49 遺跡へいせき! なんちゃって。
「げほっ……。うぐ、ぐ……」
僕が倒れている地面に赤い血が飛び散る。僕が吐いた血だ。
ごろんと仰向けになると、すぐにそらちゃんが駆け寄ってきた。
「おねえちゃん、だいじょうぶ」
「うーん。ラグナロクを抑え込むのはちょっときつかったかな」
つぎに呆れた顔でシアンがやってくる。
「ばっかじゃないの……。あんな魔力どうやったら抑え込もうなんて考えが生まれるわけ?」
「いや、でも実際成功したし?」
なにはともあれラグナロクスラッシュ(今命名)は成功したわけだし、いちおう結果オーライである。斬りつけるのが一秒遅れていたら逆に僕が爆発していたのは秘密にしておこう。怒られそうだ。
イエローと一緒にハザードの欠片を拾っていたギルガメッシュくんが近寄ってくる。
「ね、おねえ。じょうぶつできないの?」
「ん? ……幽霊が宿ってる感じ?」
「そんなかんじ」
なるほど。
オパールや小瓶に詰められていたであろういくつかの魂が、まだ未練を残しているようだ。あれほど苦しそうな顔がハザードの表面に浮かんでいたし、成仏できていないのは当然と言える。
はてさて、成仏はどうすればいいのか。そう言った感じの魔法は覚えていないんだけど……単純な光の魔法じゃ効果はなさそうだ。
僕が悩んで首を傾げたら、シアンが横から顔を見せた。
「んー? それならお姉ちゃんが使えたはずだけど……前はシスター見習いもやってたみたいだし、簡単な鎮魂くらいできたと思うよ。おーい!」
なんとイエローができるらしい。頭がいいだけじゃなくて尊敬する。
「はいはい、除霊……じゃなくて鎮魂ね。久しぶりだからうまくできるかは分からないけど」
そらちゃんとギルガメッシュくんがハザードの欠片を地面にまとめて置き、それに向かって手から魔力をぽわーと放つイエロー。それは空中で虹のようなものに実体化し、ハザードを包み込んだ。とても綺麗だ。
「むむむ……これは相当辛かったようね」
それでもかなり手こずっているようで、イエローの顔には汗が浮かぶ。
集中を邪魔しちゃ悪いと分かっているのか、ギルガメッシュくんは視界に入らないようイエローの真後ろで珍妙なダンスを踊っていた。どうやら応援のつもりのようだ。……かわいいよ。吹き出しそうになるのをこらえる。
僕も軽くバフというか、魔法を少し強化するような魔法をかけておいた。
三分じっくり待つと、ようやくイエローの鎮魂は終わったらしい。
「おー!」
ハザードの欠片の色が変わっている!
どす黒くて血管のようなものが通っていたのが、なんと今では透き通った白い宝石に変化している。光の当たり具合では虹色にも煌くようだ。
「きれいね。頑張ったかいがあったかしら?」
小さめの欠片をひとつつまんでイエローが言う。
「これは……取っておいても不謹慎とかないかな? さすがに売っぱらうのはやめておくけど」
人が苦しんで死んだ上に成り立った物を売ってお金稼ぎする気はない。
「大丈夫じゃないかしら。魂は安らかに……って言っても私がへたっぴだからあんまり安らかではなかったけど。ともかく、マイナスの感情ばかりだったのがプラス多めに変わって成仏したわ。残留思念もたぶん少しあるけれど、魂はもう残っていないから、大丈夫だと思う」
良さそうだ。さっきのシアンの様子からしてハザードの存在もラリルくんのいた大陸ほど知られているようではないし、こんなたくさんの欠片を処分する場所もないだろう。
イエローはこぶし大の欠片をひとつもらうそうだが、シアンとそらちゃんたちはいらないらしい。そらちゃんとギルガメッシュくんに関しては、これからもずっと僕と一緒に行動するわけだからわざわざ自分で持つ必要がないと言う方が正しいか。そらちゃんはキラキラの欠片が少し気に入ったみたいだったし。
「大丈夫? 出発できる?」
「うん。もう元気だよ!」
というわけで、僕たちは最初の目的地、リグマ洞窟へ向かって歩くのだった。
「……しんぷる」
リグマ洞窟はシンプルだった。すごく。
道がしばらく続くと、いきなり山にぶつかる。その山に横穴が空いてていて、それがそのままリグマ洞窟となっているようだ。
とはいえ浅いわけでもなく、すこし地下に傾斜していて、それが僕の目でも見通せないほど奥まで続いていた。脇道というのもなさそうだから、とりあえず歩くだけのようだが。
「て言っても、最奥部ってなにかしら。リグマ洞窟は横穴がずーっと続いて急に行き止まりになるだけのはずだけど、最近新しく空間ができたのかしら?」
「隠し扉があるかも?」
シアンがそうおどけると、ギルガメッシュくんは目を輝かせる。こんな洞窟に隠し扉……あれば昔の盗賊団とかそんなのだろうか。ロマンはあるかもしれない。
「とりあえず進もうか?」
「そうね。一番奥まで行くだけよ」
僕が魔法で光の玉を生成し、ランプ代わりにする。
「わー! アップヒルのライトって明るいねー♪」
僕の頭をわしゃわしゃ撫でるシアン。この明るさを常時保つにはまあまあ強くないと無理なのだ。すごいでしょ。
僕たちが一歩歩くたびにさくさくと地面の砂利が鳴る。
……ジークフリートくん、ついて来てるのかな。後ろを振り返ってみるが、当然ながら彼の姿は見当たらなかった。
ザステルスの名前の由来書こうかと思ったけどやめました。文章書く気が起きないので変な文ができたためです。また今度かくかも?




