16 勇者様
「……」
「おっ、心当たりがあるみたいだね。同郷かな?」
僕が頷くと、予想が当たったラリルくんは嬉しそうに微笑んだ。
「宇宙人の勇者はこれまでの歴史でもたびたび登場する。それぞれは破格の能力と知能を持っていることが多いけど、欠点としてこの世界の事をほぼ知らない……だから、情報操作だってしやすい」
真剣な表情に戻るラリルくん。ちょっと嫌な予感が背筋を伝い、それはまさに次の言葉で的中することになる。
「宇宙人はふたりとも、ルミネアにて保護された。きみと戦闘になる可能性は非常に高い。昼くんを宿敵と思っているルミネアの上層部のデータを見てみたけど、そういう教育を行っているみたいだ」
「っ……!」
日本人の勇者様と、僕が敵対関係にねえ……。やだなあ。
日本人じゃない勇者もふたりいるらしいし、その人たちを残して今のうちに日本人たちを叩くべきか。
そう思っていると顔に出ていたのか、ラリルくんが制止してくる。
「ああ、間違っても、こちらから勇者に攻撃を仕掛けちゃいけないよ。勇者は大事だから、いくらルミネアが嫌われ者国家でも、世界中の国が昼くんと敵対せざるを得なくなってしまう。やるなら、じっと待ち構えて襲い掛かってきたところを反撃するんだ」
「むむ……」
相手はいつでも仕掛けられるのに、こちらは仕掛けられない……ぐぬぬ、もどかしい。
それを察してか、ラリルくんは勇者に関する情報をいくらかくれた。
「勇者は強いからね、対策ぐらいしておいた方がいいだろうし」
ひとりめ、橋掛雄太郎。三十代の男で、武器は剣二本の二刀流。
魔法は『インペリアル・コート』。相手にダメージを与えた際、罪の重さに応じてかなりの倍率で攻撃力が上がる。
ふたりめは、凩アイ。十代後半の女で、武器は二丁の銃だ。
アイの固有魔法『ザ・インパルス』、発動すると短時間だけ、攻撃が一切当たらないかわりに攻撃できなくなる『スペクテイター状態』になるというもの。
どれも、かなり厄介そうだ。
「『インペリアル・コート』の方は……昼くんは犯罪を犯した事はあるかな」
「うっ」
未成年飲酒はよくやってた。最近はやってないから……大丈夫……?
あとは、騎士団に対する傷害罪というのもカウントされるのだろうか。そうだったらあれは結構重罪だし……。
「はあ、まあいいよ。きみが魔法のことを言いふらしたせいで、あっちにはきみが魔法をコピーできるというところが伝わっているとみていいだろうね。これを教訓にしようね」
「うぐ……」
肝に銘じておきます。
しばらく話し込んでいると、ディッパー大臣とギルガメッシュくんが返ってきた。
「おなかすいたでしょ? おねえも、さんどいっち、はい」
「フォフォフォ。ギルガメッシュくんは食いしん坊でしたねぇ」
ありがと、と礼を述べて、ギルガメッシュくんのお土産を受け取る。魚と野菜のサンドイッチらしい。
「……ふん」
そらちゃんもサンドイッチを受け取り、少しずつ食べ始めた。お土産を食べてくれたのでギルガメッシュくんは嬉しそうだ。
僕も食べる。
「おいふぃいね!」
「でしょう。私の甥の妻がぁ、経営しているサンドイッチ屋なんですよぉ」
ふーん。ディッパー大臣の甥の妻は料理が上手みたい。調理器具とか調味料とかは日本の方が優れているだろうに、日本のサンドイッチにも負けず劣らずのおいしさだ。
あっという間に全部食べ終わってしまう。
「もうない?」
「うん、ごめん……」
悲しそうな顔をするギルガメッシュくん。僕が慌てて「大丈夫だって」と言いつつ頭をなでると、そらちゃんは面白くなさそうな表情を浮かべる。
「そらちゃんもよしよし」
「……ん」
少しだけにして隠そうとしているみたいだけど、背伸びして僕の手に頭を押し付けてるのがバレバレだ。うーん僕の妹はかわいい。すごくかわいい。
ちょっぴり力を込めてなでてあげると、そらちゃんは目を細めて気持ちよさそうにしている。
「……自分には?」
「あっ!」
「……フォフォフォ、忘れていましたねぇ」
机に突っ伏したラリルくんであった。




