幕間 組織
「よう、マルコ! どうだった……ってその様子だと失敗らしいな! 珍しいなあっはっは!」
アーマルコライトが前もってとある目立たない場所に設置しておいた転移用の大きな魔道具でザステルスの本部へ帰ってくると、ちょうど同期であるキラだけが広い部屋で本を読んでいた。
キラはアーマルコライトが剣を握っていないのを見て失敗したと察する。
キラはワックスか何かで妙にきれいにとがった金髪を持つ、身長百八十センチほどの軽薄そうな青年だ。右目の中には星形が浮かんでいる。服装は白いシャツを着ていて、その胸元にはなぜか『望遠鏡!!』と書かれている。キラのお気に入りの服だ。
比較的と付くが仲のいい同期が任務に失敗したというのに笑みを崩さないキラ。それは一応、アーマルコライトが失敗したとは言えどもただでは帰ってこないだろうという信頼の証でもあった。
「情報は持ち帰ってきた……」
「そうか! どんなのか教えてくれるか?」
「クロザキたちは強力な護衛を雇ったらしい。奴の固有魔法はコピーだ……バッドビートと関連がある可能性もある」
「すごく重要な情報だな! 対策も立てやすくなるしな! 俺から上に伝えておいてやるよ!」
だが、アーマルコライトはその提案に首を振る。
「これは私の手柄だ……」
「あっはっは! まだ根に持ってるのか!? いいじゃないかあの時はお互い様だったろ! あっはっは!」
昔キラは他人の手柄をすました我が物顔で報告したことがあるので、伝言という点においてはザステルスの全メンバーから信用されていない。
さらにアーマルコライトは何かをした覚えもないので「お互い様」というのがさっぱり理解できなかった。
「いやーそれにしてもかなり負傷したな! 誰か呼んでくるぜ! おーい!」
ドタバタと奥の部屋にキラが向かって十秒ほどで、キラは一人の少女を引きずってきた。
彼女の名前はコランダム。ザステルスで一番の腕を持つ回復魔法使いだ。
長命な種族の血を引いているので幼い見た目に反してもう二百年ほど生きているのだが、体が弱いのと精神的にも子供なためザステルスのメンバーからはよくかわいがられている。本人は年長者を敬ってほしいらしいが、最近は諦めかけてきている。
いわゆるアルビノというもので、白い髪に白い肌、赤い目を持っている。服装は動きづらそうな白いドレスだ。
「あうー……なんなのじゃなんなのじゃ。レディにそんなひどい事を……」
「いいから回復してやってくれ! こいつ脇腹抉れてるぞ!」
回していた目の焦点があってくると、コランダムはアーマルコライトを見るなり目を丸くする。
「おー! マルコも負傷するのじゃな! いいぞ、回復してやろう!」
コランダムの両手から黄緑色の柔らかな光が放たれ、アーマルコライトを包み込む。その光が消え失せた頃には、大きくえぐれていた傷はきれいさっぱり無くなっていた。
「しかしなー! オパール死んじゃったしな! 命は大切にしろって言ってたのに死ぬとか先輩の言うことよく聞けっての!」
傷は治ったので一件落着と判断したらしく、キラは話題を変えた。アーマルコライトの前にクロザキ一行と戦い、死んだオパールの事だ。
ザステルスのメンバーの生死は壁に設置してあるランプで確認ができる。メンバーの名前をしゃべってからボタンを押すと、生きていれば緑、死んでいれば赤にランプが光るという特殊な魔道具である。
「奴は最初からさほど才能がなかった……それだけのことだろう」
淡白にそう言うアーマルコライトだが、コランダムは不満そうだ。
「でもやさしい人だったのじゃ。誰かさんたちと違ってクッキーもりんごもよくくれたしのう」
「オパールとしては餌付け感覚だったらしいけどな! 怪我しても優先的に治してくれるかもしれないってな! 結局意味なかったけどな!」
まんまと餌付けされていたことを知って「えっ」と固まるコランダム。もともとお菓子をたくさんくれたオパールに懐いていたのだが、打算込みだったとは。
コランダムががっくり肩を落とすと、今度はキラがクッキーを差し出す。
「やるよ! ちょうど腹いっぱいだったしな!」
「絶対なんか企んでるんじゃろ!」
「そんなわけないだろあっはっは!」
しかしやはりお菓子の欲望には抗いがたいようで、コランダムはクッキーを受け取って頬張る。キラはそれがリスに見えて吹き出してしまい、アーマルコライトはため息をついた。
「で? 武器はどうするんだ? 失くしたのか?」
「護衛の子供に消された」
面白そうに「へー! 頭いいなそいつ!」と笑顔を見せるキラ。
実は先ほどあの護衛の少年に消された紺色の剣は、アーマルコライトがつくったものをキラが魔法でいろんな効果を掛けたものであった。レベル二とか五とかもキラが面白半分でつけたものだ。
アーマルコライトは自身の『スペシャルズ』で剣を生成すると、さっそくキラがいろんな魔法をかけていく。
「レベル制度は確実に入れるだろー、あとは何があったっけ?」
「スタンガン機能とか前言ってなかったかのう?」
「あ! そうそう、それ入れたかったんだけど忘れてたんだよな! 入れよう!」
新しい紺色の剣に次々と膨大な魔力が注ぎ込まれていく。固有魔法とは言えども一瞬で具現化させた剣にこれほどの魔力を入れることができるのは、ひとえにアーマルコライトが『スペシャルズ』をうまく使いこなせているからだ。
ただただコピーしたばかりのあの猫の護衛では、ここまでのことは出来ないだろう。
しばらくすると魔法を一通りかけ終わり、アーマルコライトは奥の自室へ行ってしまう。
「じゃ、わらわも帰るとする。研究がまだ終わらないしのう……」
「バイバイ!」




