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ドラゴンズ・ヴァイス  作者: シノヤン
参ノ章:激突

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第90話 成り果て

 屋根に登った籠樹の部下である化け猫と鴉天狗達は合計で七人程度であった。拍子抜けしたかのように気の抜けた様子で、仰向けに倒れている龍人の方へと近づいていく。気を失っているのかは分からないが、目を閉じたままぐったりとしており、彼の服の胸元には大きな焦げ跡が付いていた。銃弾による物だろうか。


 一匹の化け猫が顔を近づけてた時、雨が屋根にぶつかり始める。勢いは微かではあるが順調に増し始めており、あまり長居はしたくなかった。化け猫はしゃがみ、服を掴んで怪我の具合でも見てやろうかとする。しかし血が手に付く感触が一切ない事に気付き、同時に自分が愚かな選択をしてしまったと分かった。今の自分は、間合いの中に入ってしまっている。


 龍人が目を開けた。覚ましたのではなく開けた。この程度で昏倒する程ヤワではない。だが油断をさせるためにちょっとした芝居をしただけである。きっとアカデミー賞助演男優賞程度なら獲れるんじゃないか。そう思いながら、自分の服を掴んでいた腕に自分の足と手を絡め、すぐさまへし折る。弥助と行った関節技による組み合いの訓練がここで活きるとは思わなかった。


「ぎゃっ!!」


 悲鳴が上がったのも束の間、すぐさま龍人は化け猫の腕から離れて飛び跳ねるように起き上がり、跪いて喚いている相手の首筋に回し蹴りを叩き込む。嫌な音がした。化け猫は勢い余って屋根に頭を打ち付け、そのまま起き上がろうとしない。まだ死んではいないだろうが、社会復帰は極悪な難易度になる事だろう。


 一斉に化け猫たちがこちらへ向かってきた。倒れている一人を龍人は無理やり霊糸で絡め取り、勢い任せに彼等へ向けて放る。人型の砲弾とも言える威力で飛んできた仲間を化け猫達は避けきれず、勢いよく衝突して口々に呻いた。空から鴉天狗たちも迫ってくるが、全てにおいて支障にはならない。全部まとめてぶちのめせば解決する。そのように覚悟が決まって構えようとした時だった。


 光が迸った。それと同時に衝撃が空気を震わせ、轟音が鳴り響く。雷だ。倉庫の屋根そのものがツギハギの様に壊れ、その隙間から漏れるかの如く放たれた無数の雷が、鴉天狗たちを瞬く間に焼いた。悲鳴すら上げられず、火傷まみれになりながら墜落していく光景は、中々に度肝を抜かれる。


 屋根が壊された。次は雷ではない。圧倒的な体躯で下から叩かれ、破壊されたのだ。瓦礫を撒き散らしながら屋根を壊したそれは、勢いよく夜空へと舞い上がり、大雨の中で雷鳴と共に姿を見せつけて来る。巨大な蝙蝠じみた翼と赤い目、人の肉体を無理やり引き延ばしたかのような悍ましい細見の体。所々に生え変わっていないピンク色の羽も見えたが、やがてそれらも抜け落ちた後に全身が漆黒の羽毛に染まっていく。


「兼智… ?」


 龍人は思わず呟いたが、兼智は意に介さず絶叫した。全身の毛が逆立ちそうな、不愉快すぎる金切り声。


”走れ ! 死ぬぞ !”


 その直後、頭の中で声が響いた。自分の直感という事で無理やり納得し、龍人は背を向けて走り出すが、直後に真後ろへ落ちた雷が足場を壊してしまい、倉庫の中へと落下する。直撃するよりはマシだったが、床に身体を叩きつけてしまったせいで全身が痛い上に痺れてしまっている。何とか起き上がりはしたが、馬鹿騒ぎして喜んでいる声がする方へ顔を向けると、籠樹が手を叩いて喜んでいた。


「読み通りや ! やっぱガタイのええ奴にぶち込むとちゃうなあ」

「籠樹…お前、何しやがった⁉」


 籠樹へ龍人は怒鳴るが、再び空から兼智の鳴き声が聞こえて焦ってしまう。先程よりも声が遠い事から、既にこの場を離れつつあるのだ。このまま放置するのはマズい。


「兼智君に起死回生のチャンスを与えてやったんや。あんだけのパワーがある今なら、世界征服も夢やないで ? ワシらを敵に回さんかったらの話やけど。ほんじゃ、今は龍人君に興味ないさかい…バイバイな~」


 籠樹は手を振りながら踵を返し、源川は龍人の方に小さく会釈をしてから部下を引き連れて立ち去って行く。


「待て!!」


 龍人はすぐさま追いかけようとしたが、颯真からの連絡が入ってる事に気付いて足を止める。歯痒くて仕方が無いが、連絡の内容を推察するに兼智の事だろう。確かに今は籠樹を追いかけている場合じゃない。


「龍人 ! 空を見たか⁉あれ一体…」

「…兼智だよ。籠樹の野郎が何かしやがった」

「何なんだよ…クソ。龍人、あいつは俺が何とかする。お前はレイの所に行け」

「何とか出する、ねえ。大層な自信だ」

「嫌味言うな。今は味方で空飛べるの俺しかいねえだろ。早く行け ! 目撃情報があったんだ…裂田亜弐香がいやがる」


 裂田亜弐香の名前を聞いた時、龍人は一瞬躊躇いが生まれた。なぜよりにもよってアイツなんだ。正直颯真と変わってもらいたいくらいであったが、それは止しておこう。何より自分が助太刀しなければレイが危ない。一応ではあるが、あの女との交戦経験のある者がいれば、多少は状況が有利に進むだろう。行く以外の選択肢は無かった。


「…すぐ行く。ああそれと」

「それと ?」

「あのレインコートもう少し改良しろよ。速攻でバレたぞあのポンコツ」

「マジ⁉」

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