03 そんなクエストで大丈夫か?
「クエストっていっぱいあるねー」
僕は現在ジョンくんに肩車されて高いところのクエストをいろいろ見ている。ジョンくんはさっきからずっと複雑そうな顔だ。
クエストは掲示板に張り紙という形で出されているようで、ギルドの壁のひとつは張り紙で埋め尽くされていた。遠目に見ると、集合体恐怖症にはキツい。この世界にはそう言うのないのかな……?
「まあそりゃ王都だしな……お前世間知らずすぎるだろ。どこの嬢ちゃんだよ」
「えー? 旅のひとだからよく知らないだけだよー」
張り紙は、取りにくい高い場所の張り紙ほど難しいクエストになる。
一番上のものには、ここ何年も受けられていない、『干物』呼ばわりの依頼もあるようだ。例えば、めったに出会えない妖精のうち、上級の聖属性の妖精を捕まえてくるとか。
「そういえばジョンくんは仲間はいるの?」
「ん? ああ、一応五人パーティーだぞ」後ろをくるっと向き、順番にふたりを指さす。「あそこでコーヒー飲んでるのと、寝てるのが俺の仲間。あとふたりは今デートしてやがる」
「リア充爆発しろ」
頭上でぼんっと小さな爆発が起き、ジョンくんが冷や汗を流した。ゴメンネ、ついやっちゃうんだ。
「よっこらしょ、じゃこれとこれ……でいいかな」
ちょっと下の方から張り紙をひとつはがす。典型的な素材採取だ。推奨ランクCだけど、この僕にかかれば何でもないのさー、ふはは。
肩車から降りてカウンターに張り紙を持っていく。
「え? あの、大丈夫ですか? 推奨ランクはCですが……」
受付嬢さんが僕に忠告をくれるけど、さっきの戦いを見ていたギャラリーの男が、人差し指を振ってすごく偉そうに言った。
「ふっ、この子は大丈夫さ。なんせこの僕が箔をつけたんだからね」
「慣用句の使い方が違うよ……」
一瞬でむすっとした顔になった男の人だったけど、まあ言いたいことは伝わったようで受付嬢さんは笑顔で対応を再開した。
「ちなみに、名前は?」
「よくぞ聞いてくれたッ!」
男の人は一瞬で満面の笑みを取り戻し、ジョ○ョ立ちみたいなポーズで名乗りを上げる。
「僕はヴォルネオス・ガスター! あの名門の剣士の家ガスター家の次男だ! しかも冒険者ランクはB! 最高だろう!?」
堂々と名乗れてめっちゃ幸せそうなヴォルネオス。
聞いたことないからすごいかわかんないなー、とどう対応すればいいか困っていると、ジョンくんが横から情報をくれる。
「ちなみにそいつ勘当されてるからな」
「なッ!? それは今言うことか!?」
勝手に後ろで喧嘩が起きたが、僕は気にせず外へ出て依頼のあった森へと向かった。雰囲気からして、喧嘩が冒険者ギルドの日常みたいだね。楽しそうで何より。
「えーっと、ここかな? ヴァルトの森ってとこは……」
王都からだいぶ離れたヴァルトの森。歩いてくればかなりかかっただろう。まあ僕はジェットで十秒で着いたけどね。
依頼は、ここの奥のほうにて咲いているブルーメフラワーとやらを摘んでくること。これは人体の自然治癒力を高める成分が含まれているので、薬――厳密にはポーション――によく使われるらしい。
まあ、襲い来る魔物をやっつけながら花を探す仕事だ。楽勝ですぜ、うへへ。
適当にかばんへ手を突っ込むと、青銅の剣が出てきた。くくく、唯の青銅と侮るなかれ、エンチャントですごく強化されているのだよ。友達の猫又が作ってくれたんだ。
ぶんと振って感触を確かめてから森へ踏み入る。
「『ウォーターガン』!」
さっそく敵を見つけたので、眉間めがけて正確に水鉄砲を放つ。水の弾丸は、周囲の枝や葉を一切傷つけずに狼っぽい敵へぶつかり命を奪った。
適当に死骸を拾ってかばんへ入れておく。
ああ、僕のかばんはスーパー便利な仕様になってて、物は異空間に入るから他のものが汚れたりしないんだよ。すごいでしょ。
「ふっふーん♪」
僕は鼻歌を歌いながら森を歩く。ツタや雑草などが絡んでくるけど、まあ魔法ですぱすぱっとやっちゃってるからあんまり不快ではない。
そこから周りをよく確認しつつ早歩きで進むと、ギルドで魅せてもらったサンプルと同じブルーメフラワーが見つかった。
青い花びらがわずかに光を放っている。間違いなしということで、きれいに摘んでかばんへ放る。
「たーしーかー……出来高制だったよね」
他のブルーメフラワーも、手当たり次第にたくさん摘んでかばんへ入れる。
たくさんあったのでひとつかじってみると、かなり甘かった。甘ったるすぎて少し吐き気がする。
これで十分かな、と思ったけど、ちょっと気になったので森の奥へ歩いていく。
事前に空へ飛ばしておいたドローンの映像を見れば、森はまだまだあるのだ。深いところに住むと聞いてきた幸せの青い鳥も気になるし、ちょっと探検したって罰は当たるまい。
「ばん」
「キャイーン」
狼がまた倒れる。いや、声はかわいいけど、ほんとに怖い見た目してるからね。
牙はでかいし目が真っ赤だし、毛皮は血でも浴びてるのか赤黒い。ホラーだよホラー、バ○オハザードにでも出てきそう。
「さて……ん?」
僕の高精度キャットイヤーが何かを捉えた。どうやら……鳥の鳴き声みたいだ。幸せの青い鳥かな?
音の方向へ従って歩くと、すぐそこに何か違和感を感じる。……むむ?
「アターック!」
拳に魔法を乱す魔法を乗せて違和感をぶん殴る。すると……
「ははーん……結界ねぇ。何か隠したい悪事でもあるのかなあ?」
目の前に、邪悪な気配を放つ洞窟が大きな口を開けた。
ちなみにヴォルネオスくんは彼女大募集中で、若干ロリコンです(笑)。どちらかと言えば顔立ちは整っている方なので、ロリコンじゃなければモテてたんじゃないかな……。
あと、ヴァルトの森についてですが。ヴァルト(『Wald』)って言うのはドイツ語で『森』。そう、つまり森森なのです!!!
あと、ブルーメ(『Blume』)っていうのはドイツ語で(以下略