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ドラゴンズ・ヴァイス  作者: シノヤン
弐ノ章:生きる意味

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第29話 実力不足

「何だ、思ってたよりいい家じゃん」


 二日後、佐那達が住むマンションの前に車を停めてから颯真は車外へ降り立った。どうという事は無い。龍人とストランドで酒盛りをしたついでに住所を教えてもらっただけである。そうべらべらと個人情報を喋るのはどうかと思ったが、あの二人が住んでいるとなればわざわざちょっかいを掛ける必要も無いだろう。


 自動ドアと思わしき扉が備えられている玄関の左側には、青い炎に包まれた目玉が宙を浮いていた。颯真の動きを追っており、クリクリとした瞳を彼に向け続けている。


「1101号室を頼む」


 颯真の頼みが聞こえた直後、目玉の背後にある壁の鏡が歪んだ。反射によって見えていた鏡の中の光景が暗転し、吸い込まれそうな程に暗い空間のみが映し出される。やがてその中から声が聞こえた。


「どなた様ですか ?」


 佐那の声である。静かな物言いだった。


「老師様、俺だよ俺。颯真。龍人に会いたいんだけどいる ?」

「……静かに来て頂戴」


 佐那の忠告の意味はよく分からないが、間もなく玄関のドアが開いた。大理石の床にブーツの擦れる音を響かせてエレベーターに滑り込んだ颯真は、少しの間だけ暇を持て余す。やがて目的の階層に到達したエレベーターから出ると、通路の右奥の部屋へ向かう。が、そのドアの前に佐那が立っていた。腕を組んでいた彼女だが、颯真に気付くと小さく手を振ってくれた。Tシャツにスキニージーンズという組み合わせであり、歳の割に若々しくがっしりとした体躯をしている事が、衣服の薄さのお陰でほんのりと分かる。


「ごめんなさいね」

「もしかして来るの早すぎた ?」

「いえ、済ませられる用事は早めに片付けておいた方がいいもの。ただ、龍人が今トレーニングに集中してて。邪魔をしたくない」


 邪魔をしたくないとはいえ、ここまで慎重になる必要がどうしてあるのか。恐ろしくゆっくりとドアを開け、音を立てないように忍び足で彼女と部屋に入った事でその理由をようやく理解できた。部屋の奥にある和室。そこに龍人が座っていたのだ。周りに大量のトランプや赤い糸で作った輪っか、しわくちゃな折り鶴や折り紙の手裏剣が散乱している。そして当の本人は、和室の中央に置いているちゃぶ台の上でトランプタワーを作っていた。ちょうど五段目辺りにまで到達しかけている。


 両手から放たれていた二本の霊糸が畳を這いずり、散らばっているトランプを一枚ずつ絡め取る。霊糸はそのまま蛇のように立ち上がり、タワーの頂上の右端へと向かった。小さく呼吸をしていた龍人は、やがて下唇を軽く噛んで息を止める。そして二枚のトランプで新たに三角形を作った。タワーはまだ倒れていない。


「っよし…」


 龍人が掠れたような声で小さく達成感を露にし、和室の奥に座っていたムジナにサムズアップをした。お座りをしたまま喜んでいるムジナだったが、彼女の手にはその小さい手に合わせて作られた物らしい団扇を握っている。よく見ると「がんばれ龍人☆」と団扇に書かれていた。まるでアイドルの追っかけである。


「あの団扇…手作り ?」


 小声と共に佐那を見た颯真だが、彼女は彼から目を背けた。


「……ムジナが欲しがったから、仕方なく」


 彼女の返答に吹き出しかけるが、気を取り直して再び成り行きを見守る。だが龍人がまたトランプを二枚掴み、再び乗せようとしたその時に災難は起きた。颯真の携帯が震え、直後に大音量のギターとドラム、そしてデスボイスが響き渡り出す。着信音であった。


「やべっ」


 マナーモードにすることを忘れていた颯真が慌てて着信を止める頃には手遅れだった。取り乱した龍人は手元が狂い、霊糸で掴んでいた二枚のカードが倒れたのを皮切りにタワーが雪崩の如く崩れ落ちる。辺りに散乱したカードを龍人とムジナは一瞥し、ほんの僅かな苛立ちを纏ったまま颯真と目を合わせた。


「お前マジか」


 久々という程でもない二人の再会の挨拶は呆れに満ち溢れたものであった。


「あ~、悪い。だけどその…あれだ。こういう事やってるって知らなかったし。集中力乱したお前の実力不足って事にしといてくれない ?」

「…何つーか、お前が友達いない理由がよく分かるわ」


 言い訳を捲し立てていた颯真は間合いに入るのを避けるように距離を開けつつ、やがてリビングにあるテーブルへと足早に向かって席に着いた。しょんぼりするムジナを抱きかかえ上げた龍人も近づき、やがて卓上にあったプラスチックのボトルに入っている味付け海苔を拝借して貪る。ついでにムジナにも一枚上げた。


「それはさておき、あれも訓練の一種 ?」

「まあな。霊糸の扱いに慣れるためにやってた。意外と細かいコントロールが必要なんだよ。霊糸を使う時は」

「じゃあその辺に散らばっている糸の輪っかとか、下手糞な折り紙は ?」

「悪かったな下手糞で…ただの遊び。どっちも指先の細かい動きを練習するためだけどな」

「ふ~ん、てっきりもっと根性万歳みたいな特訓ばっかしてると思ってたが…」

「まあ、それはそれでやってるけどよ。こないだだって―――」


 二人が話をしている間、佐那は茶を淹れていた。深い緑をした茶葉を急須の中に放り、あまり熱すぎない温度のお湯を注ぐ。少ししてから湯呑に均等に茶を分けると、盆に乗せて二人の方へ持って行った。


「体作りと体術の稽古はともかく、印結びを行う際の動きや霊糸の扱いに関しては苦痛なんて邪魔になるだけだもの」


 デカい文字で鮨と書かれた灰色の湯呑を掴んだ佐那は、向かい合っている二人とは別の席に座った。


「目標のある遊びで覚える方が上達も早いし、何よりモチベーションも持続するわ。持論だけど」

「良識ある人で良かったな。師匠ガチャ大当たりだぞ龍人」


 佐那に対して颯真が一定の評価を下しながら茶を啜る。そして茶と一緒に運ばれた小皿から甘納豆をつまんだ。


「そうか ? 昨日組手とか言って殺されかけたぞ俺」

「あなたが高度な武装錬成を習得したいって言うから教えただけでしょ。お仕置きも兼ねてだけど」

「ほら聞いたか颯真。虐待だ虐待」

「生活費を勝手に持ち出して財布を空にしたのは誰だったかしらね」

「それは…その…」


 颯真と別れた後、武装錬成で強力な武器の生成方法を教えて欲しいと龍人は頼んだが、生活費を無断で使いこんだのがバレたのもあって、ひたすら組手と試合によって佐那からしごきを受けていた。一応教えてもらえはしたものの、休みも無く朝から晩までぶちのめされたせいで体中が痛くて仕方がない。途中で夏奈を介抱していた医者から連絡が無かったら、更にこっ酷い目に遭っていただろう。


「それに、徒手空拳の様な基礎すら出来ないようじゃ武器を生成しても意味が無い。武器を使うのはあくまで集団、それか素手を使える間合いにまで接近するのが難しい場合だけ。幽生繋伐流は肉体の中にある霊力を解放し、相手に放つ事を得意とする…だから手で直接肉体を殴るか、脚で蹴った方が妖怪や暗逢者相手には効く」

「でもさ…かっけぇじゃん、武器。刀とか、それと初めて会った時に老師が使ってた槍 ! 槍が花みたいにぶわって開いて、ぐさぐさ刺しまくるアレ。俺もあんなカッコいい事したいんだけど」

「そう……じゃあ…いつか、教えるわ。早く出かけましょう。お見舞いに行くんでしょ」


 少し照れくさそうにした佐那は、飲み終えた湯呑をそそくさと流しへ持って行く。


「あの人つんけんしてるけど、褒めると結構甘やかしてくれるんだよ」

「お前割とセコいな龍人」


 聞こえない様に囁く龍人に颯真は少しだけ引いていた。

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