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ライラックの魔法  作者: ことう
第一章 一年生一学期編
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魔法学校編入試験Ⅲ




「アストリウム」


 エテルノがそう唱える。すると彼が手にしていた杖の先に巨大な魔法陣が現れ、そこから勢いよく炎が噴き出した。


 それを真正面から浴びた魔物は瞬時に燃え上がり、腹の底から響くような大声で痛みに悶える。だが炎は収まることなく魔物を焼き続け、やがて魔物の身体は灰となって消えてしまった。


 後に残されたのは、真ん中にアクアマリンがはめ込まれたペンダントだ。先ほどの魔物が身につけていたもので、シャーロットがそれを拾い上げた。


「これで六個目か……思ったより難しくないね、この試験」

「エテルノが強すぎるからなー。まあお前も一撃で倒してたけど」


 アレスが肩をすくめてそう言った。カインも「二人が怖すぎる……」とビビっている。


 そう。実は莉羅が思っていた以上に、このグループの前衛は強かった。


 戦闘経験が一応ある、と答えたエテルノは、魔物が現れた瞬間誰よりも速く魔法で魔物を倒した。何度もド派手で強そうな魔法をぶっ放し、莉羅やカインが補助する間もなく相手を塵にしてしまう。


 そしてシャーロットはと言えば、こちらもとてつもない反応速度で魔物に迫り、悲鳴すら上げさせないほどの速さでみじん切りみたく魔物の身体を切り刻んだ。もちろん、こちらも莉羅とカインの補助なしで行った所業である。


 アレスとカンパヌラも魔物の気配をいち早く感知し、シャーロットとエテルノにそれを伝えることでアクセ集めに貢献している。


 だが、莉羅とカインは未だに手伝いらしい手伝いが出来ていなかった。いや、カインは魔物が放ったシャーロットとエテルノへの攻撃を何度か魔法で防いでいたから、実質何もしていないのは莉羅だけだ。


 まずいな、と莉羅は珍しく焦っていた。このままでは足手まといとして途中で見捨てられてしまうかもしれない。なんとしても編入試験に合格したい莉羅にとって、それは最も避けたいルートであった。


 一体何をすれば役に立てるのか……と考え出した時、ふと莉羅は先ほどの先生の言葉を思い出した。


『そして、総合点が高かった上位グループ六組を、今年の編入試験合格者とする』


 一見すると普通の言葉に聞こえるが、莉羅はなんとも言えない違和感を感じていた。その違和感とはなんなのか、これが分かればもしかしたら何か有益な情報が手に入るかもしれない。


 再び莉羅が思考の海に沈んだ時、アレスのそばにぴったりとくっついていたカンパヌラが突然威嚇を始めた。


「……来るぞ」


 アレスが辺りに視線を巡らせる。シャーロットとエテルノも、いつ敵が来てもいいようにとそれぞれ武器を構えた。


 しばらくの静寂の後――アレスが不意に空を見上げて叫んだ。


「上だ、防御魔法を張れ!!」


 瞬時に防御壁が莉羅たちの周囲と頭上に張り巡らされる。カインが咄嗟に発動させたようだ。


 莉羅が見上げると、たしかに上空から何か大きなものが落下してきて――莉羅たちのすぐそばに、轟音とともに着地した。


「うわっ」


 木々を抉るかのような強風が吹き荒れ、莉羅は反射的に目を瞑った。防御壁のおかげで吹き飛ばされることはないが、なんとなく目を閉じずにはいられなかったのだ。


 土煙が晴れ、莉羅たちの前方に姿を現したのは、先ほどから何度も遭遇している、額に双角を生やした魔物だった。それは地面にうずくまったまま、鋭い瞳で周囲を見回している。警戒しているのだろうか。


「……おかしいな。あいつ中級魔物だよ」


 エテルノが杖を握ったままそう呟いた。それにシャーロットが「中級?」と反応する。


「でも先生は低級魔物しかいないって言ってたけど」

「種族自体はたしかに低級だ。でも稀に、ああいうちょっと強い奴もいるんだよ」


 その時、ようやく魔物が莉羅たちの存在に気づいた。瞳孔をぎゅう、と細め、ゆっくりと立ち上がる。


 相手から殺意を感じ取った莉羅たちは、無言で臨戦態勢に入った。


「カインはそのまま防御魔法を続けて」

「あ、は、はいっ」


 シャーロットが鈍色に輝く剣を構え、勢いよく魔物に向かって走り込んだ。加速する魔法でも使っているのだろうか、目にも止まらぬスピードだ。


 一瞬で魔物の懐に入ったシャーロットは、相手に反応する隙を与えず、その右腕に刃を振り下ろした。


「く……っ!」


 斬れた、と莉羅は思ったが、シャーロットの剣は、腕を少し裂いたところで止まってしまった。よほど魔物の身体が強靭らしい。


 その時、魔物がシャーロットに向かってもう片方の腕を振り上げた。彼女が剣を魔物に刺したまま後退した直後、魔物の拳が地面を抉る。


「左に避けろ、シャーロット!」


 エテルノが杖を構えながら叫んだ。すぐに彼の意図を読んだシャーロットは、こちらを振り返らないまま左に飛び退く。


「――ベルシオン」


 エテルノが呪文を唱えた瞬間、現れた白色の魔法陣から巨大な氷塊がいくつも飛び出し、瞬く間に魔物の頑強な身体を貫いた。


 断末魔の叫びを上げながら、魔物の身体が粉々に砕かれていく。原理は分からないが、魔物は倒されると跡形もなく消えてしまうのだ。


「……」


 散り散りになった魔物が全て風にさらわれると、先ほどまで魔物がいた場所に腕輪らしきものが残されていた。


 一番近かったシャーロットがそれを拾う。その表情はみるみるうちに困惑していき、莉羅たちはどうしたんだろう、と顔を見合わせながら彼女のもとへ向かった。


「どうしたの」


 エテルノが尋ねると、シャーロットが眉をひそめながら、手にしていた腕輪を莉羅たちに見せてくれた。


「――これ、エメラルドだ」



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