魔法学校編入試験Ⅱ
「まずは作戦を立てようか」
周りに誰もいないことを確認すると、青い瞳の少女が莉羅たちにそう言った。
「無計画で魔物に立ち向かうのは危険だ。ある程度戦法を考えてから行くべきだと思う」
「そうだな」
「うん」
「い、いいと思います」
「……」
他の三人がうなずいている間、莉羅は魔物ってなんぞや、とひたすら首をひねっていた。どんな姿かはもちろん、どのくらい危険なのかすら分からない。
が、明らかに魔物の存在をよく知っている四人に「魔物って何~?」なんて間抜けた質問が出来るわけがない。ここは知ってるフリで行こう、と莉羅はこっそりと決意した。
「みんなはどんな魔法が使えるの? それくらいは把握したいんだけど。……あ、私の名前はシャーロットね。魔法じゃないけど剣術が得意」
青い瞳の少女――もといシャーロットが莉羅たちを見回してそう言う。会話の主導権は彼女が握ったようだ。
まず最初に声を上げたのは、始めからシャーロットと組んでいた赤い瞳の少年だった。
「俺はアレス。召喚魔法が使えるぜ。相棒はこいつだ」
アレスが背後を親指でさした直後、親指の先に赤色の魔法陣が展開され、まばゆい光とともに黒い豹が顕現した。
同時にアレスの隣にいた茶色の瞳の少年が「ひっ」と震え上がり、何歩か莉羅の方へ後ずさる。怖かったらしい。
「こいつカンパヌラって言うんだけど、魔力探索が得意なんだ。だから索敵はこいつに任せとけ」
アレスがカンパヌラを撫でながら自信満々に言う。一人と一匹はすっかり仲がいいようで、カンパヌラも頭をアレスの足に擦り付けていた。
「じゃあ次は……『エルフ』の君で」
シャーロットが緑眼の少年を見ると、彼はなんの感情も読み取れない顔で淡々と説明を始めた。
「エテルノ。シャーロットの言う通り『エルフ』の生き残りだ。中級魔法までなら全属性使えるよ」
「……おお」
よく分からないが、『全属性使える』ということは結構強い魔術師なんだろう。魔法ものはあまり読んでこなかった莉羅だが、さすがに『エルフ』や『属性』といった言葉は知っていた。
「それじゃあ次はカインね」
「えっ」
カイン、と呼ばれた茶色の瞳の少年は、身体を縮めながらもゆっくりと口を開いた。
「え、えっと……カインです。防御魔法はそれなりに出来るけど、他はあんま得意じゃないです……」
こちらは後衛タイプの魔法だ。多分バリアを張るやつなんだろうな、と莉羅は昔やっていたRPG風ゲームをふと思い出した。
「最後は君だね」
シャーロットがこちらを向いたので、莉羅は一度頭を下げてから自己紹介を始めた。
「リラです。基礎魔法は一通り出来るけど、他の魔法は知らないから無理です」
「……そっか。ならリラもカインと同じ後衛かな」
シャーロットがそう呟いたので、「そうなるね」とうなずいておく。莉羅に戦闘経験なんてあるわけがないので、前衛だけはとにかく避けたかった。だから後衛に回れるのは本当に幸いだ。
「じゃあ前衛は私とエテルノが担当して、カインとリラが後衛で私たちの補助。アレスは魔物の探知をよろしくね」
「おう」
アレスがぐっと親指を突き立てたのを確認すると、シャーロットはくるっと後ろを振り返った。
「担当は決まったし、早速行こうか。ちなみにエテルノは魔物との戦闘経験ある?」
「一応」
「ならよし」
エテルノの答えに、シャーロットが満足げにうなずく。
こうして――莉羅は四人の仲間とともに、魔物討伐という編入試験に挑んだ。