05 うひゃーかわいいねえヨシヨシヨシヨシ……
崩落した洞窟から出て、森のど真ん中。
どうやら僕の配下の青い鳥たちには個別で意思があるらしい。さすがに街にこれで帰れないから一羽に絞ってと言うと、大戦争が繰り広げられた。
結局それで一羽の鳥が優勝し、僕と一緒にいることになったのだけれど。
「ぴぃ」
……失礼だけど、やっぱり怖い顔してるよね。さっき潰したボス鳥の配下よりは若干柔らかい顔つきしてるけど、しかめっ面っていうか……。
「もうちょっとかわいく変身できない?」
「ぴぃー」
頼んだら、変身してくれた。すごい、万能だ。
「しかし……別のかわいいだったんだけどねえ……」
目の前には全裸の幼女が座っている。適当に下着とシャツとズボンを取り出して着せた。
青い髪、青い目。ぴこんとはねたあほ毛が誠にかわいらしい。背中には一対の青い翼があるが、そこまで大きくもないから目立たない。
むすっとした表情とジト目もまたかわいさを引き立てる。俳優になれるよ、パーフェクトだ。
変身した結果が、このベリーキュート幼女であった。理想の妹像が一気にこの子へと変わる。
「あー、きみ、名前は?」
「ない」
声もかわいい! 声優にもなれるよ、何もかもパーフェクトだ。
「じゃあ付けようか」
とはいえ、ぱっといい名前が思いつくものではない。そんな世界だったら、多分名づけ辞典とかは売れてないだろう。
「あおちゃんとか?」
「……そのまますぎ」
却下されちゃったよ。けっこう厳しいね、この子。
「幸せの青い鳥だから……サチコとか」
「……ださい」
おおう、世界中のサチコさんを一瞬で敵に回したな……。
その後も十個くらいの候補を伝えたが、なんだかんだで全部却下された。
「はあ、もう思いつかないよ……」
ばたんきゅー。倒れると、木々の葉っぱのすきまから空が見えた。
「そらちゃんってのは?」
「……………………まあ、いい」
やった、オッケーされた! カワイイねそらちゃん! よしよしよしよし!
ハイテンションのままやや乱暴に髪をなでちゃったけど、そらちゃんは嫌がらず付き合ってくれた。いい妹だ、ぐうかわ。
「ただいまー!」
冒険者ギルドに戻ると、一気に視線が僕に集中した。そしてすぐに、後ろにいるそらちゃんへと移る。
「妹か?」
冒険者のひとりが瓶の酒を飲みながら言う。
「妹だよ。ほら、自己紹介」
「……そら。おねえちゃんのいもうと」
そらちゃんはギルド内をぐるっと見回すと、数人を睨んでから僕の後ろに隠れた。恥ずかしがり屋ちゃんだなあ。
冒険者たちはすぐに飽きたのか、わいわいがやがやと話を再開する。
僕はそのままカウンターに行って、かばんからブルーメフラワーをたくさん取り出す。
「これでいい?」
「はい! 依頼完了ですね……はい、はい、三十本なので……こちらが報酬になります! ありがとうございました!」
硬貨がたくさん入った麻袋をもらう。中を見れば、鈍く光を反射する銅貨が十枚ほど入っていた。
「ねえジョンくん」
「んあ……」ジョンは寝ていたらしい。「帰ってきたのか。その調子だと依頼は達成したみたいだな……その子は? 魔物みたいだが……」
わお、魔物だって見抜けるのか。ジョンくんはいい目を持ってるね。
「かわいいでしょ、僕の妹のそらちゃんだよ。さっきできた」
「ふうん。人攫いには気を付けるんだぞ」
そう言って酒を飲むジョンくん。この人、仕事してるのかな? さっきからずっとお酒を飲みっぱなしだけど、今日が休みなだけだろうか。
そういえば、ジョンくんはあのボス鳥が言ってたこと、知ってるかな。
「ねえ、『アイアン様』って何か知ってる?」
難しそうな顔をするジョンくん。
「最近聞くようになったな。知能の高い魔物の一部がその名を出すという話だが……詳しいことは知らん。どこで聞いたんだ?」
「やっつけた青い鳥が言ってた」
「そうか……そうか? 青い鳥? 太ったやつか?」
僕が頷くと、ジョンくんは大きくため息をついた。悪い事だったかな、と不安になったけど、大丈夫だったようだ。
「それはたぶん、エウィルだ。ヴァルトの森にすむ人喰い鳥で、いきなり現れては人を襲う。かといって棲み家も分からないから討伐はできなかったんだが……はあ。そこの職員にでも報告してやれ、証拠はあるか?」
かばんの中にはない。けど、さっきポイントに変えた羽を元に戻せば十分証拠にはなるかな。
いつの間にか、可愛い寝息を立てて寝ていたそらちゃんを置いてカウンターへ向かう。
「どうされまし――」
「エウィルって鳥、討伐したよ!」
復元した羽を見せる。受付嬢さんは目を超高速でぱちぱちした後、羽を奪って奥へ引っ込んでいった。
「……すいませんちょっとこっち来てください!」
「にゃー!?」
いつの間にか横から現れた受付嬢さんに引っ張られ、僕は別の部屋へと連れていかれる。
ジョンくんがのんきに手を振っているのが見えた。
連れていかれたのは狭い部屋だった。いや、部屋自体は広いのだけれど、棚に並べてあるトロフィーや感謝状っぽいものなどが多すぎて狭くなってるんだ。
たぶん偉い人の部屋だろう、ギルドマスターとかかな。
奥の机で書き物をしている男が顔を上げる。
「ふむ、また変わった子だね」
まだ青年というよりは少年だった。ぼさぼさの金髪に緑の目、ゴーグルを額につけている。服装はパジャマみたいな姿で、さっきまで寝ていたと言われても疑わないだろう。
けど、何か底知れないものを感じる。この人とはあんまり戦いたくはないかな。
「どうも、アップヒルだよ。きみは?」
「ん? んー……」
名前を聞いただけなのに深く考え込んでしまった。困ったなあ、と思って後ろを向くと、僕をここまで連れてきた受付嬢さんはもう既に退席していた。ぬぬぬ……
一分経っても唸り続けているので、適当に木の椅子を取り出して座る。
「ねえ、きみの名前聞いてるんだけど……?」
「あっ!? ああ、ごめん。自分はラリル・ロフトヴァイン、ここのギルドマスターだよ、よろしくね」
この若さ――少なくとも外見は幼い――でギルドマスターになったなら天才なんだろうけど、やっぱり天才に変人が多いというのは正しかったのかな。
「大丈夫?」
「ああ、うん。どこかで聞き覚えがあると思ったけど違ったみたいだね」
僕がラリルを見ていると、ラリルは逃げるように視線を逸らした。
「ところで昼くんは宇宙人か何か?」
惜しい、異世界人です。
「まあいいや、仕事しないとね。エウィルを討伐してくれたみたいで、感謝するよ。報奨金はいくらがいい?」
「……相談して決められるものなの?」
首を振るラリルくん。なんか、この人の行動が全く読めないな……。
「まあ、せいぜい千ドルってとこだろうね。十分高いけど……大丈夫かな? 相場はわかるかい? りんごがひとつ七十セントくらいだけど」
うむ、高いから問題ないね。もらっておこう、ありがたや。
僕が首を縦に振ると、ラリルくんはニコッと笑って親指を立てた。
「ところで昼くんだよね? ルミネア王国の騎士団を壊滅させた人」
「え? い、いや……」
図星かー、とにやにや笑いをはり付けるラリルくん。
「ま、正直なところ罰も何もないから安心して。ルミネアはねー……って軽く説明しておいた方がいいかな?」
僕は胸をなでおろしながら頷いた。
ラリルくんはめっちゃ強いです。昼ちゃんとどっちが強いかって? さてね。
あと、ギルドには情報を送ることができる石板があるので、ラリルくんはルミネアのギルドから情報をもらっていました。ギルドはどの国にも属さない独立組織ではありますが、やっぱりルミネアは嫌いなので昼ちゃんを捕まえようとしたりはしていません。