28 わーいパーティーだー!
広い酒場。褐色の木で作られた壁は温かみを感じさせ、すりガラスの窓から差し込む都会の明かりもなんだか幻想的に見えた。
「今夜は自分のおごりだよ! いつも働いてくれたことの礼も兼ねて、すきなだけ飲んで食べて騒ぎたまえ!」
特急で帰ってきた後、ラリルくんはギルドにいた冒険者全員を引き連れて近所の大きな酒場へ向かった。四人達だけじゃなくて、みんなも巻き込んでパーティをするみたいだ。賑やかなのは良い事だしね。
僕もその隅っこの席で、ラリルくん、アイ、雄太郎と一緒にメニュー表を見ている。
「おねえ! ぼくもたのんでいいの?」
僕の横に座っているギルガメッシュくんがキラキラした目で僕の顔を見上げる。
「もちろん。てかそらちゃんももう頼んでるしね」
膝の上に座ったそらちゃんは、さっそく頼んできたおこさまステーキをもぐもぐと食べている。
……なお、僕は結局お酒を頼めなかった。アイと雄太郎に阻止されつつも、なんとか厨房へ直接向かって注文したが、店員に「未成年はだめですよー」とか言われた。子供みたいな外見の――本当に子どもかもしれない――ラリルくんは高そうなワインを飲んでいるのに……。
「日本酒が飲みたくなるな。ビールはどうにも性に合わん」
雄太郎はジョッキに注がれたビールを一気に飲み干すと、苦い顔でそう呟いた。七皿食うて鮫臭いって感じ? えっへん、頭いいでしょ。
よほど日本酒が飲みたいのかあまりにも苦しそうな顔をしているので、僕はかばんから焼酎の瓶を取り出した。
「そ! それは……! なんで子供が持ってるのかは気になるが……この際は、見逃してやろう。でだ、譲ってくれないか? いくらでも払う!」
「う、うん」
目が血走っている。アルコール依存症か、この人は。
とりあえず、雄太郎が持っていた銀貨を一枚とお酒一瓶で交換した。そしてコップに注ぎ、割らずに飲む。……その焼酎、アルコール度数四十くらいだっけ。なかなかやるね。
「おいしいね! ユーくんもお酒ばっか飲んでないで何か食べなよ」
「……そうだな」
すきっ腹に酒は悪いっていうしね。雄太郎はアイの勧めに応じ、とりあえず店員へフライドチキンを二皿注文した。
すぐにフライドチキンがたくさん載った皿が届き、雄太郎がさくさくと食べ始めた。
「……ん、あれほしい」
きみはまだステーキが残ってるでしょうに。でも、ギルガメッシュくんもチキンを食べたそうにしているので、二人分まとめて注文してあげた。
さて、僕は何を食べようかな。うーん……ピザでいっか。僕はたくさんあるピザの中から、はちみつピザを注文。どうやらチーズがたっぷりのピザにはちみつをかけて食べるものらしい。おいしそうだ。
少し待つと、六つに切り分けられた大きなピザとはちみつの小瓶が届く。
「おねえ、なにそれ?」
チキンを食べて、タルタルソースを頬につけているギルガメッシュくんが興味津々な目で見てくる。
「はちみつかけて食べるんだって。食べてみる?」
「うん! ありがと!」
小皿にとりあえず一切れを乗せ、瓶からはちみつをかける。とろりとした琥珀色のはちみつは、見ているだけでお腹がすいてくるくらいにおいしそうだ。
さて、じゃ、僕も食べますかね。
はちみつをかけてから口へ運ぶ。
「んー!? ほいふぃい!」
なんという甘さ! 温かいチーズとはちみつが、それぞれの味を殺さずに調和し、最高のハーモニーを編み出している。これは、おいしい!
夢中でぱくぱく食べていると、あっという間に全部なくなってしまった。
「……ほしかった」
そらちゃんが非難がましい目で見つめてくる。……ごめん。気づかなかった。
まだお腹はすいているので、そらちゃんの分も兼ねてもう一皿はちみつピザを注文する。
「あー! すみっこにいたからわからなかったわよーアップヒルちゃーん!」
聞き覚えのある声がし、後ろから抱き着かれる。頭の上に、柔らかなものが当たって……。
「ウナさん」
「うん! ギルマスと一緒に防衛戦行ったそうじゃない! お疲れ様ねぇ、えへへへ!」
頭をかきまわされる。どうやら酔っているみたいで、顔が赤い。右手にはまだビールがたくさん入っているジョッキを握っている。
後ろからジョンが申し訳なさそうな顔でやって来た。
「よう。ウナが迷惑かけてるみたいで、すまんな……」
ジョンは酔っていないみたいで足取りもしっかりしているし、顔色もいつも通りだ。まあ、日ごろからずっと飲んでいるし耐性がついているのかな。
ウナはジョンを気にした様子もなく一分間くらいずっと猫耳で遊ぶと、気が済んだみたいで別の冒険者の席へ向かって行った。
みんなが思い思いの食べ物を食べて騒ぐ中、僕がちらりと目を向けると、アイは少し悲しそうな顔をしていた。僕の視線に気づくとすぐに笑顔を取り戻したが。
「どうかしたの?」
「いや。いきなりさ、日本に戻りたくなってきちゃって……ママとか友達もいるし、どうしてるかなって」
そうだよね……。いくら勇者とはいえ、もとはただの一般人。世界を救えと言われても、それまで親しかった人のことを忘れるわけじゃない。寂しくなって当然だ。
「でもさ、いや、ほんとかわかんないけど……ルミネアにいた時の先生から、魔王はアタシたちを異世界に戻すことができるって。だからがんばれたの」
「そうなんだ」
魔王がそういう魔道具を持っている――僕は何となくそう確信できた。たぶん、アイの希望を断ちたくなかったからだろうけど、しばらくはそう信じておくとしよう。
僕だって、さすがに異世界に移動することはできない。僕の魔力を全てつぎ込んでも、僕の持ちうる技術と魔法を全て駆使しても無理だ。それこそ、神になせる技ってやつ。
「がんばれ! 僕も協力するからね」
「……うん!」
アイは右手でこぼれかけた涙をぬぐうと、僕の方に向き直る。
「ありがと、アップヒル。大好き!」
「んんー、ありが――ひぁっ!? ちょ、みみひっぱっちゃダメ!」




