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ドラゴンズ・ヴァイス  作者: シノヤン
参ノ章:激突

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第84話 地獄行き

「あ…あの…ほんとうにやるんですか ?」


 ストレッチをする弥助へ、財閥の職員がスピーカーを通して聞いてきた。財閥の地下に保管されている地獄への通り道…”開口陣”と呼ばれる血で床に描かれた陣の上に弥助は立っている。財団の職員は、弥助のいる部屋から分け隔てられた管理室で準備を進めていた。強固な防弾ガラスと分厚い鋼の壁によって分け隔てられた管理室の中でしきりにキーボードを叩き、周辺の大気の安定度とこれから向かう先の通信状況の確認をしていた。


「当たり前だ。善は急げと言うだろ」

「分かってはいますが…本来であればこの開口陣を使うのは、地獄の方から要請があった時だけなんです。この町や現世に住んでいる幽霊たちを見たでしょう ? 地獄での責め苦に耐えた上で、更生の見込みがあると判断された者達は、暫く地獄から解放されて様子を見るんです。それで問題を起こす事も無ければ、改めて極楽浄土へ行ける…執行猶予ってやつですよ」

「こっちから送り込むって事は無いのか ?」

「ほとんど無いですね。それこそ、問題を起こして連れ戻す事になった幽霊の引き渡しぐらいでしょうか。地獄にいるのは悪人の魂だけじゃない。それらをいたぶるため、敢えて放し飼いにしている魔物達も住んでいる。万が一現世に解き放たれるなんて事になれば責任問題ですよ。だから我々が地獄側と通信でやり取りをし、細かい調整をして厳戒態勢を作り上げた上で、幽霊の受け入れや引き渡しを行う。今回の様にまともに準備もせず、向こうに知らせずに突入させるなんてことはあり得ない。やってる事としては、完全に不法入国ですから」


 不法入国という言葉を聞いて弥助は少し眉を吊り上げ、若干不愉快そうに頷いた。仮にも公務員という立場にありながら、そんな自分が大それたマネに手を染めるとは何と皮肉な物か。それも知人に会いたいというこの上なく身勝手な理由で。


「さ、準備が出来ましたよ」


 エンターキーを強く叩いてから職員が再びスピーカーで報告をしてきた。間もなく弥助の部屋の照明が落ち、視界を保ってくれるのは管理室の窓から入り込んでいる光のみである。しかし、それも間もなくシャッターが下ろされた事で完全に失ってしまった。


「先ほども言ったんですが、生きて帰れる保証はないですからね」


 スピーカーから声が聞こえた。


「目的が済んだら、すぐに三途の川へ行ってください。無事に閻魔様の下へ辿り着いて、手筈通りに事情を説明すれば返してもらえるでしょう。それ…と…どうか…その場を一歩…も…動…」


 こちらへ延々と語り掛けてくれる職員だったが、その声が途切れ途切れになり、やがて夕立のようなノイズ音が響き渡り続ける。自分が目を開いているのか閉じているのかすら分からない程の漆黒の中、弥助は本能的に目を閉じた。確信は無いが、これから起こる事態は、自分の視界に入れて記憶に焼き付けてはいけない物だという気がした。


 直後、足を何かに掴まれた。それだけじゃない。熱く、更には濡れた物体たちが自分の体に纏わりついてくる。強い力であり、気を抜けば骨を砕かれかねない。叫び声も聞こえてきた。ありとあらゆる世代、性別、人種の混ざった悲鳴が耳元で怒鳴っているのかという勢いでこちらを蝕んで来る。目を開きたい。だが、それをしてしまうと自分が正気でいられなくなるのではないか。その不安もあって、事が収まるまで弥助は耐えようと決意した。やがて地面に接地していた足裏の感触が消え、ゆっくりと床に沈み込んでいく。


「ほっほー、やっぱいつ見てもすげえな」


 職員はノイズ交じりの監視映像を見ながら、呑気にカップヌードルをフォークで巻いて食べている。視線の先に移る映像では、やせ細って血みどろになっている悍ましい餓鬼達によって弥助が引きずり込まれている姿があった。地獄に送り返される幽霊たちは、血走った目と牙を持つ顔が己を覗き込んで来る状況に泣き叫びながら助けを乞うのだが、弥助は一切動じない。その姿勢が中々新鮮であった。やがて弥助が陣の中に沈んで姿を消し、映像のノイズが収まったのを確認してから職員は立って背伸びをし、この後の報告書の作成に思いを馳せて憂鬱な気分に浸り出した。




 ――――引きずり込まれた弥助は、唐突に自分の体が自由を取り戻した事で変な爽快感を味わった。それだけではない。下方に向かって自分の体が引っ張られていく。というよりは、明らかな落下運動であった。たまらず目を開けてみると、黄土色の空が目に飛び込んで来る。体を捻って広報に向けるとやはりだ。赤黒い、濁った大地が自分の下には広がっていた。地獄に向かって、スカイダイビングの真っただ中だったのだ。


 そんな彼の隣には、群がった餓鬼達によって形成された高い塔があり、鳴き声と共にそれが瓦解し始めている。現世から久々の獲物が来そうだ。そう考えて全員が一致団結し、塔を作ってでも自分を引き摺り込んだはいいが、そのままバランスを崩したのだろう。ざまあみろといった気分である。だがうかうかしてはいられない。このままでは自分もまた地面に叩きつけられてしまう。


「…あれだ !」


 空を飛んでいる一匹の魔物を見つけた弥助は、霊糸を放ってそれに巻き付ける。魔物は動揺して暴れ出すが、自分の体重もある以上は長距離を飛ぶのは難しい筈である。どこかで降下してくれる事をひとまずは祈っておくしかない。そう思っていた矢先、更にいい物を見つけた。背中に要塞の様な籠を載せた四本足の巨大な魔物がいる。三途の川から死者を地獄へ輸送するための移動手段として魔物が使われると聞いていたが、あれがそうかもしれない。丁度いいと考えた弥助は、それが近づいてきた頃合いを見計らって霊糸を解除して飛び降りる。地獄旅行の始まりであった。

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