第3話 痛み、二つ
胸の痛みは熱いが、甘い。
ひどく熱されたホットチョコレートのようなものだ。たとえ口にしたそれが舌を焼くように感じられても――そして吐き出すことが叶わなくとも――、そこには何にせよ、甘味がある。
いずれは飲み下せるようにもなる、いずれは――それがいったいいつで、その後どれほどの間、火傷に悩まされることになるかはともかく――。
だが、体を走る痛みは。今、右手と脳天に残る痛みは、焦げつくように熱く、苦い。
部活で、そして先ほどの練習で、彼から何度も打たれた箇所。そこを走る痛みは。
後から――着替えを終え、分かれて帰途についた今になって――むしろ熱を帯び、強くなる痛み。肉の内側、骨から焦げていくかのような。赤熱した烙印を押されたかのような。
それで僕は、夜の道を歩きながら。苦く苦く、奥歯を噛んだ。
彼は強い――普段はあんなバカだが、本当に――。
うちの部で県大会上位を狙えるのは彼一人だったし、その剣勢からして違う。僕や他の部員が面や小手を打ち、叩くところ。彼は一人、斬り捨てる。刃筋を立てた、ぶれのない一撃を、防具どころかその奥の肉ごと、骨ごと。斬り落とすような剣閃を放つ。
彼の家は道場をやっている。剣道ではなく、伝来の居合術。それを含めた剣術を伝えるものだ――一般の居合形も併せて教示はしている――。
決してそれだけで食べていけるものではなく、日を限って副業として教えているそうだが。
剣道経験のある者は居合の上達が早く、逆もまた然り、とは聞くけれど。彼はまさにそれだった。幼少の頃から教え込まれたという刀の扱いは、小学校の中ごろから始めた剣道でもその力を発揮した。
それ以前からの友人だった僕は、彼の試合を見に行って。彼を追うように剣道を始めた。
そして彼に叩きのめされた。
ずっとそうだ。
彼は僕の友人で、一緒に剣道をやっていて。何度も何度も、叩きのめされている。
彼に甘い胸の痛みを覚える、ずっと前から。
僕は返したいと思っている、彼にこの体の痛みを。いつまでも消えず焦げつく、火のような熱さを。
彼にも味わわせてやりたいと、思っている。