15 お疲れサマンサ~
三時間ぐらいで会議は終わった。大臣やレオンさんたちも明日か明後日くらいには帰るらしいから、これ以上の会議はないだろう。……ないよね? あったら僕過労死しちゃうよ。許してー。
念のためラリルくんに確認すると、
「ん、会議はもうないから安心していいよ」
とのことだった。よかった。
「僕って後半寝てたから、何が決まったのか短く教えてくれない? 短く」
「二回も言わなくていいって。えーと、まずひとつ。提案通り、魔人たちはここで預かることになった。軍事大臣はそうなることを予想してたみたいだから、役に立ちそうな魔道具をいくつか貸してくれるって。ふたつめは、万一新たな魔人が出現した時のために、この街のすぐ近くに軍が駐留することになったよ。他の国からも少しずつ軍を貸してくれるみたい。で、最後は、また何かあったらすぐ会議を開こうねってこと」
ふむ。いたって普通っていうか、あれだけ話していた割には最低限なことしか決まらなかったな。まあ、そんなものなのだろう。
すると、いきなりギルドマスター室の扉がばーんと開いた。
「おねえ! たすけて! ひとごろしが!」
涙目のギルガメッシュくんが飛びついてくる。僕とラリルくんが魔法を発動する準備をしたが、追いかけて入ってきたのはそらちゃんだった。……仲良くしなさいよ。
「どうしたの」
「……あしふまれた」
「わざとじゃないから! ぶ、ぶつかっただけでしょ!」
そらちゃんは、一昔前の不良か何かか。学帽とか似合うかな……意外と似合いそうだ。
「ごめんなさいはしたの?」
「した! したのに!」
「ごめんですむなら、けいさつはいらない」
そう言っていきなり飛び蹴りをぶちかますそらちゃん。
僕が肩に手を回していたので回避行動が取れず、ギルガメッシュくんの胸あたりに命中。そして大きな泣き声が部屋中に響く。
「――――――っ! おねえ、いたいよぉ、わああああああ!」
ラリルくんの口が一文字になる。不機嫌そうな顔だ。そらちゃんは蹴りをいれられたのでせいせいしたらしく、僕の隣に座った。
「やりすぎでしょそらちゃん……」
「ふん」
ギルガメッシュくんの頭をなでてあげるとすぐに泣き止んだ。ハンカチで涙を拭いてやる。
「ぐすっ」
まったく、姉弟なのに仲良くできないのかな。いや、姉弟だからこそ、だろうか。
すると、また扉がばーんと開いた。
「フォフォフォ、おはようラリルギルドマスター」
あっ、この声は……でっぷり軍事大臣!
ビッグな大臣が大きな足音を立てながら笑顔で部屋に入ってきた。
「ああおはよう、肉塊くん」
ひっどいあだなだね。間違っちゃいないけど。
軍事大臣はその呼び方を気にした様子もなく、近くにある椅子に座った。
「おや、先客がいたかねぇ。フォフォフォ、そういえばぁ、先ほどのアップヒル殿じゃありませんかぁ」
「別に客ってほどでもない。昼くんたちは……んー、何しに来てるのさ、ここに」
暇つぶしかな……。
僕がそう答えると、ラリルくんは複雑そうな顔をした。
「ああそうだ。紹介するよ、これが軍事大臣。自分の友達なんだ」
「初めましてぇ、ご紹介にあずかりましたぁディッパー・ノトーリアス、この国の軍事大臣ですよぉ」
にこにこと手を振るディッパー軍事大臣。
ふたりは友達なのか、それにしてはディッパー大臣は会議中ちょっと辛辣なことも言ってた気がするけど。
「自分が冒険者やってたときにね、肉塊くんの所属してたパーティーでいろいろ学ばせてもらったんだよ。もともと肉塊くんはAランクだったしね」
「え!?」
こ、このビッグな脂肪の塊がAランク冒険者、だと……!? 何か間違えてるんじゃ……。
「フォフォフォ、驚くのも無理はないですねぇ。私はもともと太りやすく痩せにくい特殊体質でしてねぇ、昔はタンクを務めていたんですよぉ」
ラリルくんが横から「実は足がものすごく速いんだ」と補足説明をくれる。へえ……。
そらちゃんはいつも通りのジト目で宙を睨んでいるが、ちらちらと興味津々なのが隠しきれていない。
ギルガメッシュくんは凄腕冒険者だと聞いて率直に目を輝かせている。ふたりともかわいいー! ふふふふふ。
ディッパー大臣は何かを思い出したように手を叩くと、僕の方を見て言った。
「そういえばぁ、三人ともぉ、サザビー帝国には気をつけなさいねぇ」
「サザビー帝国?」
どっかで聞いたような。……ああそうだ、ラリルくんが教えてくれた、昔ルミネアに侵攻された国だ。
同じことを思っていたのか、ディッパー大臣の話をラリルくんが引き継ぐ。
「昼くんにも質問していたオールバックの眼鏡の大臣がいたよね。彼がサザビー帝国の大臣なんだ。えっとね、君がコピーというとんでもなく強力な魔法を所持していると知ったから、他の国がちょくちょく勧誘してくるかもしれない。とくにサザビー帝国は軍の強化に熱心だから、きみに激しくアプローチをかけてくると思う。まあ軍に入りたいなら別だけど、知らない人に『お菓子あげるからついておいで』なんて言われてもついていっちゃだめだよ?」
「……ん」
「はい!」
そらちゃんとギルガメッシュくんはそれぞれ頷いた。僕も一応頷いておくと、ディッパー大臣は満足したらしく深い笑みを浮かべた。
ディッパー大臣が「観光に行くよぉ」と言ってギルドマスター室を出ていき、ギルガメッシュくんもそれについていった。たぶん冒険者の時の話とか、いろいろ聞きたいんだろう。そらちゃんは僕の隣で、僕があげたあやとりをしている。
僕は書類仕事中のラリルくんに、ふと思いついた質問をぶつけた。
「そういえばさ、魔王がいるって話じゃん? 魔王ってやっつけられないの?」
「無理だね」
即答だ。じゃあ世界終わっちゃうのでは?
「でも、魔王が暴れだすと勇者も呼応するように現れるんだ。ふらりと現れることもあるし、どこかの軍の兵士が勇者の素質を秘めてたってこともある。魔王には、勇者の攻撃でしかとどめを刺せないんだ」
「へぇ」
「これは太古の昔に人間側が勝手に定めた魔法によるんだ。ほぼすべての人間から『魔王にダメージを与えられる能力』を失わせることによって、等価交換の魔法で勇者に『魔王に大ダメージを与えられる能力』を付与する……そんな感じ。あとは勇者の仲間たちも、勇者の加護で若干魔王に傷を負わせられる。けどやっぱり最後の最後に魔王を倒すのは、勇者なんだよ」
なんだそんなことも知らないの、とラリルくんの目にちょっと小馬鹿にした色が浮かぶ。ちくしょうめ、悪かったね。
「勇者っているの? 今」
「うん。今、四人確認されてる。うちふたりは宇宙人かな」
「よ、四人? 四人も勇者いるの?」
こくんと頷くラリルくん。
「普通は一人だけ。でも、魔王が強いときとかは何人も現れるよ」
ほー。まだまだ知らないことがいっぱいだ。
……ていうか、宇宙人? 宇宙人って、僕のこと最初に宇宙人って言ってたよね。つまり、まさか……。
「宇宙人って言うのは?」
「宇宙人は宇宙人だよ、昼くんみたいなね。勇者一人目は……そうだな、橋掛雄太郎って呼ばれてる。変な名前だよね」
勇者は、僕と同様の、日本からの転移者だった。
明日は投稿を休みます。すみません。




