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ドラゴンズ・ヴァイス  作者: シノヤン
弐ノ章:生きる意味

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第44話 気になる

 空気の流れを肌で感じながら、佐那は刀を持ったまま蛇進索を発動する。霊糸を手でしか扱えない者はまだまだ半人前、経験と修練次第では全身から霊糸を利用した術を発動できるようになる。張り巡らされた霊糸は、顔を伝う汗さえ凍る様な冷気の中で輝き、辺りで雪女が動く度に佐那へその気配の位置と動きを報せる。これによって頭上、背後、左右といった死角から襲い掛かられるが、その都度見切って刀で凌ぐ事が出来た。一方で反撃をしようにもすぐに靄となって逃げられてしまう。


 相手の動きが少ないという点を見るに、雪女側も佐那の様子を見ている可能性が高い。不発だったとはいえ、刀で反撃をされる事を警戒しているのだろう。だがそのお陰で分かった事もある。武器による攻撃を警戒しているという事は、少なくとも実体に触れる事自体は可能である事を意味している。


「根性比べね」


 佐那は呟き、自分の腰をまさぐって使用していない散弾銃用の弾薬を辺りに落とす。それらを一瞬で切り裂き、中の火薬を辺りにぶちまけさせると、次に香草と白檀を調合して作った香油を刀に垂らす。そして、床にぶちまけた火薬の上に油でぬれた刀を突き立てた。準備は万端である。


 こちらの不審な動きに対し、雪女がどのような反応をするかが気になったが、やはり霊糸に反応があった。自分の背後に密集したような冷気と殺気が迸っている。こちらが隙を見せたと勘違いしたらしく、間もなく雪女の気配が接近を始めた。それでいい。双方にとって逃げる余裕の無い環境にしておきたい。


 やがて雪女が掴みかかろうとしたその時、佐那は突き立ててた刀で床の火薬を擦り、激しく火花を散らせた。靄になって逃げようとする雪女だが、今度ばかりは上手く行かない。火薬によって刀に火が付いた瞬間、佐那は振り向いてそれを投げつける。命中はしなかったが、刀が壁に勢いよく突き刺さった頃合いで佐那は素早く印を結び、無数の霊糸を火の灯っている刀へ延ばさせる。


「幽生繋伐流、”焔鎖牢”」


 佐那の言葉に反応するかの如く、霊糸によって火が絡め取られる。そこから火を纏った霊糸たちは周辺に高速で拡散し、絡み合い、やがて巨大な牢獄を形成し出した。火で作られた円状の牢獄の中で、佐那は袖を捲り始める。向かいには実体を露にして苦しみ出している雪女がいた。


 本来は高温を苦手とする妖怪を捕えるための術であり、使い手が牢獄の中に入る事は想定していない。だが、今回に限っては生かしておく理由も無い上に、下手に見逃して暴れられても困るという都合がある。故に短期決戦で始末をするため、彼女は内部に立つ事を選んだのである。


 わざわざ自分に近づいてくる佐那を雪女が喜ばない筈も無い。せめて道連れにしてくれると、なけなしの体力で襲い掛かる。が、哀れなほどに覇気も無ければスピードもパワーも足りていない。既に溶けかかっているツララの爪を佐那に躱され、そのすれ違いざまに肋骨へ拳を打ち込まれる。間違いなく何本か折れた。


 気を操作し、五体に纏った生命のエネルギーを相手にぶつけるという幽生繋伐流の性質上、真髄は格闘にある。武装錬成によって武器を使用するのは、あくまで余計な体力を使いたくない雑魚を相手にする時か、手で触れるのが難しく、武器に頼らざるを得ない場合のみである。そのため間合いこそ武装錬成に劣ってしまうが、素手による攻撃が最もエネルギーを相手に叩き込みやすいのだ。


 ほんの数発殴られただけで、雪女は血反吐を吐きながら怯えて後ずさりをする。雪、氷、冷気を使えないというただでさえ不利な環境でありながら、目の前には自分を始末する気でいる異常者が迫ってきている。その事実が尚の事絶望感に拍車をかけていた。


「悪いわね」


 恨むべきは、逃げずに勇猛果敢に挑みかかって来た自分の身の程知らずさしかないだろう。佐那はそう思いながら、最後の拳を雪女の腹に当てる。正拳突きは腹を貫通し、雪女の白い肉体に風穴を開けた。崩れ落ちた雪女の死体を尻目に、佐那は焔鎖牢を解除し、辺りのボロボロになった箱の中で無事な物を見つけて抱える。そして足早に去って行った。


「私に電話とは珍しいですね」


 施設を出た佐那が最初に電話をした人物、それは智明であった。


「風巡組が根城にしていた建物で戦利品を見つけた。調べて欲しいから研究開発部と颯真君に会いに行くと伝えて頂戴。それと念のため建物には兵を送って、もう少し詳しく調べた方が良いかもしれない」

「分かりました、すぐに手配いたします」

「後、颯真君と龍人から連絡はあったかしら ?」

「それが…まだ何も」


 建物を出て、地面に置いた木箱へ腰を掛けてから佐那が指示を出す。同時に弟子とその友人の身を案じていたが、智明も同様だったらしい。どうも落ち着かない様子で答えを返してくる。何事も起きていない事を願うしかなかったが、目的が目的である以上それは不可能であった。




 ――――目が覚めると、そこは薄暗がりの密室であった。


「あ~、もう何だこれ…」


 自分の身に起きている状況を確認し、龍人は悪態をつく。椅子に縛られたまま座らされており、両手はそれぞれが手錠で椅子の足に繋がれていた。これでは印を結ぶことが出来ない。後頭部に鈍痛が残っている。確かに視界がブラックアウトする前、強烈な衝撃が頭に襲い掛かった気がする。髪の毛にむず痒さがあり、血が垂れているのだと分かった。恐らく強めに、それも素手以外の得物で殴られたのだろう。


「よぉ、目ェ覚めたん ?」


 密室の奥、ドアが開いて光が差し込んできた。二人組の影、声色からしてかなりの上機嫌である。その影が近づいてきてようやく分かった。美穂音と綾三だ。ニタニタとした性格の悪そうな笑みを浮かべ、指や首を鳴らして龍人の目の前に立ちはだかる。次の瞬間、龍人を椅子ごと蹴り倒した。

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