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ドラゴンズ・ヴァイス  作者: シノヤン
肆ノ章:狂宴
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第101話 外出

 食事が終わった後、龍人は義経を背中におぶって外へと繰り出した。招良河地区で起きた火災の跡片付けにあたって、ボランティアを欲していると聞きつけた事に起因する外出意欲が彼をそうさせたが、ついでに義経の散歩も済ませる事にしたのだ。ところが外はカンカン照りになり、これでは犬を連れ歩くのは難しい。涼しい場所へ行くまでの間は、おぶって行くしかなかった。


「おい、降ろせ。歩かせろ」

「黙れ。熱いんだからやめろ。足火傷すんぞ」


 帽子を被っている龍人と義経だが、背中のキャリーバッグに固定されているのが嫌なのか、義経は不満げであった。歩きたくなる気持ちは分かるが、真夏のアスファルトは中々に危険である。


「龍ちゃん、その犬どうした ?」

「拾った」

「え~、マジ可愛いんだけど。何あれ~」

「おいやめろ、撮るなよ」

「龍人、お前さん…犬を愛でる趣味あったんだな」

「こんなもん罰ゲームで拾っただけだよ。だから写真撮るのやめろって恥ずかしいから」


 住民達は物珍しい光景を前にして龍人と会話を弾ませ、同時に背中にぶら下がっている犬を撫で回す。町の住人と親睦を深めるという点では、いてくれるのは有り難いのだが、中身がおっさんという点をひた隠しにしておかなければならないのは、中々に緊張感がある。


 そこから再び歩みを進めるが、丁度横を通った車が突然付近で停車をした。センチュリーのSUVだった。路肩でハザードランプを焚いているその車は、龍人が近づいた瞬間に助手席の窓を降ろし、車内にいる者の顔を明瞭にしてくる。颯真であった。


「よお ! 乗ってくか ?」

「サンキューな。お前だろうと思ったぜ上級国民。汗めっちゃかいてる上に犬いるんだけど良い ?」

「おう、遠慮すんな」


 颯真の誘いに乗らない理由はなかった。一人と一匹はドアが開いた瞬間にすぐさま雪崩れ込み、快適な冷風を体に浴びながら全身の火照りが収まって行く快楽に身を委ね始める。


「そこの真ん中の所、冷蔵庫になってるから開けて良いぞ。水とかスポドリ入ってる」

「よっしゃ」


 龍人は後部座席に備わっている冷蔵庫を開き、飲み物を即座に水を開封する。義経も同じく物欲しそうにするため、持ち歩いていた小さめの水飲み皿に注ぎ、口元までそれを持って行って飲ませた。


「もしかして片づけの手伝いか ? 俺もちょうど行くつもりだった」

「奇遇だな。でも、こんな車で乗り付けて大丈夫か ? 哀れな庶民様に妬まれる事間違いなしだぞ」

「分かってねえな。下手に庶民派アピールするより、開き直ってた方が好感度下がらなくて済むんだよ。それに寄付めっちゃしたし」


 相変わらず成金感を隠せてない傲慢さが目に付く男である。乗せてもらった恩義がありながら、龍人は若干見下していた。嫌いになる程ではないにしろ、その内少しばかり痛い目にあってくれないものかと願う程度には鼻についてしまう。


「ところで、犬…ああいや、義経さんまで連れてくのか ? 役に立たないだろソイツ」

「…おいガキ、今なんて言った」


 颯真の言葉は、義経に牙を剥いて唸らせるには十分すぎたらしい。間もなく可愛げのある声が龍人の隣から聞こえ出す。


「よければ作業中の間、車内をお貸ししましょうか ? 冷房を付けておくことも出来ますし」

「ほう、気が利くじゃないか女…ぐあっ !」


 織江の提案に義経は気を良くする。しかし、「ありがとうございますだろバカ」という叱りとセットで、すかさず龍人が頭を平手で叩いた。義経はすぐに怒りの矛先を龍人に向け、顔に噛みついて反撃を始める。よくもまあ互いに自分の分身相手にそこまで盛り上がれるものだと、颯真は感心してしまっていた。


「それより龍人、兼智の葬式がこの間終わったよ」


 龍人がドブに沈めるぞと義経を脅していた時、颯真が喧嘩を終了させるために話題を変えた。


「…そっか」


 義経から反撃として手に噛みつかれた龍人だが、それに抵抗する事無く颯真の話に聞き入っていた。こんな事をしていい状況ではないとすぐに察したのか、義経もバツが悪そうに口を離して座り直す。


「誰も来なかったよ。アイツの葬式にも、墓にも。元カノを名乗る奴は一度来たが、アイツが一文無しで大した物を遺してないって分かった瞬間、速攻でいなくなっちまった。だ~れも、あいつ自身には興味が無かったんだろうな」

「報いを受けたってやつか」

「そうだな…ホント不思議だよ。因果応報って言葉はあるけど、必ず本人にとって一番嫌がるタイミングで襲い掛かって来るんだ」


 颯真の言葉を聞きながら、龍人は窓の外をボンヤリと見つめた。因果が途切れる事は必ず無い。どんな形であれ、必ずそれから逃げることは出来ない。自分もまた、ツケを払わなくてはいけない時が来るのだろうか。自分の中で分かる範囲の因縁か…或いは知る由も無い遥か遠くの過去か。義経の存在が尚の事その可能性を強くしている。朧げな決意だが、立ち向かえるように備えなければいけない気がした。


「なあ。死んだ兼智とやらはどうでも良いんだが、ここに飯は無いのか ? いぶりがっこは ?」

「空気読めないんなら窓から投げ捨てるぞ落ち武者野郎」

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