22 力こそすべて! 敵を蹴散らせ! 殲滅せよ!
「おりゃー『エクスプロージョン』」
どかーん。魔人たちがたくさん宙を舞う。
「やっちゃうよー! 『フレイムスピア』!」
ひゅーん。魔人たちが炎の槍に焼かれて力尽きた。
「えーい」
でゅくし。魔人はドミノのようにバタバタ倒れていった。
「裁きの時だ――『インペリアル・コート』!」
ぼかーん。よほどの悪人だったのか、ちょっと切っただけで上半身が吹っ飛んだ。
現在一番敵を殲滅しているのはアイだろう。無数の炎の槍を同時に飛ばして、敵の魔人を倒している。ただ、人死にになれたとはいえ、やはり殺人に忌避感はあるのか、全員気絶や重症に収まっている。さすが勇者、威力の調節もパーフェクトだね。
つぎに多く倒しているのは僕。『エクスプロージョン』で広範囲の敵をまとめて吹き飛ばしている。手加減? うん、してるよ。この場所から手加減なしでやると、敵味方関わらず死ぬからね。すごいでしょ。
ラリルくんもなかなかの実力だ。ラリルくんが戦っているのを僕は見たことなかったけど、敵をぶっ飛ばす角度とかを計算して、どうすれば効率よく敵を倒せるか考えているみたい。賢い。
ただ、雄太郎はあまり数を倒していない。まあほかの一般兵たちよりは多いけれど、剣術を使う都合上、一度に大量の相手を倒すのは難しいのだ。そもそも、敵が周囲に大量にいるわけでもないし。
「な、なんだおま――」
「『エクスプロージョン』!」
おびえた魔人兵を、やや威力を押さえた爆発で吹っ飛ばす。
この、戦いというには一方的すぎる蹂躙を四人で続けていると、退却の命令が出たのか、魔人たちはいっせいに逃げていった。それにしては何も聞こえなかったけど……。
そう疑問に思っていると、両耳を押さえたラリルくんが言う。
「あー、やっぱこの音は苦手だなあ……」
「え? 何か音した?」
音は収まったのか、ラリルくんは手を耳から外す。
「魔人とか、自分みたいな特異体質の人間にしか聞こえない笛なんだ。魔王軍はそれを使って指示をしてるみたいだね」
少しすると、奥から四人の魔人が現れた。四天王? それにしては登場早すぎるかな。
そのうちの一人が名乗りをあげる。
「我らは魔王軍将軍のツォンツォン様! ……が設立した、最強の部隊『プロミネンス・オペラ』! 貴様らに勝負を挑むッ!」
「まずい避け――」
何かを感じ取ったらしい雄太郎がそう叫ぶが、魔人が指を鳴らした瞬間、僕たちは別の場所へ転移した。
「……ふーむ。厄介者は一対一で潰そうってわけだね」
次の瞬間に僕が立っていたのは、ボクシングの時に使うような四角いフィールド。この空間にはそれだけがあり、あたりは真っ暗だ。だけど、相手の姿ははっきりと見える。
僕を巻き込んだのは、暗い緑の髪をした初老の男。人間では眉があるだろう場所に、もう一対の目がある。肌の色はやや緑色を帯びていて、髪の先はツタのようになっていた。植物系の魔人なのかな。
「そういうことだ。残念だが、一兵卒と我らでは天と地の差がある。無事に戻れるとは思うなよ」
そう言って、腰から剣を抜き放つ男。
僕が使う剣よりもかなり長い白銀の剣は、僕でさえ気圧されるような雰囲気を纏っていた。正直使い手より強そうだ。
「我の名はトーア・ギネマー! 『白刃の翼』の名を魔王様より直々に授かりし剣士!」
「自己紹介ありがとう! 僕の名前はアップヒル! キュートでめっちゃ強い旅の猫又だよ!」
残念ながら僕にかっこいい二つ名はない。くそう、何か考えておくんだった。
トーアは優しいことに僕が武器を用意するまで待ってくれるようだ。正々堂々と勝負するとかいった感じのルールでもあるのかな。
「一応言っておこう。このフィールドは、どちらかが完全に死亡するまで出ることはできない。……つまり、貴様に脱出は不可能というわけだ!」
「それはどうだかね。じゃあ、行くよ?」
全力で剣をスイング! 力に物を言わせ、剣術もへったくれもない攻撃だ。
甲高い音を立てて金属と金属がぶつかり合い、お互いの手を痺れさせた。
「『トレイン・レイン』」
とても素早いトーアの追撃を魔法でかわす。風って便利だよね、物は動かせるけど余計な障害物が後に残らないし。
「な、貴様、それは……!」
「うん。ハチェアーの魔法だね」
ついでに言っておけば、もう『オーシャン・デカデンス』をパクっているから相手の剣の攻撃は通用しない。
まあ、僕は常時発動しているわけでもないから、隙を突かれると普通に刺されるけどね。今は大丈夫だよ。
「『フレイムスピア』! 包み込めーっ!」
トーアを取り囲む球状に、無数の炎の槍を出現させる。
トーアは驚いたように足を止めたが、すぐに難なく対処した。
「『インヘイル』!」
ほんと誰でも持ってるんだね、その魔法。ゆらりと炎の槍が揺らめいて消え、僕へ斬りかかってくるトーア。
僕は剣でそれを受け止める。
「くらえ『スパーク』!」
発生した強力な電気が剣という金属を伝って相手の体を痺れさせる。
トーアは小さくうめいてから後ろへ引く。
僕はそのまますぐに追撃を仕掛けた。
「おりゃりゃりゃっ!」
カンカンと単調な金属音が小刻みに鳴る。トーアの顔に、もう疲労が浮かび始めた。
「くそっ、奥の手を使うしかないか……!」
「おおっ!? それは――うぐっ」
トーアが無言で使用した『エクスプロージョン』で僕が吹っ飛ばされる。
しかし追撃してくることは無く、トーアと、その剣の刀身にゆっくりと金色のオーラが纏い始めた。
「『ヘブンズ・ファンファーレ』!」
魔法の発動と同時に僕の体に激痛が走る。
「くらえッ!」
トーアが黄金の残像を残しながら飛びかかる。痛みをこらえながら即座に剣で防ごうとしたが――
「あぐっ!?」
剣が折れた。僕の体から血が噴き出し……あれ、力が入らない。なんで……?
「『ヘブンズ・ファンファーレ』は、ありとあらゆるものを切断する魔法。どうやったのかは知らんが、付け焼き刃の『オーシャン・デカデンス』で防げる魔法ではない」
なるほど……。『インヘイル』のせいで魔力が吸われるので、ちょっと多めの魔力で全身に回復を施す。
ゆっくりと立ち上がると、それを予見していたらしいトーアはまた斬りかかってきた。
「なら、斬られなきゃいい話だよね?」
「できるものならな」
僕は『ジェット』でその場を離脱。降り立った瞬間に再び攻撃されるけど……。
「『ザ・インパルス』! 『ウォーターガン・フォール』っ!」
斬撃は体をすり抜け、かわりに水の弾丸がトーアを斬り裂いた。
ついでに爆発で剣を弾き飛ばし、トーアの心臓を貫く。
「死ななくても解除できるフィールドにしておくべきだったね」
「……逆転か……すばやい、称賛に、値する……」
トーアは死を拒むでも、狼狽えるでもなく、静かに目を閉じた。
フィールドが画用紙みたいにちぎれてもとの戦場が現れる。
トーア・ギネマーの名前の由来をメモしておきます。
トーア(Tor)は、ウェブブラウザのひとつで、サーバーを介することでアクセス元が分からなくなる特殊なサーバー。それは玉ねぎをモチーフにしているので、ひっくり返して最初の文字を抜くとギネマーです。




