30 はっ!
「はっ!」
飛び起きた。僕は、ギルドのソファで寝ている。窓の外を見ればもう日が昇っていた。ぐっどもーにんぐ。……夢、だったのかな。それにしてはリードのことや話の内容ははっきり覚えてるけど……。
そらちゃんが横から顔を覗き込んでくる。
「……おそおき」
「うーん……今何時?」
「しちじはん」
まだ早いってば。七時半で遅起きなら、みんな遅起きだよ。
「そらちゃんは? 何時に起きたの?」
僕が尋ねると、そらちゃんは少し指を折りながら数えて時間を思い出していた。
「よじはん」
「早っ!?」
僕がびっくりしていると、ギルガメッシュくんも僕が起きたのに気付いて近づいてきた。
右手にはフランスパンを丸ごと一本持っていて、それをもぐもぐとかじっている。かわいいね。
「おねえのほうがおそおきなんだよ。ぼくはさんじにおきたから!」
「えっ、早すぎ……!?」
もしかしてこの世界はそのくらいに起きるのが普通な文化とか!? そんなぁ、もしそうだったら僕ついてけないよ。
僕はぱっぱと顔を洗うと、そらちゃんとギルガメッシュくんが買ってきておいてくれたらしいピザトーストを二枚食べる。一枚はチーズとベーコンと少しの野菜を使った典型的なピザで、もう一枚はカニをぜいたくに使った海鮮ピザだった。
「お金大丈夫なの? カニって高くないかな……?」
「……ん。でも、おいしかったから、おねえちゃんにもたべてほしかったから」
そっか。……そっかあ、可愛い妹め! よしよしよしよし!
結構荒くなでちゃったけど、気持ちよさそうに目を細めていたので問題はない。
それにしても、僕がギルガメッシュくんをかわいがるとそらちゃんは不機嫌になるのに、そらちゃんをかわいがってもギルガメッシュくんは怒らないね。心が広いみたいだ。
「……おねえちゃん、ゆめみた?」
僕がピザトーストを食べながら頷くと、そらちゃんがポケットから何かを取り出す。
それは、小さなお守りだ。リードの髪とそっくりの栗色の布地で、銀色のりんごが刺繍されている。それには魔法の力がややこもっていたが、僕でもどんな魔法が刻まれているのか、見当もつかない。
「りーどってひとがきて、これ、くれた」
「ふうん」
僕がさっき見たのは、夢ではなかったみたいだ。それじゃあ本当に魔王を倒した後は別の大陸へ渡らなきゃいけないけど……約束しちゃったからね。
「……それで、おねえちゃんにもって」
そらちゃんがもう一つお守りを取り出し、手渡してくれる。それはそらちゃんのおまもりより一回り大きく、りんごの刺繍も金色。魔法パワーも若干強かった。
「これがどんなおまもりかって聞いてないかな?」
そらちゃんが首をかしげる。
分からないみたいだったが、その代わりにギルガメッシュくんが僕の膝に乗ってきて教えてくれた。
「えっとね、きせきをおこすおまもりなんだって! ここぞってときにまもってくれるらしいよ」
「ふむふむ……」
不機嫌なそらちゃんの頭をなでる。
おまもりをそらちゃんたちにまでたくさん配ってくれるなんて、リードはそれだけ僕に世界を救ってほしいらしい。
「そういえばさ、そらちゃんとかギルガメッシュくんのきょうだい達? はいっぱいいるんだよね。みんなどうしてるの?」
僕がそらちゃんにそう尋ねると、そらちゃんは「しらない」って感じでギルガメッシュくんの方を向いた。待ってましたとばかりに頷いて答えるギルガメッシュくん。
「みんなはね、せかいかくちでいろんなことしてるよ。さかなをつったり、ぱんやさんではたらいたりして、おかねをすこしずつおねえのほうにわたすの。おねえのせいかつをさぽーと? するんだ」
「な、なんと……」
これまで僕は直接お金をもらっていなかったが、今日のピザ代の他にも、いろいろ買っているらしい。
今度労ってあげなくては。しかし一万ともなればどうやって労えばいいのか……。まあ、それはおいおい考えていくとしよう。
「今日はクエスト行く? そうだ、ギルガメッシュくんも一緒行こうか」
「やったぁ!」
「……ん」
よしよし、かわいいぞ。
今日受けるクエストはスライムの群れを退治すること。今は指定された森の中を歩いて奥へ向かっている。
そらちゃんには短剣、ギルガメッシュくんにはレーザー銃を渡したが、レーザーがかっこよかったのかそらちゃんも銃をねだったので、せっかくならと短剣にレーザー発射機能をつけてあげた。
「こっちはきれるしうてる。じゅうよりもいい」
「おねえにはとうていわかんないもんね、じゅうのかっこよさ。これだからしろうとは」
ギルガメッシュくんがなんか威張ってる。
そらちゃんは見事に安い挑発に乗り、剣で斬りかかる。僕が注意しようとしたが、
「ふん、ていっ」
小さな銃身だけでギルガメッシュくんが斬撃をいなす。そらちゃんの剣筋はかなり読みやすい、というか素直過ぎるのもあるだろうけど、ギルガメッシュくんは才能がありそうだ。
そうやってぽーっと観戦していたが、剣でだけ攻撃していたそらちゃんがきゅうに蹴りを入れるとギルガメッシュくんの頬にあたり、少し吹っ飛んだ。
「こら! まったく、喧嘩しないの」
ギルガメッシュくんもけがはなさそうだ。
そらちゃんはまだ蹴り足りないのか剣をぶんぶんと素振りして威嚇しているが、僕が頭をなでるとしぶしぶ剣を下ろした。
そして迫るギルガメッシュくんの不意打ちライ○ーキック!
「『ふれあうぇーぶ』!」
そらちゃんも超人的な反射神経で対応し、炎の波で攻撃を防ぐ。
とっさに風を起こして回避したギルガメッシュくんだったが、靴の底が少し焦げた。攻撃失敗で悔しがるかと思いきや、少しかっこいい笑みを浮かべ、
「ちぇっくめいと」
指を鳴らすと同時に――あたりは光と炎に包まれた。
「こらーっ! 何やってるの!?」
僕がとっさにそらちゃんをかばい、それでも有り余る爆発を結界で封じ込める。
くそう、上半身の前半分が吹っ飛んだ。……まあ、回復するから問題はないんだけど。すごいでしょ。
じゃ、なくて……。
「何してんの、もうっ!」
この威力だと――防がなかったら、普通にここら一体の木々が吹っ飛ぶところだった。
結局そらちゃんは無傷で済んだが、ギルガメッシュくんは制御が甘かったようで頬が赤く焼けている。涙目だ。
「自業自得だからね。次はしないでね? したら僕の首まで飛ぶかもしれないんだから……」
回復してあげると僕に抱き着いてきてそらちゃんを睨みつけるギルガメッシュくん。そんなに姉が憎いか……まあ、姉も姉だけど。
「おねえ、ごめん……」
「はいはい。そらちゃんもね? ケンカはだめだからね?」
「……ぜんしょする」
まったく……。




