17 ザ・暗殺計画
翌日。
今日は、どんよりとした鉛色の雲が空を覆っていた。今にも雨が降ってきそうで、あんまり気分はよくない。
そしてなんだか嫌な予感がするんだよなあ……。僕は、ギルドの窓から空を見て小さくため息をついた。
「……おねえちゃん、くえすと」
「うん、一緒行こっか」
そらちゃんがクエストに誘うってことは、また魔人が来るのかな、はあ。
僕は掲示板の上の方にあった、遠い海辺で小さな貝を採取してくるクエストを受けた。
「よし、行こう! ……おわたっ」
ギルドを出た瞬間、誰かにぶつかった。
「あ、すみません」
「こちらこそ」
お互いに一礼してから、僕はそらちゃんをおんぶさせ、ジェットで目的の海辺へと向かう。
「いるね」
「……ん」
どの街からもかなり離れた海辺には、見えないものの待ち構えていたらしい人の気配があった。猫又って野生のカンがあるんだよね。すごいでしょ。……うん、全然野生じゃないけど。
僕がゆっくり降下を始めると、背に座っていたそらちゃんは僕の首へ腕を回してしがみつく。体勢を縦に変えて飛び降りる。
「魔人かな。いるんでしょ? 出でよー!」
前の空気が一瞬ぴくりと揺らめき、そこから人が二人現れた。忍者かいな。
「魔人なんかじゃあない。オレ達はその対極だ」
「そうよそうよ! ……って結構カワイーじゃん! いやー殺すのは惜しいけど、これも世界平和のためね!」
現れたのは男と女がひとりずつ。
男はつやつやの黒髪をきれいに七三分けにして、眼鏡をかけ、長いコートを羽織っていた。胸には、日本の検察官のバッジが。背中には、日本の大きな剣がクロスするようにかかっていた。
女は桃色の髪を腰のあたりまで伸ばして結んでいる。首にはひとつ、星形のペイントがされてあり、服装は黒いゴスロリ服だった。
「橋掛雄太郎、と……誰だっけ」
「こがらし」
そらちゃんが補足してくれる。ちゃんと話聞いてたんだね、えらいよ。そう、凩アイだ。
「ふーん、アタシたちの名前調べてたんだー」
ちょっと不機嫌そうな表情を浮かべるアイ。なんでだろ、名前知られるの嫌だったかな。……もしかしてかっこよく名乗りをあげたかったとか?
ていうか、勇者来るの早すぎでしょ。昨日知ったばっかりだよこっちは、ちくしょうめ。まあ、早く潰せるのを喜ぶべきか。
いっぽうの雄太郎はそらちゃんのことを見ている。
「その子は悪じゃあないな。なるほど、おおかた洗脳でもしたというところか?」
うん、洗脳はしてないけどそらちゃんは善だよ善。当たってる。
「ちなみに僕は?」
「まごうことなき悪だ」
曇り眼ここに極まれりだね。……いや、未成年飲酒してたし、当たってるのかな……。心から否定できないのがつらい。
「ちなみに聞くけど、どうやって僕がここに来るって?」
「仲間に位置情報を知らせる魔道具を使ってもらったの! 今更知っても遅いわけだけどね!」
そう言って二丁の拳銃を構えるアイ。
そらちゃんを下がらせようとすると、雄太郎が「オレたちが殺すのはお前だけだ。その子はきちんと洗脳を解除してからオレが親の元に届けておいてやる」と返してきた。いや、僕の魔法で生まれたから、親は僕なんですけど。
戦いの前に少し魔法の情報をまとめておくとしよう。
まず雄太郎の『インペリアル・コート』は、敵の罪の重さに応じて攻撃力が上がる魔法だ。ザ・勇者って感じかな。
これは当たらなければいいし、単なるダメージ増加なら僕は回復できるから特に対処はしなくていいと思う。
次にアイの『ザ・インパルス』。これは使うと一秒の間だけ、敵の攻撃がすり抜けるかわりに自分の攻撃もすり抜ける『スペクテイター状態』になる魔法。
この手の能力は、再使用までにインターバルがあると思う。だから使えない状態のときに一気に叩き潰せばいい。
「楽勝だね」
「それはこっちのセリフ! 悪役ってね、だいたいヒーローのことをなめてかかるものよ!」
なめてるのはお互い様だけどね。
「手加減はしないよ。じゃあ、始めようか」
僕はそう言って、一瞬で両手に剣を構えた。
ごめんなさい二日続けて短いですね。勇者戦は長く書きます。お許しください。
ちなみに、位置情報を知らせる魔道具というのは、この話冒頭で誰かにぶつかった際に使われました。形状はスタンプです。痴漢撃退スタンプ的な。




