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ドラゴンズ・ヴァイス  作者: シノヤン
参ノ章:激突

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第81話 たぶん不殺

 まず一人が、龍人の眼前に迫って来た。片手にビール瓶を持っている。腕を上げているところから、自身の頭部に目がけて振り下ろしてくることが容易く想像できる。アホらしいものだ。得物とはいえ、お世辞にもリーチを確保でわけでもない道具で見え見えの攻撃を仕掛けてくるなど、典型的な素人の手段である。


 体を右に逸らし、振り下ろされるビール瓶を避けたその間際に、龍人は拳を握った。狙いを付けるために力は不必要に込めず、それでいて鋭く速く拳を顎に向けて放つ。徒手空拳における基本はガードを崩すのではなく、ガードを出来ていない場所をいかにして見つけ出し、狙って打ち込むかにかかっている。弥助も佐那も口を揃えてそう言っていた。その教えが活きたのか、暴漢の顎に龍人の拳が食い込み、僅かに首を揺さぶる。脳震盪が起きたのか、瓶を落としてそのまま倒れ込んだ。


「次来い次」


 そう呟いたが、住民達はその声を聞く前に襲い掛かって来る。レイと二人して駆け出し、龍人は開幕にドロップキックで飛び込んでいく。レイの方はといえば、走っていた龍人を踏み台にさらに飛躍し、頭上から奇襲を仕掛けた。着地代わりに住民の一人を脚で踏みつけ、勢いよく地面に蹴り倒してから、続けざまに近くにいた別の住民に襲い掛かる。驚いた住民は咄嗟に腕を振って来るが、彼女はその腕をすぐに掴んで捻り上げた。悲鳴が少し上がったが、その隙だらけになった瞬間を見計らって相手の股の下…つまり睾丸を蹴り上げた。


 手ごたえからして潰れてはいないという確信はあるが、暫くはまともに動けないだろう。叫び声を上げる事すら出来ず、聞き慣れない呻き方をしながら倒れ伏す。


「このガキィ!!」


 体格のデカい別の住民がレイに抱き着くような形でタックルを仕掛けるが、彼女はそれをわざと受ける。そのまま押し倒される直前に、相手の頭部がどこにあるのかだけを確認してから、中指を立ててから耳に目がけて容赦なく挿し込んでやる。


「ぐあっ」


 怯んだその瞬間に相手の首の周りに腕を回し、同時に胴体に足を絡めて抱き着くような形でフロントチョークの態勢を取って一気に締め上げる。倒される際に背中を打ったが、この程度の苦痛は慣れている。何よりこれで手を緩めるような事があってはならない。その甲斐あってか、間もなく自分を押し倒したバカの抱き着く力が弱まってしまった。気を失ったのだ。


 しかしまだ終わっていない。彼女が倒れていたのを好機と見た者がそのまま顔面を踏みつけようとしてくる。本当なら躱すところではあるが、余計な体力は使いたくない。何より彼女はある程度周辺の状況を分かっていた。ここならたぶんアイツも気づいてくれる。


「てめえはこっちだ !」


 次の瞬間、自分を踏みつけようとした住民が、龍人の霊糸に絡め取られて後方へと引っ張り寄せられる。そのまま霊糸によって振り回され、近くにあった店の壁に叩きつけられた。その間に後ろからバットで襲い掛かられたが、開醒によって強化されている肉体には効果があまりにも薄い。相手側も同様に、手ごたえがあったにもかかわらず血を流さないどころか、若干苛立った様にこちらを振り返る龍人に恐れをなしている。その後、殴り倒されたのは言うまでもない。


 その後も次々と襲い掛かって来る者達を、二人揃って死なない程度に痛めつける。どの道佐那からの説教は免れないだろうが、隠すつもりが無い以上は無抵抗でいるよりも多少暴れた方が損失が少なくて済む。何より警告はしたのに聞く耳を持たなかった住民側が発端なのだ。責任の割合で言えば相手側の方が大きい。


「よし…終わり」


 言い訳を考えている内に、辺りは悶え苦しむか気を失って倒れている住民達で溢れかえっていた。野次馬達は呆然としており、それを尻目にレイは煙草をふかそうとする。だが、仮面を外さないといけない上に、野次馬がいる事に気付いて不機嫌そうに溜息をついた。


「なんや見せもんちゃうぞ、オラ !」


 その一声で野次馬は逃げ散ってしまい、これで気兼ねないとみたレイは煙草の箱を取り出そうとする。だが、龍人がその手を抑えた。


「人目に付くから別の場所で吸おうぜ。それに兼智の後を追わねえと」

「ええ~…はいはい」 


 龍人の提案にレイは不服を感じたが、こちらの返答を聞く事なく先程までいた屋上の方へ戻り始める龍人を見て焦ったのか、煙草をポケットに戻してからすぐに追いかける。やがて屋上に戻った上で仮面を外し、改めて煙草を取り出して口に加えた。オイルが少ないせいでライターを点火するのには時間が掛かったが、間もなく火が付いた事で一服を開始する。その間、龍人はスマホを弄ってから、颯真相手にチャットを試みていた。


”颯真、どうなった ?”

"暫く逃げてたけど、迷いながら鮎沼工業まで行こうとしてるぞ"

”マジか。すぐ行く”

”俺が見とくから少し休憩しとけよ。どうせ暴れただろ ? 疲れてそうだし休め”

”オッケー、ちょっとしてから行くわ。ありがとな”


「…颯真が追跡してる。コンビニかなんかでおやつ買うか」


 スマホを仕舞ってから龍人が誘う。丁度彼女が吸い終わった煙草を携帯灰皿に仕舞う所であった。


「お、ええな。ウチが奢ったる。最近金入ったし」

「…前から思ったけど、”苦羅雲”っていうかお前の収入源って何なの ?」

「不動産管理や。招良河の方に結構団地とか持っとるからな、格安やけど」

「不動産管理… ? お前なんかがそんなカッコいい事やってんのか」

「死にたいんか龍人」


 彼女の意外な側面に驚きながら、龍人は兼智の追跡を再開した。

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