40 とうちゃーく!
そんなこんなで時間が過ぎ、ようやくお目当ての大陸が見えてきた。もう日は完全に沈んで真っ暗なので、気球のハチの目に当たる場所からスーパーライトを使って明るく照らしている。
公園を超越してスタジアムがまるっとひとつ入りそうなくらいにまで拡張された気球の中では、先ほど頑張ってくれたみんなに加えさらに百人ほどが食事をしたりゲームをしたり寝たりしておもいおもいの時間を過ごしている。そらちゃん曰く、みんな僕と一緒の空間にいるのがうれしいらしい。……同じ空間にいるだけでうれしいってなんだ。そんなに僕が尊いってことか。
ちなみに一番人気のゲームはスマ○ラである。
「そろそろつくね。おねえ、どんなところ?」
僕の膝に座っているギルガメッシュくんが僕の顔を見上げて尋ねてくる。
「どんなところ……んー、僕もまだ分かんないんだけどね。ちょっとドローン飛ばしてみようか」
かばんから黒いドローンとコントローラーを一対取り出し、爆速で飛ばしてみる。ドローンはあっという間に見えなくなり、かわりにコントローラーのモニターに街の景色が映し出された。
「ふーむ、綺麗な街だね。でもあそことあんまり変わらない? かな?」
「でも、ぎるどがないね。ここまでひろいとひとつくらいありそうだけど」
確かに。まあ存在すらも伝わっていない別大陸だし、ギルドが有る無いの違いがあってもおかしくない。というかむしろ、ぴったり一致している方がおかしい。
ドローンを魔法で透明化させ、人が頻繁に出入りしている建物の中に入ってみる。
「ふんいき、ぎるどににてる?」
「確かにね」
人々の服装が冒険者たちに比べカジュアルなものが多いとか、インテリアが高級そうとかそういった違いこそあるものの、この建物の中では大勢の人がお酒やコーヒーなどをのんで話し、カウンターに宝石のようなものを持って行っている。ただ、宝石を持って行ってもお金はもらえないようだ。
「ギルドじゃなくて、傭兵団とか……冒険者ギルドをまるっと雇ったような感じとかかなあ」
残念ながらドローンには音声を拾う機能が付いていないので、会話の内容は分からない。だけど雰囲気でなんとなく面白そうだというのは分かったので、再び街へ出て別の建物を探す。
「きぞくのおやしき?」
「みたいだね」
少し奥に進むと、小さな町ひとつと同じくらいのサイズがある豪邸があった。豪邸を取り囲む庭も広く、森に砂浜、海などを場所ごとに再現しているようだ。さながらミニ世界である。
でもまあ、お屋敷というのだけあって人や魔道具による警戒はばっちりらしい。魔法で動いているこのドローンが侵入しようとすれば、たちまちバレてしまう。これから向かうところなので余計な騒ぎは起こしたくない。
「……ん?」
お屋敷から一人の少女が出てきた。
水色の髪に黒いスーツ、それと青いネクタイをした少女は、なにか四角い魔道具のようなものをこちらへ向けて構え――
「げっ、バレた……」
「すごいね、あのひと!」
ドローンからの映像がモノクロの砂嵐に塗り潰される。破壊されたらしい。なぜだ、魔道具の感知できる範囲からは離れていたはずなのに……。
「すこしはほねのあるやつがいそうだぜ。おもしれえ」
「わっ!?」
後ろから声が聞こえたので振り返ってみると、ギルガメッシュくんによく似た子が立っていた。
ほぼ白のような水色の髪を背中の中くらいまで伸ばし、カウボーイハットをかぶっている。服装はレザージャケットで、どうやら魔法が掛かっている素晴らしい逸品のようだ。右腰には三本の色の違う短剣が、左にはポーションの瓶がそれぞれベルトで止められている。そしてたばこをくわえていた。
「僕に気付かれずに近づくとは、なかなかやるね」
「そりゃどうも。でだ、こんかいのえんせい……おれもどうこうさせてもらおう」
「え。なんで?」
また、いきなり急な話だね。
「おれはきづいたのさ……いまどろーんをはかいしたあいつ。まちがいねえ、おれはやつとたたかうしゅくめいにある」
なんかかっこいいこと言ってる。背丈もギルガメッシュくんと大して変わらないのに、かっこいいと思ったのはなんでだろうか。
「まあ、別にいいけど……戦うって言っても問題起こさないならいいよ」
「おう、とうぜんだ」
唇をにっと上げてくるりと立ち去ろうとしたその子の肩に手を置く。
「自己紹介、お願い」
「そうだったな。おれのなはじーくふりーと。よろしくな」
「よろしくジークフリートくん。僕はアップヒルだよ」
そしてどちらからでもなく握手。ジークフリートくん、少し成長してから日本に行ったらハリウッドスターになれるのではないだろうか。ちょうど西部劇とかに出れそうだ。
「そうだ、これいるかな?」
銃をプレゼントしてあげよう。きっと似合うだろう。
ジークフリートくんは僕の差し出した黒い拳銃を舐めるように三百六十度から観察するとひとつ頷いてベルトのひとつにしまった。ギルガメッシュくんのつっこみが横から入る。
「おれいをいわないと」
「かんしゃするぜ」
そのままふっと姿を消すジークフリートくん。どうやら隠密行動ができるような魔法を得意としているらしい。……西部劇に必要あるかな?
「お、そろそろ着きそうかな。みんなー! 降りる準備しといてねー!」
「「「はーい!」」」
いい返事だ。みんなは今やっている試合が終わったところからゲーム機やコントローラーを僕に返しに来た。別に持っててもいいんだけどね。
そらちゃんは寝ているので、ギルガメッシュくんがリーダーみたいにみんなを並ばせた。
「これからおねえにどうこうするのは、そらおねえ、ぼく、あとじーくふりーと? だけ。みんなはこれからもがんばるように! なんにんか、すぐうごけるひとはこっちでかつどうして、じょーほーじゅーしゅー? をしてもらいたい!」
ギルガメッシュくんがめっちゃリーダーだ。僕が何も言わずとも、しっかり指示を出している。「じゅうしゅう」じゃなくて「しゅうしゅう」だけども。
新大陸で活動できる数人が手を挙げ、前に出てくる。うんうんと満足そうにうなずくギルガメッシュくん。
「ではこのごにんにはいろんなとこにちらばってかつどうしてもらう。よろしくね!」
「「「はーい!」」」
それぞれが元居た場所に帰っていく。『バベル』という魔法には配下を呼び寄せたり送り出したりする機能も付いているそうなので、もともと活動していた場所――たとえばパン屋とか情報屋とか――に帰して、最後に僕とギルガメッシュくん、そらちゃん、あと五人だけが残った。……ジークフリートくんはたぶんどこかに隠れているんだろう。魔力感知にも引っかからないとは、さすがすぎる。
「港に着陸するよ! よーし、楽しみだなー! そらちゃん起きて!」
「……ん……」
投稿が不規則になっていてごめんなさい。忙しくて投稿を忘れてしまうんです……。




