13 超反撃モード
「なに……これ……」
脳の中で情報が氾濫し、目の前で何が起こってるかすらもよく理解できない。
「『フィーバー・アンド・フレンズィー』。それがアタシの魔法の名前……触った相手の脳内に情報をぶち込む。アンタはなかなかしぶといねえ」
ザクリ、と砂を踏む音が聞こえたのは、僕がのたうち回っているのか、敵がとどめを刺そうとしているのか。
「一度触れた相手には、魔法を切らない限りずっと情報を流し込み続けられる……いずれアンタの脳もお陀仏だ。苦しいかい?」
ああ、ちくしょう、あのドッドゥルドの顔、妙にムカつく。勝利したから、喜んでいるのか。
「ハチェアー様達はまだ生きてるのかい? ……ってああ、もう話もできないか。魔法を切るのも怖いし……ふっ、楽にしてやるさね」
手刀を振り上げるドッドゥルド、それは僕の首の骨を叩き折ろうと降ってきて――
「ハイお疲れ様ー。甘い甘ーい、甘すぎるよっ!」
僕に触れたことで、僕のコピーした『フィーバー・アンド・フレンズィー』が発動。敵の魔法は消え、僕が動けるようになった。すぐに白目をむいたドッドゥルドの体が崩れ落ちる。
ふっ、僕が『トレイン・レイン』を見せた時から、警戒しておくべきだったね。……ドッドゥルドはなんか脳筋な気がするけど。
魔力の微調整で意識を失うだけにとどまったドッドゥルドをかばんの中へ突っ込む。
「そらちゃん……」
放置されていた髪の束を見て、お墓を後で作ってあげよう、と決意した。
「依頼達成ですねー。……あれ? あの子はどうしたんですか?」
「死んだよ」
サソリの死体を数える手が止まり、絶句する受付嬢さん。
「戦闘中に新手の魔人に襲われたんだ、その時に殺されたって。魔人のことはラリルくんに言っておきたいんだけど、どこにいるか分かる?」
「……あ、はい。ラリルさんは、ギルドマスター室におられます」
僕は礼を述べるとギルドマスター室へ向かい、扉を開けた。
そこには。
「……あれ?」
そらちゃんがいた、髪は短くなっていない。さらに、きょうだいだろうか、もう一人顔立ちが似た子もいた。そしてその二人が取っ組み合いの大げんかをしていた。
「ん、おねえちゃ……この、うらぁっ」
「きゃんっ!」
その奥で、机に突っ伏したラリルくんが顔を上げる。
「ああ、帰ってきたね。早く連れて帰ってくれないかな、騒がしくて仕事ができないよ……」
「い、いや、どゆこと……?」
ラリルくんは大きなため息をついて、事情を教えてくれた。
「昼くんに伝える機会がなかったんだけどね、その子がさ、『おねえちゃんがだれかにおそわれる』とか言ってるし、ハチェアーが昼くんに転移陣描いたとか言うからさあ。万が一何かあったら逃げなさいってスクロール渡しておいたの。そしたら、血まみれのもう一人と一緒に転移してきて、いきなり喧嘩始めるんだよ。ギルマスの仕事に子守りは入ってないってー……まったく」
「こら、喧嘩ストップ!」
「ん」
そらちゃんが、もう一人の顎に膝をぶつけて失神させ、喧嘩を終える。手加減してたのね、えらい……じゃなくて!
「その子は? なんとなく予想はできるけど……」
「おとうと」
だろうね。髪の色も同じ青、顔立ちも似ていてかわいらしい。髪型は綺麗に整えられたボブで、二筋ぴょんぴょんと跳ねている。
白いシャツは血で真っ赤に染まっているが、さっきまで喧嘩してたみたいだし回復が済んでいるのだろう。
うーん、そらちゃんをもう少し活発にしたらこんな感じかな。
「てきになぐられるときに、よびだした」
それで、身代わりになってもらったと。うん、この喧嘩は百パーセントそらちゃんが悪いぞ。殴られる前にスクロールを使えば良かっただけの話だよね。
「ちゃんとごめんなさいしようね?」
「…………ん」
そらちゃんがほおをぺちぺちしてもう一人を起こすと、棒読みで「ごめん」と呟いた。
「うん、おねえ……ってゆるすかぁ! ぼけねえ!」
「がはっ」
強烈なストレートをみぞおちに叩き込まれ、血を吐きながら吹っ飛ぶそらちゃん。つよい、この子強いぞ……!
「これでおあいこ、ゆるしてあげる」
「ぐ、ぬ……」
二人の仲は悪そうだ。
「ああそうだ。ラリルくん、ドッドゥルド捕まえて来たけどいる?」
「ん、ありがとう。留置所の方に連れてくから、そのあたりにお願い」
ドッドゥルドをかばんから取り出すと、意識を取り戻したので即座に手刀で眠らせた。
一瞬で意識がなくなるので、痛みや苦しみはない。はず。
「あ、生きてたんですか。驚きましたよー……って一人増えてません?」
「なんかラリルくんが保護してくれてたみたいでね。あと弟だよ」
へえー、とお茶を飲みながら我が弟を愛でる休憩中の受付さん。ショタコンなのかな。
「名前はなんていうの?」
「ぎるがめっしゅ」
弟の名前は、僕がつけるより先についていたようだ。しかしなんだそのかっこいい名前は。やっぱりそらちゃんの名前は伝説の英雄とかからとった方が良かったかな。
「ギルガメッシュくんねー。かわいいねえ、お姉ちゃんがお菓子あげようか。ほら、これなーんだ」
「くっきー? くれるの?」
「もうあげちゃーう!」
さくさくと小動物みたいにクッキーを食べるギルガメッシュくん。そらちゃんはそれを面白くなさそうににらんでいる。
「そらちゃんもいる? ほら、クッキー!」
「……ん」
不機嫌さに気付いたのか気づいていないのか、受付さんがさらにクッキーを取り出すとそらちゃんの雰囲気はいくらか緩和された。
そらちゃんのことも同じようにかわいがり始めたので、ショタコンじゃなくただの子供好きお姉さんだったようだ。いやあ、やっぱりそらちゃんはかわいいよね! ギルガメッシュくんもかわいいけどね!
実はそらちゃんは、ドッドゥルドの絵を見る前から何となく、誰かが襲ってくると予想していたので、お昼ちゃんが心置きなく戦えるように砂漠へと誘導しました。
ちなみに、お昼ちゃんの脳はとっても小さいのですが、なぜ焼き切れてしまわなかったかと言うとですね。自動的に動作する回復魔法が脳を絶えず修復していたので、情報と回復が戦って拮抗していました。




