20 ルミネアを潰せ! 国際圧力!!
「分かるかな、現状」
ラリルくんが雄太郎たちに詰め寄る。雄太郎は「……ああ」と苦々しく目を逸らしたが、アイはよく分かっていないのか、ラリルくんと僕と雄太郎を交互に見ている。
「つまりね、きみたちは、騙されてルミネアの上層部の捨て駒にされてたの。ハザードは、召喚した時点で召喚者の命を喰らい、エネルギーにするんだ。昼くんが回復してくれなきゃ遅かれ早かれ死んでたよ」
「っ……」
アイは理解したらしいが、受け入れたくないらしい。そりゃ、自分が詐欺にあって死にそうだったなんて嫌だよね。もしかしたらルミネアの人のことも信頼していたのかもしれない。
ラリルくんは僕の方を向いた。
「僕の権限で各国に通達を出す、ルミネアを潰すんだ。証拠の品としてこれは預かっておくよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! ルミネアだって、もとは神の部屋に侵入されたから――」
「勇者たちがどう言おうが別に僕は気にしないけどね」ラリルくんは厳しい目でアイを睨みつける。「クズ国家ルミネアとそこ出身の世間知らず勇者。だれがきみたちの話を聞き入れてくれると思う?」
勇者たちは、騙されていたので無罪か、あっても一週間あるかないかの強制労働の刑で済むそうだ。
だが、ルミネアは間違いなく潰れるだろう。ほかでもない、勇者を使い潰そうとしたんだから。
まだアイは必死に反論を考えているようだが、雄太郎はもう諦めたらしい。
それとも、もとからルミネアに対して思い入れもなかったのかな。
「……わかった。裁判所にはオレが出向く。アイはまだ、子供なんだ。精神的ショックも多いだろう」
「話が早くて助かるよ」
雄太郎もラリルくんに同意したので、アイは黙りこくってしまう。
「宇宙人だから知らないかもしれないけど、この世界の捜査員は優秀だよ。本当にいい人だったら、事情もちゃんと考慮される。まあ……その、大変だったね。きみたちも」
その言葉は、ラリルくんなりの気遣いだったのだろう。
ラリルくんはあっという間に数十通の手紙をしたため、部下を呼んでいろんなところに送らせた。ちらりと見たところ各国の王にも送っていたみたいだ。
「ギルドマスターって、ぱっぱって王様に手紙を送れるくらい力があるの? それとも王様に手紙を送るのは誰でも自由?」
僕の質問に、ラリルくんは情報を送る魔道具に入力しながら返事をくれる。
「んー……自由じゃないよ。一般人が国に何か言うなら、まず担当の大臣に送るのが普通。王様に手紙遅れる自分は、ギルマスの内でも権限が強い方なだけかな。全部の冒険者ギルドを束ねるリーダーから、強めの権限をもらってるんだ」
ふーん、ラリルくんってすごいんだ。
「ギルドは一番の国際組織だから、大国ひとつにも匹敵する権限を持つ。僕はその大臣あたりかな」
なるほど。
横に目を向けると、なんとか持ち直したアイがそらちゃんとババ抜きで遊んでいた。
雄太郎はそれには混ざらず、部屋の窓から外を眺めている。僕は雄太郎の近くに行った。
「ねー、アイと雄太郎って知り合いだったの? こっち来る前は」
「ああ、まあな。オレが検察官だったのは知ってるんだろ」
僕が頷く。彼の検察官バッジが、窓から差し込む日に当たってキラリと輝いた。
「転移する何年も前に……まだ彼女が中学生だった時か。アイはとある事件の第一発見者になって、その関係で数回話を聞いた。接点はそれだけだが、いっしょに勇者になった時は驚いた」
ふうん。もしかしたらふたりは縁があるのかもしれないね、と言うと、そうかもしれないな、とだけ返された。
……すぐにラリルくんの話を受け入れたところを見て勘違いしてたみたいだ。雄太郎も、だいぶ傷ついてるらしい。
ひとりでゆっくりしていたところを邪魔してしまったらしいので、僕はひとつ会釈をするとギルドのロビーへ降りた。
翌日。
「捕獲ぅ!」
いきなり背後から抱き着かれた。柔らかくて大きな胸が頭にあたる。……別に、うらやましくなんてないからね!
僕の顔をぐるりとのぞき込んできたのは、この間猫耳をさんざんなでてきたウナだ。
「また猫耳?」
「うーん、それもあるけど、ニュースよニュース。なんか魔王軍が、近くの国に侵攻を始めたみたいなの! 今回の魔王はすごく強いみたいだからここまで来ちゃうかも……だって」
ウナが猫耳をなでながら言う。
「まー、僕がいるからね。大船に乗ったつもりで!」
「頼もしい! そしてかわいい! よしよしよしよし……」
ウナとずっと一緒にいたら、猫耳が取れそうだ。それは困るので脱出し、いつも通りギルドマスター室へ向かうと、いなかった。
受付嬢さんに居場所を聞くと地下の留置所とのことだったのでそちらへ向かう。
「昼くんか。どうしたのかな」
ラリルくんは今、留置所の一室でクッキーを食べていた。
同じテーブルに、微妙な顔の魔人たちと勇者たち、それと青い鳥姉弟が座り、皿に載っている様々なお菓子を食べている。……こう見ると平和だよね。
「魔王軍が侵攻を始めたってほんと?」
「らしいね。メアヴェノたちも知らないみたいだったし、僕も詳しいことは分からない。暇だったら、一緒に撃退しに行くかい。勇者もつれて」
「えっ!? アタシ、ゆっくりしてたいんだけど……?」
「諦めろ。魔王を倒すのが勇者の仕事だろう」
アイが助けを求めるように僕と魔人たちを見たが、僕が「よし、行こうか」と返事すると、アイはその場で机に突っ伏した。
ちなみに、アイは現役高校生でした。本編で言ったっけ?




