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ドラゴンズ・ヴァイス  作者: シノヤン
参ノ章:激突

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第71話 お邪魔します

「また食うのか…」


 龍人達は焼肉屋にいた。師岡姉妹、レイ、颯真だけでなくなぜかアンディ達までいる。「タダで食事をご馳走してくれる」という話を颯真から聞き、店は臨時休業にしたらしく、従業員たちを含めて全員がテーブルに着いていた。座敷に三つのテーブルを用意してもらい、弥助、龍人、颯真、そしてレイの四人で一席を囲みながら、中々焼き上がらない肉の様子をトングで確認する。キヨは他の者達と交流したいと言って、アンディたちの席で呑んだくれていた。


「何言ってんだ。沢山食えなきゃ、いくら鍛えようが体にとって何のプラスにもならねえ。内臓を強くするってのは、体の限界値を底上げするための第一歩だ」


 白飯の入った小さめのボウルじみた大きさの茶碗を手に、弥助は焼き上がった肉を龍人の取り皿に勝手によそう。お節介だと言いたいところだが、費用は全て彼が持つという事もあって断りようがない。仕方なく、まだたこ焼きによって重くなっている胃袋へ龍人は肉を詰め込み始める。くどいようだが、つくづく贅沢な悩みを持つ人間になってしまった。


「ホルモン乗せるぞ~…しかし、亜空穴が世界線と宇宙空間にひずみを作るだけじゃなくて、時空さえも歪めてしまうってのは本当なんだな。アンタの話聞いてると」


 颯真は玄米の入った小ぶりな茶碗を傍に置いて、シマ腸を網の上に雪崩の如く乗せる。臓物系統は網が汚れるため、もう少し後に乗せて欲しいと弥助は思ったが、水を差すのも悪いと思って敢えて言わなかった。レイはと言うと、周りが皆米を食う派なせいか、一人寂しくマッコリを啜っている。


「ああそうだ。昔アフガニスタンに派兵された時、突発的に発生したものに巻き込まれちまってな。気が付いたら、辺りはアメリカとはかなり性質の違う景色が広がっていた。倒れていた俺を物珍しそうに、その…平たい顔をした皆様方がのぞき込んできた時には驚いたぜ。アフガニスタンの内地で呑気してたってのに、いつ間に俺はアジアに漂着してたんだってな。後で調べたら、巻き込まれた他の兵士達は今も行方が分かってないとよ」

「何か壮絶な話だな」

「一応捜索は続いてるさ…だが、下手をすればそもそも生きて帰ってこれないような場所に行っちまってるってのも考えられる。発見できる可能性は絶望的だろうな。飛ばされた先が日本の戦国時代だっただけ、俺はまだ運が良かった」


 ホルモンを弄りながら弥助はしんみりと颯真へ語る。彼が辿る事になった数奇なる運命がどれほど波乱に満ちていたのか、少なくとも数少ない資料に遺された時代の痕跡を知っていた龍人たちにとっては想像に難くなかった。


「まっ、その後は紆余曲折あって…何とかこうして現代に帰って来れたがな。それに、壮絶といえばお前も大概じゃないか ? 龍人」

「俺 ? まあそれなりには…」

「それなりどころじゃねえさ。佐那のヤツが、日本に来る前に俺に資料を見せてくれたんだ。お前の経歴に関する部分をな。俺も少し目を疑ったが…」

「色んな事して迷惑かけてた頃の話 ?」

「そうじゃねえ。お前の出自についてだ。少し真面目な話になるが良いか ?」


 話題が変わった瞬間、龍人の箸が止まった。ちょうど火柱が上がり、レイが慌てて火力を弱めた事で肉が焼ける音が小さくなっていく。おかげで声がより耳に入りやすくなった。


「…出自 ?」


 龍人が弥助の顔を見た。


「佐那は仕事の合間に、行政へのコネを使ってお前の事を色々調べ回ってたらしい。それこそ、あまり思い出したくないだろうが…お前が最初に入っていた養護施設のすみれ園も含めてだ。だが、奇妙なんだと」

「な、何が ?」

「無いんだよ。全く情報が無いんだ。辛うじて残っていたのは、”霧島龍人”の名前が書かれた紙と一緒に、赤ん坊だったお前が裸のまま雨に打たれて道端に捨てられていた。それだけだ。へその緒は外れてたそうだが、誰がそんな事したのかさえ分からねえ。霧島って苗字の人間は養護施設のあった町はおろか、近隣にもいなかった。お前を粗末に捨ててトンズラこいてるってわけだ」


 龍人は受け止めきれずにいた。きっと親が自分の元から離れたのは何か事情があったんだと、どこか自分に言い聞かせながら今日まで生きていた楽観さ。そんな物を嘲笑うかのように現実は自分に平手打ちを食らわせ、刺々しく言い聞かせてきたのだ。まさか文字通り、「捨てられた」とは夢にも思っていなかった。


「物心つくまで、何もすみれ園で起きなかったってのはせめてもの救いだろうな。下手したら、今頃生きていなかったかもしれねえ」

「なあ、やけど変やないか ? 苗字付きで名前までくれて、へその緒取ってくれたんに、別の町までわざわざ行って捨てたりなんか普通するんか ?」


 思わずレイが口を挟む。あまりにも惨く、おまけに赤子を捨てる人間にしては行動が不可解過ぎたのだ。


「しないな。だから変なんだ。それに…こいつの先祖らしい霧島龍明は、俺と佐那の二人相手に戦って命を落としてる。その前に子供を作ってて、おまけに子孫が未だにいるなんて耳を疑ったが…佐那がここまで肩入れする辺り、ただの気のせいってわけでもなさそうだしな。問題はどうやって、ヤツの血が今日まで残り続けたかだ」


 弥助はそこまで行って少し冷めた米を肉と共にかっ込み、ビールで全てを流し込んでから龍人を見る。


「そこで俺は仮説を立ててな。恐らく鍵は、亜空穴にあると睨んでいる」


 若干気が沈んでいた龍人は、弥助の言葉に再び顔を明るくした。


「さっきの話の通り、亜空穴は様々な時空、宇宙、そして世界線に繋がっている。もしかすれば何らかの原因で、俺とは逆に現代のこの世界へやって来てしまったって人間もいるかもしれねえ。そして、この現代では亜空穴から手に入る物質を取引している連中だっている。裂田亜弐香や渓村籠樹みたいにな」

「つまり、あいつらを何とか出来れば…」

「ああ。連中をぶちのめして、洗いざらい吐かせれば、亜空穴の仕組みと奴らのビジネスの全貌が分かる。そうすればお前の生まれについての手掛かりだって手に入るかもしれねえ。もしお前が亜空穴を通じて、この現代にやって来ていたらの話だがな。そのためには、奴らを無理やり叩き潰せるだけの力が必要になる」


 龍人は気分が高揚し始めた。簡単な話ではないか。亜弐香たちを倒せば自分がどこで誰が産んだのかが分かる。自分の親が分かるかもしれないのだ。会ってみたいと願っていた者達に。


「いいぜ。やってやるさ」


 少しにニヤけながら龍人が言った。


「その意気だ。まずはたらふく食う。そして体を作る !」

「じゃあ僕も一緒に良いかな ?」

「おう良いぜ ! 何せ飯ってのは騒いで食う事で美味さが倍増―――」


 背後から聞こえた声に弥助が胡坐をかいたまま振り返る。だが、そこには店の照明を塞いでしまうほどの巨体の鬼が立っていた。辺りを見てみると、騒いでいた周りの者達は手を止めて呆然とし、龍人が鬼を睨んでいる。


「龍人、まさか…」

「ああそうだよ。クソ…何でお前がここにいるんだ ? 裂田亜弐香」

「いやあ、探してると思ってね。僕の事」


 困惑する弥助と龍人を前にして、亜弐香はジャージのポケットに手を突っ込んだまま笑みを浮かべた。

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