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ドラゴンズ・ヴァイス  作者: シノヤン
参ノ章:激突

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第66話 当たって砕けろ

 とても良く晴れた日だった。これがカリブの海賊ならば、絶好の船出日和だと歓喜する程度には心地良い暖かさが、爽やかな日差しによって充満している。それを一身に浴びながら、龍人は”鮎沼工業”のスクラップ置き場で準備運動をしていた。彼のいる開けた場所は、周囲を多種多様なガラクタの山で囲っており、その先には佐那がいた。


 スーツのジャケットを脱ぎ、ワイシャツの皺を気にしている彼女を観察しながら、龍人は深呼吸をして肩を回す。彼女と手合わせをする時は、格闘術の稽古だろうが武器術の稽古だろうが緊張するのだが、今回ばかりはいつも以上に不安が大きい。


「見てみいや、あのオバハン。袖すら捲ろうとしてないで」


 背後から彼のパーカーが叩かれ、それなりに聞き慣れた関西弁が耳に入って来た。レイが現れ、龍人の隣に立っている。


「うちら如き、袖捲って気合入れるまでもないって言いたいんかい。アホらし」

「しょうがねえだろ。この後仕事で海外行かないといけないらしいし」

「ほーん、じゃあ向こうで赤っ恥かくぐらいボロボロにいてこましたるわ」

「楽に言ってくれるな…出来るならとっくにやってるっつーの」


 レイもまた、ウォームアップ代わりにシャドーボクシングを行って体を温めていた。ふとスクラップの囲いを見渡すと、隅の方でビニールシートを敷いて気楽に見物を決め込んでいる連中がいた。さながらピクニックである。


「頑張れよーお前ら」

「「お前も来いよボケ」」


 アンディや師岡姉妹に囲まれて颯真が声援を飛ばすが、当の二人は恐ろしく不愉快そうに彼をなじった。颯真はグチグチと「でも俺喧嘩苦手だし…」と言ってコーラを呷っており、やはり一緒に来てくれるという事は無さそうであった。


「しゃーない。俺達二人でやるか」

「てか実戦形式って、何でそないな事思いついたん ?」

「自分の欠点見つける時ってのは、一回全部出し切るぐらい頑張ってみるのが一番だぞ。老師が言ってた」


 亜弐香との交戦経験を、龍人は酷く引き摺っていた。ましてや佐那の出張がかなり長期の物になると聞き、その不安はより強烈な焦燥感となって彼に牙を剥いている。最初の時は運が良かっただけである。今のままでは今度こそ殺さてしまうだろう。鍛え直す必要があった。時間が無いのを承知で相談した所、自分が胸を貸してくれるという事でこうして場を設けたのだ。しかも、どんな仲間も手段も問わないというオプション付きである。


「飛行機の時間があるの。早くして頂戴」


 痺れを切らした佐那が二人へ呼びかけてくる。これみよがしに黒革ベルトの腕時計を指で小突いており、仕事のために気合を入れているのがよく分かった。因みにピンクゴールド色をしたグランドセイコーである。


「何か腹立ったから、アレぶっ壊してやろうぜ」

「賛成や」


 二人は駆け出した。すぐさま佐那の前に立ちはだかり、彼女の左の脇腹へ龍人は拳を打ち込む。開醒・尖凝式により腕を集中的に強化させていた。手始めは軽くなどと、そんな悠長なことを言っていられる相手ではない。普段の生活を共にしている故、彼はよく分かっていた。


 しかし佐那は、そんな龍人とレイの攻撃を軽々といなし始める。鉄の爪と龍人の拳を受け流すように躱しつつ、やがて左脇腹へ来た打撃を自身の左手で容易く受け止める。僅かに衝撃はあったせいか強めに踏ん張っていたが、これといって動じてはいない。そんな彼女の死角、反対側の側面からレイが襲い掛かって来た。鉄の爪で彼女の面を引き裂いてやろうと振り下ろすが、あろう事か佐那はそちらも防いでしまう。振り下ろしてくるタイミングを見計らい、刃先を右手の指でつまんでしまったのだ。


 龍人もレイも、慌てて退こうとするのだが動けない。開醒・尖凝式、それも龍人の物よりも遥かに強力な力である。佐那は二人を見つめるが、特に何か感情を露にするわけでは無い。不気味であった。只小さく、「遅いし見え見え」と揶揄うような声を漏らしただけである。


「何でもいい…アンタそう言ったもんな」


 マズいと判断し、部外者だと決め込んでいた颯真が動いた。義翼を遠隔操作で呼び寄せるよう仕向け、隠し持っていた拳銃をすぐさま構えて立ち上がる。龍人と事前に談合し、ある程度消耗してると思ったタイミングで仕掛けるのが当初の予定だったが、開始初手の段階で見抜いてしまった。手札を隠し持っている場合ではない。


 三発撃った弾丸の一発目は標的である彼女の背中を大きく外れ、二発目は胴体、三発目は頭部へと向かう。だが彼女が一度足踏みをすると、霊糸によって形成された盾が出現して受け止めてしまった。だがその程度は想定の範囲内であり、飛来してきた義翼を装着してから颯真はすぐに空へと舞い上がる。


 想定よりも早く颯真が動いた事に、龍人が一瞬気を取られてしまう。その隙に佐那は手を離してから、素早く彼のみぞおちに拳を叩き込んだ。更につまんでいた鉄の爪を指でへし折り、得物を壊されて動転するレイの間合いへ素早く入り込むと、彼女のレザージャケットの襟を右手で掴んでから、そのまま片腕の力のみで背負い投げを繰り出した。


 このままではレイが叩きつけられてしまう。そう判断したのか、立ち直った龍人が霊糸を放った。レイを掴んでいる佐那の腕に巻きつけ、それを自分の方へと引っ張って勢いを止めたのだ。


「サンキュ」


 辛うじて出せた小声でレイが龍人へ言った。その直後、上空から颯真が銃弾を放つ。義翼に搭載させておいた武器用のホルスターから対物ライフルを取り出し、それを佐那に目がけて発射した。それも対異能生命体用特殊戦闘弾である。いかに霊糸といえど、真正面から防ぐのは一筋縄ではないと睨んでいた。だが、佐那は想定外の対応をしてきたのだ。


 がら空きになっていた左手で彼女は尖凝式を発動し、弾丸の軌道へと腕を振る。自分の顔に目がけて上空から放たれた弾丸に対し、払いのけるように振った手の甲が当たる。真正面から受け止めるのではなく、弾丸の側面を叩いて軌道を逸らしてみせたのだ。


「…マジかよ」


 レイを雑に放り投げる姿を上空から見ながら、颯真は慄く。一方で放り投げられた後に何とか着地したレイは、霊糸を解除して仕切り直すように構えた龍人の方を見た。


「これも計算の内なん ?」

「悪い、俺もナメてた。あの人思ってたよりバケモンだ」


 もやは彼らは、死なない程度に手加減してくれる事を祈るしかなかった。

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