ブッ殺ォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!」
「いきなりかよ!?」
俺が口上を言い終えるよりも前に、天使の雄叫びに掻き消される。
『アタルさん、魔法が飛んできます!』
「だろうな! 数と方向は!」
『数は3つ! 左右上部から湾曲して抉るように!
あと、そのふたつとすこし遅れて、正面から!』
「……上手いな」
直線ではなくあえて湾曲させることによって俺の視線を上部へ逸らし、
前後に避けたところを視界外から、まっすぐ最短距離を飛んできた魔法で攻撃する。
先ほどまでとは違い、前提条件として、
俺に魔法が視認できているものとして、その攻撃方法を変えてきている。
だが、それはあくまで俺が見ていることを想定した攻撃だ。
実際見ているのは、ここから少し離れたところにいるイヴ。
俺はあえてイヴを遠くに配置することによって、イヴが全体の動きを把握しやすくした。
あとはイヴから出される指示に従って、ラファヤの魔法を避けるだけ。
それはつまり、今から行う作戦の成否はイヴの手腕に依るところが大きいということ。
『左右どちらでもいいので、斜め後ろへ跳んでください!』
「あいよ!」
とはいえ片脚での跳躍は現状厳しい。
俺は全身をバネのように使い、倒れ込むように後方へと跳んだ。
――ザンッ!!
次の瞬間、俺が立っていた地面にクロスの裂け目が入る。
相変わらず感知こそできなかったものの、その裂け目の深さを見るに殺意はマシマシ。
ラファヤは確実に俺の息の根を止めようとして魔法を放っている。
それを感じとった途端、背筋にぞくぞくと悪寒が走り、
口内から一滴残らず水分が消し飛ぶのを感じた。
現在進行形で俺を殺しにきている。
改めてその事実を突きつけられる。
あの気味の悪い一団や、鎧の大男の時とは比べ物にならないプレッシャーを、
殺意を、俺はこの肌に、脳に感じて意識が遠のきそうになる。
「すぅ……――ふぅ……っ!」
大きく息を吸い、短く息を吐く。
改めて吸い込んだ冷たい空気が肺から血管へ伝わり、
痛みと興奮で火照った体が徐々に冷えていくのを感じる。
風は、いつの間にかぴたりと止んでいた。
「……さて」
「あ?」
「まだ続けますか、ラファヤ様」
「んだと……?」
「俺にはあなたの攻撃は全部見えています。今みたいに躱すのなんてわけない」
「……のわりに今のテメェがテンパって見えるのは気のせいかぁ? ああ?」
気のせいじゃないです。
必死にポーカーフェイスをはりつけてるだけっす。
本当は今すぐここから逃げ出したいです。……けど――
「まさか! あの話に聞く伝説の大天使様の攻撃が、
こんなにもお粗末なものだったなんてって、引いてるだけですよ!」
ここでラファヤ爆散大作戦その1。
とにかくヤツの神経を逆なでる。
それには何としても弱みだけは見せてはいけない。
平静を装わなければいけない。
「……あ? 今なんつったコラ」
「ですから――」
『アタルさん! 前か後ろへ一歩分移動してください! 上から垂直にひとつ来ます!』
まじかよ。今度は予兆もなしじゃねえか。
会話中に攻撃してくるなんて油断も隙もあったもんじゃない。
俺はイヴの言う通り一歩前へちょこんと跳び、攻撃を避けた。
「チィッ……!」
かなり……いや、ほんの少しビビりはしたが、
結果としてラファヤを怒らせたので良しとしよう。
「……ほ、ほらね? こんなふうに避けられちゃうんですよ。
そんなのいくら試行錯誤しようが、俺には当たりませんってば」
ちらりとラファヤの表情を窺うが、ヤツは依然眉間に皺を寄せているだけ。
まだまだ煽りが足りないようだ。
「ていうかね、やることがセコいんですよ。複合魔法ですよね、これ」
複合魔法。
読んで字のごとく、ふたつ以上の魔法を同時に使用する魔法。
今回の場合は――
「高魔力塊の生成及び……風魔法」
意識高そうな身振り手振りを加え、わざと衒学的に言ってウザそうに振舞ってみる。
「高魔力塊とは高濃度の魔力が、ある一定の場所に溜まって結晶化したもの。
形状は完全にランダムで、人工的に作り出すことはほぼ不可能……だと思っていました」
だが、どういうわけかラファヤはこれを任意で作り出すことが出来、
その色も形も自由自在に変えることが出来る。
「誤解されがちですが、本来風には物体を切断するような力はありません。
風の魔法で相手に裂傷を与えたい場合は、石や砂などの周辺の環境を利用するのが定石。
しかしラファヤ様――いや、ラファヤはそれらを使う素振りを見せなかった。
だから当初、俺はおまえが何の魔法を使っているのかわからなかった……」
内心いつキレるのかドキドキしながらタメ口をきいてるが、
当の本人はそこまで気にする様子はない。
「じゃあ、なぜ俺様の魔法がそのふたつだと?」
きっかけはイヴの持つ特色と、やはり風だった。
しかし、これはあえて言わない。
わざわざ自分の手の内を明かす必要はないからな。
「おまえの視界を奪ってもなお、ピンポイントで俺の脚を切り落としたからだ」
「……チッ」
「あの時、ほんの数秒だったが、おまえには何も見えていない時間があった。
俺はその数秒の間に草木の残っているほうへ逃げ、態勢を立て直そうと考えていた。
だが、それは出来なかった。あまりにもおまえが攻勢に転ずるのが速すぎたからな。
だから俺は必死に考えた。泥土にまみれながらな」
「泥土……そうか、だからテメェは……」
「そうだ。おまえはあの時、目で物を見ていたんじゃない。
魔力を込めた風を吹かせ、超音波のようにして物を視ていたんだ。
結果として気づくのが遅くなったが、おまえが何かするたび風は吹いていた」
「……ケッ、わざわざ口に出して説明か? つか今さら気づいたのかよ、俺様の魔法に」
「ああ、いえ……」
俺はわざと鼻を鳴らすと相手を小馬鹿にするように目を細め、
顎をすこしあげて右手を腰にあてた。
「ご自身が使っている魔法を、あまり理解できているようには思えなかったので」
「あ?」
「そのうえでもっと効果的に、効率的に魔法を使えるよう提案しようかと」
「提案だあ? これからテメェを殺すヤツにか? 頭沸いてんのか?」
「は?」
わざと虚を突かれたように目を丸くさせ――
「……っぷ」
堪え切れず笑ってしまった風を装い、畳み掛ける。
「いえいえ、死ぬのは――」
ピッと俺はラファヤをまっすぐに指さした。
……どうやら酒も飲んでいないのに楽しくなってきたらしい。
遠くのほうからイヴの『ひゃー……』という声が聞こえてくる。
実際、ラファヤがどこまで本気でキレているのかはわからない。
はたして今も演技なのか素なのか、どうにも判断しかねる。
だが、今まで自分が見下してきた〝人間〟に、
ここまでコケにされて怒らんヤツはいないだろう。
それに、たとえ演技とはいえ、俺の挑発にさえ乗ってくれればそれでいい。
「あなたも、無能のレッテルを貼られたまま死ぬのは嫌でしょう?」
「て、テメェ……!」
「たとえばほら、回避するのが不可能なくらい大きな高魔力塊を作るとか、
ほかにも回避するのを諦めてしまうほどの数の高魔力塊を作るとか――」
「だったら! 望みどおりにしてやらあ!!」
突如、立っているのが困難なほどの風が吹き荒れる。
それも縦横無尽にではなく、ラファヤを中心にまるで台風のように回っている。
『アタルさん!!』
「……ああ。報告を頼む」
『数は……どんどん増えていきます! 大きさも今まで以上に大きい……!
形状も板状ではなく、あれはもはや……大きな塊です!』
「わかった。続きを頼む」
『色はほぼ黒。場所はラファヤ様の頭上……』
「逃げ場は?」
『おそらくありません。こんなのまともに受ければひとたまりもないです。
そして……ここまでは、アタルさんの読み通りです』
そう、ここまでは作戦通り。
そして、ここからが真の正念場だ。
俺は右手を銃に見立ててその指先をラファヤの頭上へと向ける。
あえて言及するまでもないが、何もごっこ遊びをしているわけじゃない。
こうすることで、弾がより速く、正確に飛びやすくなるのだ。
俺は鼻からめいいっぱい空気を吸い込み、肺に留めた。
「いくぞ……水球!」
指先から勢いよく射出された水の弾はラファヤの頭上で弾けた。
ラファヤ爆散大作戦その2。
とにかく大量の水をあいつの生成した魔力塊に当てる。
「……あ?」
「水球! 水球! 水……球ッ!」
バシュッ! バシュッ! バシュッ!
水の玉を散弾のように連射する。
「ヒャハハハハハ! どこ狙ってンだテメェ!? 全然当たってねえぞコラ!」
そりゃおまえに当てるつもりはないからな。無視だ無視。
それに俺は今あいつに意識を割いている余裕はない。
とにかく正確に、ひとつでも多く水の弾を射出することに集中しなければ。
「……うっ?!」
10発撃ち終わったところで強烈な眠気に襲われる。
これに関しては想定していたのよりかなり早い。
思っていた以上に俺の精神とイヴの体が消耗しているのだろう。
「なんだあ? んなカス魔法数発撃っただけでもうキツくなってやがンのか?
体力足りてねンじゃねえのォ?」
「水球……!」
一転、ケタケタと俺をからかうように嗤うラファヤ。
しかし俺はただ根性で魔法を唱え続ける。
「そもそもそんなモン当てたところで俺様には毛ほども効かねえがなあ!!」
「水球! 水球!」
全身が怠い。
目が霞む。
和らいでいた脚の痛みがぶり返してくる。
まるで水の弾と共に自分の命をちぎっては射出しているようだ。
一発、一発。
俺の命の欠片とも呼べる魔法をラファヤの頭上にぶち込んでいく。
『あ、アタルさん! 鼻血が……!』
イヴに言われてはじめて鼻孔から顎へ、生暖かい液体が伝っている事に気が付く。
まったくこの異世界はどうなってんだ!
最初はこんなことになるなんて、まるで思っていなかった。
もっと順風満帆というか、鎧袖一触で並み居る強敵を次々なぎ倒していくつもりだった。
それどころか、こっちに来てからまだ良い事がひとつも起きていない。
そもそもの話、この短期間に二度も命を狙われている。
そんで二度、死にかけてる。
二度もだぞ!?
ふざけんじゃねえ、バーカ!
俺だってここに来るまでに色々な魔法を、死ぬ思いで勉強して習得したんだ!
それもこれも、転生先の現地民からチヤホヤされる為にだ!
暴漢に襲われている美少女を颯爽と助けたり、
悪徳奴隷商から不当な扱いを受けている奴隷美少女を解放したり、
一国が手を焼くような魔物を倒して褒美に国王から美少女王女を嫁に貰ったり、
あとになってその魔物が美少女になって俺のパーティに加わってきたり――
「ぞう゛い゛う゛ごどがじだがッだ!」
『アタルさん!?』
それなのに! あの天使!
どう見ても俺より強ぇじゃねえか!
いや違う! あんなのが俺よりも強いはずがねえ!
そもそもなんか俺、今しょっぺえ魔法しか使えねえし!
マジで意味わかんねえ!
こんなんでまともに戦えるわけねえだろ! いい加減にしろ!
『あ、アタルさん! もういいです! もう満たされてますから!!』
「……わ゛がッだ」
さあ、少々取り乱してしまったが、ラファヤ爆散大作戦の詰めだ。
俺だって、ただ無策でヤツの頭上に水を放ち続けていたワケじゃない。
もちろん狙いはある。それは――
「魔力……暴走……」
息も絶え絶え。
だが、この話はラファヤにも聞いてもらわなければならない。
俺はなるべくラファヤに注意を向けつつ、ゆっくりと呼吸をはじめた。
「あ?」
「……それについてはラファヤ様もご存じでしょう」
魔力暴走とは、端的に言ってしまえば爆発だ。
一か所に留まった魔力が一定量を超えたとき、それは炸裂する。
ただその威力はすさまじく、俺もそれにだけは注意しろと口酸っぱく教えられた。
「私が今まで狂ったようにあなたに水魔法を放ち続けていたのは、
それを引き起こすことが目的だったのです」
「はあ? あのカス魔法でか?
あんなん何千、何万と撃っても暴走なんて起きねえよバカが!」
「はい。ですので私が目をつけさせていただいたのは自分の魔法ではなく、
挑発に乗ったあなたが生成するであろう超高魔力塊でした」
高魔力塊というのは高濃度の魔力がある一定の場所に溜まって結晶化したもの。
しかし、そもそも魔力という物は一般的な物質とは違い、秩序という概念が存在しない。
ゆえに魔力は一定の場所に留まったりはせず、常に変容を繰り返している。
要するに、放っておいても滅多な事では結晶化したりしないのだ。
だからこそ俺は人工的に魔力塊を作ることは不可能だと言った。
しかし、実際ラファヤはこれをやってのけている。
ならそこには何かしらの再現性があるはずだと俺は考えた。
そしてその答えは風だった。
不安定な魔力という物を自身の風魔法で包み、無理矢理その場に留まらせた。
例えるなら風船。
あいつは風魔法という名のゴムで、魔力という名の空気を包んだのだ。
さらに言えば、風船は中から膨らむ力には強いが、外から加えられる力には弱い。
「ご覧ください」
ラファヤの頭上を指して視線を俺から逸らす。
その間に俺は火球を出現させた。
水晶玉くらいのサイズから虎の子の魔力を加え、次第に大きくさせていく。
「こいつぁ――」
一方、ラファヤが見上げた視線の先、
そこには大量の水の塊が宙にプカプカと浮いていた。
「あなたが俺の口車に乗せられて俺を消し飛ばす為に作った魔法は、
今、この瞬間を以て、あなたを消し飛ばす爆弾になったのです」
「テメェの狙いは……ハナからこいつか……!」
俺はただ黙ってさきほど唱えた火球をラファヤに向ける。
既にその大きさは大玉サイズ。
正直、既に限界を超えている為、
誇張でもなんでもなく脳の神経は焼き切れそうになっている。
眼球は沸騰するほどに熱く、呼吸するだけで肺が焼きただれそうになる。
だが、俺は震える腕で、指で、しっかりとラファヤの頭上を狙った。
そして放つ。
出し切った。出し尽くした。
急に視線がぐらんと揺れ、俺は前のめりに倒れているのだと理解する。
もう俺には力という力は残っていない。
「また火と水とぶつけて水蒸気爆発を起こして魔力暴走ってか!? あめェンだよ!」
俺が地面に倒れ込む刹那、ラファヤは上から下へ腕を振り下ろし、
ロウソクの火でも吹き消すように巨大な火の玉は霧散してしまった。
「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハァ!
最後の最後で気ぃ抜いたなァ! 俺が同時に魔法を使えないとでも――」
「ああ……よかった……」
「……あ?」
これで成功だ。
『お疲れ様でした。アタルさん』
どこからともなく聞こえてくるイヴの声。
イヴには悪いが、今の俺には感謝を述べる気力すら残っていない。
泥沼の中をゆっくり沈んでいくような、この虚脱感すら心地よく感じる。
――ズン――
突如、瞼を閉じ切っていたはずなのに視界全てが白く塗りつぶされる。
結局ラファヤ爆散大作戦は成功したのか、失敗してしまったのか。
それを確認する間もなく、俺の意識は、
混濁する金色の奔流の中へと堕ちていった。
◆◇◆
目が覚めるとそこには満点の星空。
ここは天国なのだろうか。
あいにく俺は気を失う前のことは鮮明に覚えている。
だからこそ、現状というか――
「おお、気が付いたっスか?」
若い……女性……の声?
なんだ?
今まで聞いたことのない声だ。
イヴの声でもラファヤの声でも、ましてや俺の声でもない。
しかし、あの場には他に誰もいなかったはずだ。
モゾモゾ。
ガサゴソ。
なにかよくわからない音が聞こえたと思うと、突然それは現れた。
「おはよっス」
冗談みたいにぶ厚い牛乳瓶の底のような眼鏡。
水牛のような、綿羊のような……左右が非対称な立派な角。
健康的で艶のある青い肌に、瑞々しい白い髪。
ニヤリと不敵に吊り上がった口角。
およそ人には思えないような顔が、俺の視界に現れた。
俺は急いで上体を起こすが――
ゴチン!!
当然といえば当然。
お約束といえばお約束だが、俺はその女性と派手に頭をぶつけてしまった。
なんて硬さだ。まるでコンクリである。
瞼は開いているのに、急に目の前が真っ暗闇だ。
おまけにパチパチと目の中で火花も散っている。
「あいっ!? ……たたたた……!」
俺は頭をおさえながらなんとなく女性のほうを向く。
次第に火花が収まっていき、視界がクリアになってくる。
「あははー……えっと、だいじょぶっスか、頭?」
文字面だけを見ると煽られているようにも見えるが、
どうやら本当に俺のことを心配しているようだった。
それにしても、当の本人に痛がる様子は微塵もない。
あんなに勢いよくぶつかったのに。
「あ、ああ……これくらい問題ない……さ……」
「めちゃ涙目っスけど……」
「死ぬほど痛いが深刻な問題はないって意味だ」
「ほほう、そりゃよかったっス」
「……あんたこそ大丈夫なのか?」
「なにが?」
本人にとぼけている様子はない。
まるで今まで心配などされたことがないような反応に、俺はそれ以上追及しなかった。
「そ、そうか……で、あんたは?」
「はて? あたしを知らないんスか?」
「えっと……もしかして有名人か何か?」
顔立ちは人間に近いが、どう見てもそれ以外の要素が人間じゃないのはわかる。
塗料を塗っているとかじゃなくナチュラルに肌が青いうえに、角にも妙な迫力がある。
そして物腰や言動は軽薄だが、なんとなく大物っぽいのもわかる。
だが、あいにく俺はこの世界についての知識を持ち合わせていない。
そもそも俺、結局あのあとどうなったんだ?
死んだのか? それでまたべつの世界に転生してきた……とか?
「ふぅむ……ここ田舎だし、
そもそもここ100年くらい人間と会ってないし、
知られてないのも無理はない……かな?」
「田舎……? 人間……? 100年……?」
何を急にぶつぶつ言っているんだ、こいつは。
「ま、いっか。じゃあ自己紹介でもするっス」
女性はスッと立ち上がると、自身の胸に手をあて、ふふんと自慢げに鼻を鳴らした。
てか今気づいたが、なんでこいつ上下グレーのスウェットを着ているんだ。
もしかしてここは現実世界で、こいつはよく出来たコスプ――
「我が名は魔王アズモディアス」
「……は?」
「色を司る魔王にして、人魔を束ねる夢魔の総大将である」




