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ドラゴンズ・ヴァイス  作者: シノヤン
肆ノ章:狂宴

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第116話 フラッシュバック

 現世のとある神社…かつて龍人と佐那が訪れ、仁豪町への道を開いたその場所に、暗逢者とそれによって作り出された地獄絵図が築かれてた。宮司、巫女、政府より緊急の命で派遣された戦士達…彼らの首が虚ろな眼差しと共に、ゲジゲジの様な姿をした、巨大な暗逢者の触覚に団子の如く刺されていた。


 無数にある脚を器用に動かし、死体を見つけるや否や脚で突き刺して拾い上げる。口で噛み千切って首から下は咀嚼し、生首だけを器用に取ると、それをまるで髪飾りのように自らの触覚に突き刺してはしゃぐのだ。石畳も、門も、鳥居さえも壊され、駐車場へと進出してきたその暗逢者より離れた場所で、赤いSUVが急ブレーキをかけて現れた。背中にボウガンを携え、白髪を束ねた佐那が車から降り、乱暴にドアを閉めてその怪物を睨みつける。本来であれば、世界各地に突如として出現した塔。その調査と事態の解決のために旅立たなければならない筈だが、彼女は自身の住処と愛弟子の救出を優先した。各地に自分の同僚だっている。私がいなくともどうにかしてくれるだろう。


 一方で暗逢者は、獲物を見つけた喜びとも取れる震え方と叫びを発しながら、その長く無意味に素早い脚を落ち着きなく荒ぶらせていた。


「どきなさい」


 眉間に皺を寄せ、いつになく圧のある睨みと共に佐那が言い放って歩き出した。暗逢者もまた高速で近づいてから飛び掛かり、その巨体で押しつぶそうとする。だが、佐那は尖凝式によって左腕の開醒を集中的に強化し、苦労する事も無く受け止める。その隙にもう片方の手で武装錬成と共に刀を生み出し、更にそこへ尖凝式を纏わせた。それを逆手で持って振ると、その切っ先から生じた斬撃が、暗逢者を真っ二つにして頭部周辺とそれ以外を泣き別れにする。その隙間を掻い潜る様に跳躍し、動かなくなった体の上に立ち、彼女は死体を見下ろした。


 その姿は勝ち誇っているかのようだったが、佐那は決して不審さを見逃さなかった。死体の痙攣が止まらない。それどころか、肉体の断面図が震えと共に変化している。震えている筋線維が、ゆっくりと伸びている…いや、生えているのだ。肉が生え、断面で動き続ける繊維に纏わりつき、じわじわと新たな身体を生み出している。まさか、切断された肉体同士を再びつなぎ合わせるつもりか ?


「チッ」


 いや、そうではない。佐那がそれを悟った直後、動かないと思っていた脚の一部があり合えない角度にへし曲がりながら彼女を突き刺そうとする。バク宙でそれを躱し、着地するや否や次々と脚が襲い掛かって来る。器用に掻い潜り、すぐさま死体から距離を取った佐那だが、厄介な光景を目の当たりにした。切断された事で二つに分かれた暗逢者の肉体は、それぞれが新しい身体のパーツを生成し始めていた。緩やかかと思われた再生は一気に速度を速め、やがて完全復活した二体の暗逢者が、鳥肌が立ちそうな甲高い鳴き声を轟かせる。まあ、想定の範囲内である。彼女は距離を取る直前に放り投げた香油の瓶が割れ、彼等の体に香油が飛び散っているのを見てひとまずは安堵する。


 そして両腕の武装錬成によって槍を作り、こちらへ迫り始めた二体へ軽々と投擲をした。そして即座に印を結び、散蔓獄を発動して二体の暗逢者はたちまち大量の槍に貫かれてしまう。しかし、これでは絶命には至らないというのは分かり切っている。別の手を打たねば。彼女は背負っていたボウガンを取り出し、矢の先端に備わっているガラスケースを見つめる。小さな青色の炎が、どういう理屈でケースの中に漂っているのは不思議だが、試すにはいい機会だろう。片手でそれを構え、引き金を引くと矢が風を切る音と共に標的へと飛んだ。


 命中した瞬間にガラスケースが割れ、中の火が暗逢者の肉体に触れる。素早かった。青い炎がたちまち暗逢者を包み、鼓舞の雄叫びを即座に絶叫へと変貌させる。もう一体についても素早く装填を行い、同じ様に悶え苦しませてやった。防衛省が保護下に置いている、妖怪の素材を基に開発した試作品との事だったが、確かにその威力には感心する。妖術を始めとした、異常現象への対抗手段を持たない者にとっては心強いものになってくれる可能性が高い。


 火によって再生も許されずに消し炭になっている死体を眺めつつ、佐那はポケットで震えたスマホに応答をする。吉田からであった。


「ああ~~…良かった。電話に出られたって事は無事みたいだな」


 目の下に隈を作り、山積みになった回覧板付きの決裁書を押しのけながら吉田が喋りかける。彼の容態を視認できていない佐那だったが、肺の中に残っている空気全てを吐き出すのではないか…そんな勢いで溜息をついたその重々しいその声から、彼がかなり疲弊している事を察した。自分が無茶を言って当初の予定を大幅に書き換えた事で、今頃現場の人間達からの突き上げだけでなく、大臣クラスからも呼び出しを食らっている事だろう。悪い事をしてしまった。


「ええ。たった一人で頑張ってるわ。誰かさんが協力者を全然呼んでくれないせいでねえ」


 だがそれはさておき、援軍も寄越してくれなかったのは気に入らない。わざとらしい不機嫌さを少しだけ、佐那がこれ見よがしに言葉とその抑揚で伝えてやると、電話越しに苦笑いが聞こえてくる。


「そう言うな。後でリストを送っておく。寝床が必要ならリストの中にある連中に声をかけてみてくれ。誰かしらは引っ掛かる筈だからな。特におすすめはワイン農家やってる―――」

「それより聞いて。仁豪町への門が破壊されている。修復が必要よ。あなたの言う情報が事実なら、すぐに町へ向かわないと」

「なるほど……ああ、龍人君と愉快な仲間達が危ない、だろ ? すぐに担当者を送る。しかし…ここまで腑に落ちる動きをしてくれるとはな」

「どういう事 ?」

「龍人君が言っていた話の通りだよ。尤も厄介な君を仁豪町から遠ざけ、助けに入れないよう門を破壊し、おまけに財閥からの情報が正しければ四騎士の一人を送り込んでいる可能性がある上に侵攻まで開始しようとしている…もし、この絵図を描いている黒幕がいるとすれば、確かに君の実力や性分を知っている者でなければ不可能だ。だが、少なくとも僕たちの仕事仲間にそんな大それた事をする人間がいるとは思えんしな…何か心当たりは無いか ? 君を恨んでいる人間の存在とか」

「……さあ」


 佐那は口を開くのを躊躇ったが、最終的にはとぼける事を選んだ。自分を恨んでいる者の存在など数え切れないが、問題はその中で自分の力量を把握し、それに対抗しようとするほどの野心と実力を持つ存在についてだった。いるにはいる。一人は兄弟子の霧島龍明。だが彼は既に死に…推測が正しければ、どういうわけか霧島龍人を名乗っている、筈である。そしてもう一人は……更にあり得ない。だが、不穏だった。幾度となく探した。だが今も尚、”あの子”の魂も発見には至っていない。


「少し休むわ、出来る限り急いで」


 そう言って電話を切り、リストにあった住所を調べるために車のナビを開く。何か大きな責務と向き合わなければならない時が近づいてきているのではないか。そんな予感が不安へと変化し、一度だけ指を震わせた。




 ――――龍人達は、財閥が寄越してくれたらしいミニバンに乗り込んで移動を始めていた。直ちに状況の整理を行い、項羽を名乗るあの侵略者への手立てを考えなければならない。


 項羽が突き付けた条件…「五時間後に開始される侵攻」、「要求は町の支配権を自分へ譲り渡す事であり、それに応じるのであれば侵攻はしない」、「抵抗の意思を確認した場合、五時間が経過せずとも相応の手段に出る」、「取り引きがしたい…或いは腹を割って話をしたいというのであれば出向くと良い。ただし生きて返すかどうかは約束しない」というものであった。どう足掻いても町が碌な事にならないのは目に見えている。


「…今、ウチの家にも連絡入れたわ。財閥の方に来る言うとった」

「オッケー、だけど状況が全然よくねえな。向こうの戦力がどの程度のもんか調べて貰わねえと」


 三列のシートの二列目で颯真とレイが話し合う中、龍人は隣にいるアンディと義経を見た。店のスタッフに連絡をしているらしく、スマホを凝視しているアンディの膝の上で、義経は窓の外を眺めていた。


「…戦が始まるやもしれんな」


 戦。義経が呟いたその言葉が、龍人の心臓に突き刺さる様な緊張を与えた。死にかけるような目にも遭った。大人数を巻き込んだ喧嘩だってある。だが、戦はきっと違う。殺し合い。右も左も上も下も、どこに敵がいるか分からない。いつ自分が死ぬのか、いつ自分が殺すのか。そんなせめぎ合いを長時間にわたって続ける悪夢の空間。それが戦場であり、戦だと佐那が言っていた気がした。どういうわけか情景が浮かぶ。リアルだ。初めてじゃない様な、どこかで見た様な気さえした。義経の記憶の一部が自分に残っているのか ?


 黒い肌の武者と、白い髪の女が立っている。共に走り、妖怪や武芸者問わず血みどろになり、泥にまみれ、雨に打たれながら野原や山を走る。燃え盛る寺社、泣き叫ぶ女子供の声、戦友たちへ怒鳴る自分、雨に打たれながら短刀で腹を切る自分、強烈な全能感と戦友を見下ろす体躯になり果てた自分、雨に打たれながら腹を切るのに使った短刀が自分の胸に深部と刺さるあの感触、その間際に見た黒い肌の侍と白い髪の女…弥助、そして玄紹院佐那。


「…君、龍人君 !」


 我に返った龍人は、自分が震えているのに気付いた。アンディが自分の左で心配そうに覗き込んでいる。


「ああゴメン…大丈夫」


 既に車が財閥の本部に到着していた。仲間達に続いて龍人も後に続き、外に出る。だが、先程の震えが気がかりで仕方がなかった。懐かしくもあり、自分に何かを訴えかけている様な強烈すぎる情報が脳裏へ叩き込まれて…いや、寧ろ最初から持っていたものが、突如として浮上してきた感覚に近い。記憶のフラッシュバックか ? だが分からない。自分に何を思い出せというのか ?

作者のコメント:仕事とSNS中毒のせいで更新が滞ってしまい申し訳ありませんでした。ネット断ちって難しい…

※次回の更新は五月上旬予定です。

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