43 妹
なんと、イエローとシアンは異世界人のお孫さんでした。しかも領主の娘。一番最初に出会った第一村人がとてもすごい人だったよ。僕びっくりなう。
「お礼がしたいからとりあえず私たちの屋敷まで連れてくね♪ 肩車したげる♪」
「こら、困ってるじゃない」
ひょいっと持ち上げられてシアンに肩車される。イエローもそんなことは言いつつ止めようとはしない。
僕がいろいろやっていたからか、それともシアンがここに来たからか、いつの間にか公園には数人の野次馬がいた。シアンはそれらに笑顔で手を振りつつ屋敷のほうへ向かう。
「あー、どこいる?」
テレパシーをジークフリートくんへ飛ばしてみる。すると、近くの木ががさりと揺れた。
『すぐそこにいるぜ。ほかのやつらにもじじょうはつたえておいたからな、あんしんしておれいされてきな』
ゆ、有能だ……! すごくありがたい。僕が木に向かって三度お辞儀すると、イエローはちょっと不思議そうな顔をした。
「そういえば名前なんだっけ?」
「アップヒル」
予想通りと言うべきか、クロザキ家のお屋敷につくまではとても長い。しかも徒歩でごちゃごちゃした人ごみを抜けるのでなおさらである。領主の娘ということで多少は人気のないルートを知っていたが、回り道なのでたいして変わらない気がする。
「苗字は?」
「んー、ないよ」
いきなり足を止めるシアン。うぉい、僕が肩車されてるんだから急ブレーキは危ないでしょうが。
「もしかして……」悲しそうな目で僕を見上げるシアン。「奴隷だったりする……?」
「違う違う! さすらいのスーパークール旅人だよ」
そうなんだ、とふたたびシアンは歩きはじめ、かわりにイエローが言葉を引き継いだ。
「んー、旅人でも苗字くらい持ってるものじゃないのかしらね? あ、もしかして勘当された? それとも家出して苗字を名乗りたくないとか?」
僕は首を振る。
「いいわ、それなら公爵家の権限で苗字を授けて――」
「それはよくない! 問題になるから、お姉ちゃんよく考えて行動しよう!?」
優しいと言うべきなのかな、イエローに関しては。それともバカなのか。……まあ、僕のために行動しようとしてくれているわけなので、とりあえず優しい人だと思っておくことにする。
「家に着いたらパパがなにかお礼をしようとか言うと思うから、何でも好きなもの言うといいよ♪ あ、爵位は公爵家でも男爵しかあげれないけど……ん、女の子だから女爵?」
「たしか少し前に亡くなったけど、女性発明家の男爵はいたわね」
「「へえー」」
イエローってすごい物知りだ。暴走しがちだけど。これが無かったら、優しくて賢くて美人と三拍子そろっているのでたぶん完璧なひとじゃないかな。暴走しがちな現状でもすごくモテそうだ。
「旅人っていうけど、どの方から来たの? やっぱりヒーローズライン?」
なにそれ。かっこいい名前だね。
僕が首をかしげていると、やっぱりイエローは不思議そうな顔で補足してくれた。
「そんなことも知らないのね。ヒーローズラインって言うのは、昔の英雄たちが世界に平和をもたらすためにこの大陸をぐるりと回ったときの旅路のこと。あなたみなたいな強い人とか貴族とかがそのルートを巡って観光するのよ。過酷な場所も往くから命を落とす人も多いけど、毎年何百万って人が踏破に挑戦するの」
なるほど……いろいろが終わったら僕もめぐってみるのも面白そうだ。……リードからは具体的に何をしろとは指示されていないから、別に今すぐめぐっても悪くはないのだろうけど、今は気分は乗らない。
「まあ、それがよく言われてる話。でも実はちょっと違って、実際に英雄が回ったのはその三分の二くらいで、そのあたりで全滅しちゃったの。残りは彼らの死を伝えるためにひとりの兵士が英雄の祖国に走っていった旅路よ――これを知ってると尊敬されるわ」
「とか言ってたから友達に言ったんだけど、別に尊敬も何もされなかったよね」
「それはあなたに威厳がないからでしょう」
「それ言うならこの子の方が全然威厳ないよ! だってモルモットみたいだもん。……あ、子猫だった」
モルモット……かわいいってことでいいんだよね。威厳ないのは、まあ、仕方ない。別に魔法で変身したりみんなに幻覚を見せたりすれば威厳ある王にも騎士にもなれるのだ。仕草でバレなければ。
「あ、見えて来たよ♪」
シアンの視線の先を睨む。……うーん、どこだ? あ、あった。さっき見たお屋敷だ。
「で、えーっと……何か質問の途中だったような」
僕が記憶をたどって「どこから来たかだっけ」と呟くと、シアンは嬉しそうに「そう!」と頷いた。危ない、振り落とされるかと思ったよ。
「えっとねー、遠くの大陸から来たんだよ。神様に行けって言われて」
一見荒唐無稽だがれっきとした事実である。
「遠くの大陸? そんなのあるの?」
「ハブレコっていう航海士いるでしょ、何年か前に新しい島を発見した人。たしか去年あたりから新大陸に船で向かってて、最近無事に帰って来たらしいわよ」
ほー。リードも言っていたっけ、たしか別大陸側は元居た大陸の事を知っていて、調査員を派遣してるとかなんとか。ハブレコって人がそれか。
僕の顔をくるりとのぞき込んでくるイエロー。
「……あれ? あなたここにいていいの?」
「いちゃダメなの?」
「「……え?」」
僕とイエローの声が重なる。どうやら、認識に食い違いがありそうだ。
「えーと、僕のことどう思う?」
変な質問になったが、賢いイエローの事なので意図は察してくれるだろう。じゃないと困る。
「新大陸に行ったハブレコに現地で購入された奴隷とか交渉してついて来たりして、一緒に船で帰ってきて――」
「ハイ! 僕は自分の気球で飛んできた!」
イエローは固まってしまった。今度はかわりにシアンが言葉を繋げる。
「本当みたいだよ♪ 自分の熱気球で仲間を数人連れて飛んできたっぽい」
なぜそれを……。まあ、ラリルくんも自分の能力を隠していたし、あまり深く聞かないでおこう。ともかくラリルくんのようにすぐ情報を得ることができる人というのは友達にしておくととても助かりそうだ。
「そろそろ着くわね。食べたいものとかあるかしら?」
「フライドポテトがいいなー」
「よし、じゃあ作ってもらおう! うちのコックはすっごく料理上手なんだから!」
シアンの魔法は情報取得能力……とは言い切れない。ラリルくんという前例がありますしね。
これもブラフかもしれないけど。




