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【第一章完結!】猫又でーす、異世界にいまーす。  作者: くろこげめろん
第一章 GotoもしくはComefrom

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24 相手が悪かったね?

 ただただ黒い空間。でも、敵の姿はよく見える。


「相手が悪かったね。しかも誰も見てないところに連れ込むなんて、本当にやりやすい状況を作ってくれる」


 自分がそう言うと、目の前で剣と盾を構えた魔人が馬鹿にしたように鼻で笑った。


「ハッ。テメーはじきに死ぬんだよォ。強がってんのかァ? チビがよォ? ンン?」


 左目に傷のあるこの魔人は、体中どこを見ても人間との差異があまり見つからないという、なかなか珍しいタイプだ。

 しいて言うなら、口を開くとちらりと見える鋭い犬歯から電気が散っているところか。感電しないのだろうか。


「さて状況はだいたいわかってる。ホンズェロン・ロロロカット……だね?」

「あァ? なんでおれの名前知ってやがる?」


 自分の能力を知らない人と交戦する時は、たいてい最初に敵の情報を言ってやるだけで驚き、動揺し、隙ができる。自分の大好きな戦術だ。


「好きなものはバナナとヤギのミルク。数年前に手作りのクッキーをもらってから知り合いのひとりに恋をしているけれど、二週間前にその人が別の男と街中を歩いているのを見つけて少し精神が不安定ぎみ……」

「っ……!? どこで知ったァ!?」

「さて、どこだろうね。ちなみにその人が君のことをどう思っているかと言えば――」

「オラァアアアアアアアアアアアア!」


 それは聞きたくないらしい。ま、知らないのも不安だけれど、嫌われているとはっきり宣告されるのも嫌だよね。ちなみに言っておくと、その男はホンズェロンの好きな相手と仕事で付き合いがあるだけで、相手もホンズェロンのことは気になっている。よかったね。

 フェイントを織り交ぜたパンチは初見では避けるのはまず無理だろう。でも、自分は手のひらで受け止める。


「ッ!?」

「せいっ」


 動きが一瞬止まった隙を突いて、ホンズェロンのみぞおちを蹴り上げる。


 信じられないといった目で自分を見ながらよろめくホンズェロン。

 この蹴りは、速度も威力も抜群だ。


「いくら敵兵だからって、日常を楽しく生きている人を殺す気はないんだよ、自分には」

「そうかよォ……でもな、見逃されたって恥だァ。おれはテメーをここで、潰す! おれが死んでもなァ!」


 再び殴りかかってくるホンズェロン。

 速い、けど余裕だ。


 自分が相手の腕をひっつかんで、殴る勢いを利用して後ろへなぎ倒す。

 まともに受け身も取れなかったホンズェロンは顔面を硬くて冷たい地面へぶっつけ、鼻血を出した。


「ひとつ言っておくよ。きみが自分に傷を負わせることはできない。絶対にできない」

「あァ、何言ってやがる!」


 ホンズェロンが手を振り、雷で形作られた槍が飛んでくる。ちょうどいいかな。

 防御も回避もせずに立っていると、当然槍は狙い通り自分の腹を貫き――


「なッ!?」


 貫通した後、自分の腹に傷は残っていなかった。まるで幽霊を通り過ぎたかのように、何も残っていない。


「自分の魔法は少々特殊なものでね。これでもまだ殺せると思うかな?」

「ッ……」


 自分が服からナイフを取り出すと、ホンズェロンはすぐに回避行動をとった。が、


「がはッ……!」


 投擲されたナイフは、的確にホンズェロンの首筋へ突き刺さる。

 微弱な毒が塗られたナイフなので、血管を通って毒が体中へ回り、ホンズェロンはばたりと倒れた。


「平穏な生活を覗いてしまったら、自分にはそれを壊すまねはあんまりできないんだよ。ごめんね」


 空間が風船のようにはじけ、元の戦場が現れる。


 * * *


「断罪させてもらおうか」


 オレは真っ黒な空間の中で剣を構えた。

 目の前に立つ魔人はピクリとも動かない。


 赤い肌の魔人で、両腕の肘から先は黒い網目がびっしりと等間隔で刻まれている。どうやら魔法のこもったタトゥーのような感じらしい。


 その魔人は両手に大きな剣を握り、オレの方をじっと見ている。どんな腕力してるんだよ。


「甘いな」


 魔人がそう言った。


「何がだよ」

「貴様の構え。精神。生き様。そのすべてが甘い、甘すぎる」


 なんか言ってる。かっこいいな、その科白憶えておこう。いつか、敵に言ってみたい。


「なら、試してみるか? どっちが甘いかを」


 剣に魔力を纏わせる。オレは魔法の行使はさほどうまくないが、この様な精密な操作は得意だ。濃厚な魔力が剣の周囲で可視化し、薄紫のオーラが現れる。


 にやりと口角をあげる魔人。


「戦いの前に名乗らせてもらおう。ギョーリーン・ディカプリオ、『支配の翼(グロースヘルシャフ)』の二つ名を魔王様より頂いた」

「オレは橋掛雄太郎。異界からこの世に正義を齎すために来た、勇者だ」


 名乗りを終えるとどちらからでもなく、同時に地を蹴って飛び出す。剣と剣がぶつかり、大きな音を立てた。


 打ち合った感じ、ギョーリーンの腕力は思ったより強くなかった。


「『インペリアル・コート』!」


 魔法を行使して剣を振る。が、


「甘いと言っただろう、既に情報は得ているのだ。防げば、何でもないということも」

「チッ……」


 いともたやすく受け止められてしまう。


「しかしこちらの魔法は知るまい?」

「ああ。教えてくれよ」


 にやりと不気味な笑みを浮かべるギョーリーン。オレの背筋を冷汗が伝った。


「もう使っている。これから、身をもって知ることになるだろう……『エレクトリック・ダンス』」

「っ……!」


 オレの足が勝手に動いて後ろに飛びのいた。そのまま足が滑ってしりもちをつき、迫ってきたギョーリーンに首を掴まれて持ち上げられる。


「が……ぐっ……!」

「この魔法は、放った電撃を受けた生物を自在に動作させる。最初に打ちあった時点で、剣を通してもう操られていたのだ。……フンッ!」


 勢いよく地面に叩きつけられる。


 とっさに体をよじって受け身を取ろうとしたが、それすらも妨害されて肋骨から嫌な音が響いた。


「さあ、終わりにしよう」

「……甘いな」


 無表情で剣を振り上げるギョーリーンに向け、笑いを作ってみせる。


「何?」

「戦いで最もよくないものは先入観だ。分かるか? ……『インペリアル・コート』!」


 パキッ、と何かが砕ける音がして、一気に体が楽になる。


「この魔法を使ってどれだけ罪を重ねてきた? 破壊するのはとても、とても容易かったぞ」

「まさか……貴様の能力は人間以外にも使え――」


 ――ドンッ。


 かすり傷ひとつ付けただけで、『インペリアル・コート』によりギョーリーンの上半身がはじけ飛んだ。


「地獄で裁いてもらえ。永遠に」


 オレの周囲の空間がタールのようにどろりと溶け、元の戦場に戻った。

 ちょっと雄太郎の勝利方法が分かりにくいかもしれないので捕捉。雄太郎は、ギョーリーンの『エレクトリック・ダンス』の罪の重さを利用し、自分にかけられた魔法を破壊しました。それで支配から脱出したのです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ラリル君の一人称は僕ですか?自分ですか? もし自分なら、十三行目のところが僕になっているのですが…
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