26 たしか、奴は四天王。
夕方。僕たちはまだ砦の中にいる。いったんジェットでいつもの街へ戻ることも考えたのだが、勇者がこういう時にいないのはおかしいってことでまだここで警戒中だ。
そして、四人で大富豪をしている最中にその時はやって来た。
――ドォン!!
「ハイ三~。J出したのが運の尽き――何ッ!? ジョーカーまだ持ってたの!?」
僕は雄太郎のジョーカーで流れたカードを恨めしげに眺めていたが、いきなりラリルくんがすっと立ち上がったのでゲームが中断された。
「どうした?」
雄太郎がキングを二枚出しながら言う。うおー、終盤になるまで隠し持っていたとは……。
「四天王が来たよ。迎撃に行こう」
「は!?」
素っ頓狂な声を上げるアイ。
……まあ、いきなりそんなこと言われたら僕も驚く。
とりあえず、ラリルくんが砦の窓から飛び出したので僕たちもそれに続き、戦場へ向かう。てかここ三階だよ。
「さっきの『プロミネンス・オペラ』とは違う、正式な四天王のひとりだね。魔法は、対象の存在を隠蔽する魔法。一回使われたらすぐ分かるよ」
すぐに、戦場の中を、人間の兵士たちを放り投げながらゆっくりと砦へ歩くひとりの魔人を見つけた。
青黒い鱗でおおわれた肌にクモのような複眼を持った男の魔人で、特に一番目を引くのが三対あるムキムキの腕だ。それぞれに色の違う金属の腕輪をはめており、それからは強力な魔法パワーが感じられた。魔道具かな。
「オーラが違うな」
「ねー」
雄太郎は好戦的な笑みを浮かべて武器を構え、アイがそれに追随する。
そこで魔人はようやく僕たちに気が付いたみたいだった。
「……どくなら殺さん。命令は国を潰すこと。お前らはどうでもいい。どけ」
圧のある低い声で魔人が言う。こう、聞くだけで体にかかる重力が増したような錯覚が僕を襲った。
だけど僕はすっと前に立ちはだかる。
「任務だからね、防衛は」
僕がそう言って剣を取り出すと、魔人は目を細めて僕を睨む。
「ほう……外見にそぐわず強大な力を秘めているようだ。いいのか? ここで戦えばどちらにせよ小さい被害では済まない」
「戦場は小さく抑えるさ」
左手に魔力を込め、黒い球を実体化させて見せる。
魔人が反応するよりも早く球はぐんと広がり、僕と仲間たちと魔人を飲み込んだ。
次の瞬間に僕たちが立っていたのは、先ほど『プロミネンス・オペラ』との戦闘の場になったような真っ暗なフィールドだ。ひとつ違うのは、こちらは味方が四人で敵は魔人一人だけということ。
「なるほど……『晦冥の闘技場』か」
これって名前あったんだ。
「これで安心して戦えるね。ありがとう」
礼を述べながら軽くストレッチをするラリルくん。雄太郎はわかりきっていたとでも言いたげな様子で佇み、アイも「あーさっきのね」と納得した様子で銃を構えた。
「さて情報の整理をしておこう」ラリルくんが唐突に言う。「スクィリア・イラワコーザ。固有魔法は『フェイク・タイプ』、触れた物の存在を隠す魔法だ」
「さすがはギルドマスターとでも言っておこう……」
ラリルくんが何とも言えない顔をして「動揺作戦失敗……」と呟いた。
スクィリアが六本の大きな剣を取り出す。それらは直接魔法が刻んであるわけでもなさそうだったけど、スクィリアのはめている腕輪から魔力が流れ、剣の中を巡った。斬られたらまずそうだ。
「てーい!」
真っ先に僕が斬りかかり、アイが後ろから銃弾と『フレイムスピア』で援護をしてくれる。
こちらの攻撃は、スクィリアが剣を大きく振ってはじかれた。その間に、あと何本もある腕が同時に攻撃を仕掛けてくるが、
「『インペリアル・コート』!」
横から割って入った雄太郎がそれを防いでくれる。彼の魔法でスクィリアの剣の半分くらいが斬れた。
スクィリアの腕を狙って、威力を調節し『エクスプロージョン』を放つ。
「……」
あんまり効いていないようだ。
スクィリアの腕二本ずつが僕と雄太郎の攻撃を防ぎ反撃し、もう一本がアイの攻撃も防ぐ。もう一本は僕にちょこちょこ攻撃してくるが、何もしていないラリルくんのことを警戒してもいるらしい。
よく同時に腕六本も動かせるよね。種族柄か、人間よりはるかに脳の処理能力がいいのかな。
「うおお『インペリアル――」
「『フェイク・タイプ』、消え失せろ」
雄太郎が一瞬驚いた表情を浮かべ、すぐにその場から消え去ってしまう。僕もびっくりして少し動きを止めたところ腹に大きな傷を受けた。いてて……。
瞬時に回復し、僕が魔法を織り交ぜながらなんとかスクィリアの相手をする。
「『フェイク・タイプ』は存在を隠すだけ! 雄太郎はどっかにいる! そして同時に隠せるのは一人だけだよ!」
ラリルくんが大きな声で情報を伝えてくれた。それなら一安心かな。ていうかラリルくんも戦いに参加しませんかね。僕疲れてきたんだけど……。
「おりゃー! 『インペリアル・コート』!」
さらにジェットと『トレイン・レイン』で加速し、威力を増した攻撃を叩き込む。
スクィリアの剣は二本が途中で折れ、僕の剣がもう一本の三分の一ほどに食い込む。すごいね『インペリアル・コート』。
「……『フェイク・タイプ』!」
「ちっ……開けっ!」
僕に『フェイク・タイプ』が命中するのと同時に、空間が一気に明るくなって――幾何学模様で埋め尽くされた。




