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ドラゴンズ・ヴァイス  作者: シノヤン
肆ノ章:狂宴
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第107話 拒否

「取られる前 ?」


 警戒心を僅かに解いて龍人は尋ねた。話を聞くのであれば、あまり嫌悪感を剥き出しにし過ぎるのも良くない。


「せや。特に亜弐香はお前ん事、おっそろしく気に入っとるやろうしな。今頃俺を出し抜いてどう近づくか算段作りの最中やろ。でもな、こう考える事も出来るやろ ? そんなコソコソするようなヤツが、まともな目的持っとると思うか ?」

「思わないな」

「さっすが。話がよう分かるわ。そう考えれば、俺の方が一周回って裏表なさそうやん ? ちゃんと俺に従ってくれて、利益を恵んでくれるんならどんな奴でもフレンドや。亜弐香はアカン。喧嘩大好きすぎて、時々こっちの話を無視して勝手に暴れ回るわ。部下にするか、雇って下で使うだけならええけど、対等な立場を続けるのは無理やな。エゴ優先して目的そんもんを見失う奴が身内にいると、勝てる試合も勝てんくなる」


 籠樹の言葉の節々から、亜弐香にウンザリしている事だけはよく分かった。この言いぶりからして、初めて遭遇した時についても、金と利益で結ばれているだけの関係だったのだろう。でなければここまで急速に敵対的だった関係の人間に擦り寄って来るはずがない。この籠樹という男は、考えている以上に利己的且つ情というものを蔑ろにする類である。そう推測していた龍人を余所に、レイが鼻で笑った。


「女一人すら満足に躾けられん奴に勝てる試合もクソも無いやろ」


 籠樹は表情に見せる事こそしなかったが、その言葉はやはり神経を逆撫でしたらしい。意気揚々としていた態度を引っ込め、胡坐をかいているレイの方を無表情で見た。


「その女一人に三人がかりでボコられた雑魚が言うと説得力あるなあ。誰やったけか…確か、霧島龍人、渓村レイ…あと一人はよう分からん鴉天狗らしいが、まあそいつもすぐに見つけたるわ。でも…今なら俺と組めば勝てるで。打算もしっかりとある」


 龍人、レイ、颯真の三人に緊張感と苛立ちが湧いた。いかに事実と言えど、その場に出くわしてすらいない、何の危険も冒していない者になじられる筋合いなど無い。まるで自分なら何とかなったと言わんばかりの口ぶりにもむかっ腹が立つ。


「…あの~、一つ質問良いかな」


 颯真が話を遮って手を上げた。


「アンタの話を聞く限り、亜弐香の代わりが欲しいんだよな。実力があって言う事を聞いてくれる奴なら、龍人以外にも当てはまる気がすんだけど…何でわざわざ龍人を ?」


 聞いた限りでは素性はバレておらず、このまま黙りこくっておいた方が賢明な気もしたが、颯真は聞かずにはいられなかった。


「何やお前…いや、なんかネットニュースで見た事あるな。あれや、財閥のボンボンの癖にやけに優秀やとかなんとか言われよった奴か」

「そんな評判なんだ俺…」

「うん。それはさておき、龍人君については色々と事情があるんや。今から先、この町…いや、ここだけじゃ収まらんかもしらんな。それだけの規模の騒ぎが起きる。そして、嫌でも思い知らされる。全ての元凶として霧島龍人の名前が挙がる事になるんや。断言できるで」


 その言葉の意味が、龍人にはわからなかった。彼だけではない。その場にいる者達の誰一人として、これから起こり得る事態を予測しようにも思いつかなかった。なぜ龍人が原因で騒ぎが起きるのか ? そしてなぜ、それを籠樹が知っているのか ?


「龍人君…俺はね、君を助けてやりたいのよ。このままやと最悪死ぬことになるで。俺なら守ってやれる」

「死ぬ… ?」

「せや…付き合う友達はちゃんと選んだ方がええ。俺は自分の事、間違いなく優良物件やと思うけどな」


 籠樹が近づいていく。


「初手で武器見せて来るヤバい奴が信頼されるのは難しいとは思う。これから仲良くしたい奴がどんなもんか、どうしても試したくなったんや。そこだけはホンマ堪忍やで。やけど、これだけは約束したる。もし俺と手を組んでくれる言うんなら、何があっても龍人君の事は守ったる」


 手を差し向け、笑顔をこちらへ寄越してくる籠樹だが、龍人は無言のままであった。何が起きるのかを知りたい。そのためには、この男に近づいておいた方が良い。打算的に行くのであればそうだろう。だが、脳裏にふと兼智や夏奈の事が思い浮かんだ。薄ら笑いを浮かべていはいるが、利益のためならばどんな手段さえも行使させ、挙句使い捨てる事すら躊躇わない。既に確信していた。そう、この男は背中を預けて良い存在ではない。


 その結論は、龍人に次の行動を促した。味方にすべきではないと判断した相手に対して人間が次に抱く欲望。”無様な姿が見たい”という衝動に後押しされ、龍人は自らの手を振り、籠樹から差し向けられた握手のための右手を叩き払ったのだ。誘いの拒否と握手すら汚らわしい格下としての認定。双方を示すシンプルな振る舞いであった。


「余計なお世話だボケ」

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