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刃物禁止は困ります  作者: 素面ニオ


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4話

外は大雨が降っている。

秋は大雨の音で目が覚めた。

「夏休みでよかった。こんな大雨の中、何もかもわからない琴美と登校するのは大変だ。」

「お?目が覚めたか。おはよう、琴美。」

昨晩は急に眠りだしたから死んでしまったかと思った。

目が覚めたとき、死にかけた彼女は今日も生きていてよかったと改めて思った。

「私はどうしてここに。」

「昨日、風呂から上がったらすぐに疲れ果てて寝てしまっていたんだ。」

「ん?」

「今日はたくさん雨が降っている。君は高校生だが、夏休みだから学校に行かなくて大丈夫だ。」

学校、夏休みという言葉を聞きキョトンとした目で俺を見ている。

やっぱり何もかもわからないんだと感じる。

ただ、琴美の両親に会う約束がある。

今日のお昼に家に来る。

琴美は中学卒業後こっちに来たから会うのは2年ぶり。

両親のことを覚えているかはまだ知らない。

「琴美、今日は琴美の両親にここで会う約束があるんだが心の準備はできているか?」

「えっと...。」

「母と父といえば分かるか?」

「その方はどんな人だったのでしょうか。最後に会ったのは...2年位前だったような。違うかなぁ。」

「合っている。こっちに来てから会ってないからな。」

会わなさすぎで覚えていないのか、本当に覚えてなくて名前も忘れたのか分からないから怖い。

「どんな名前だったのか覚えていません。怖い人ではないですよね?」

「きっと大丈夫だ。今の君に怖いようなことはしてこないはずだ。」

「よかった。」

「今、おなかはすいているか?」

「わからない。」

「俺は緊張していて食欲がない。今日は朝ごはんは食べないでおこうか。

3時間も2人で部屋で横になって彼女の両親が来るのを待った。


玄関からチャイムの音が聞こえた。

「何の音ですか?」

「来たぞ。」

「えっと...よく分かりません。」

何の音か分からず教えようとしているとまたチャイムが鳴る。

「説明はまたあとで。ドア開けてくるから。」

「はい。」

ドアを開けると真面目そうに見える女性と優しそうな男性が立っていた。

「病院で会った時以来ですね、わざわざ遠くからありがとうございます。」

「そうですね、まさかあんなことになっているとはね。」

「僕も知った時は驚いちゃったよ。」

2人と話しながら彼女が待っているリビングまで案内した。

きょとんとした顔で両親のことを見ている。きっとあまり分からないのだろう。

「えっと?お久しぶり?です。お母さま、お父様。」

このような呼び方をしたことがなかったからか静まり返ってしまった。

両親に会うと話したからよくわからなくてもとりあえずそう言おうと彼女の中で決めていたのだろう。

「2年ぶりに娘さんに会うはずがこのような形となってしまってやっぱり...ショックですよね。」

「このような呼び方は初めて。初めて会う人のような感覚になってしまったわ。」

「こんな姿を見てしまうと何も言えなくなってしまう。」

「あ...」

どう話したらいいか分からないなりに話そうとして何も言葉が出なかった。

「会ったことあるのにまだ名乗っていなかったわ。私は、雪子 琴美、ゆ き こ よ。」

「雪子さんですね。よろしくお願いします。」

「私のことはお母さんでいいのよ、琴美。」

「わかりました。」

名前を覚えていなかったようだ。

俺の名前だけ忘れられていたらこの場に居にくくなってしまったかもしれない。  

「僕もまだだったな。熊だ く ま。琴美、お父さんと呼んでほしい。」

「分かりました。お父さん。」

「雪子さんと熊さんはこのようなことになった原因は聞いたことありますか?」

「秋さんに初めてお会いした日に、熊さんと一緒に聞いたわ。」

「原因は聞いた、ただどうしてあの行動に出たかは誰も知らない。思い出せないからいつ知れるか分からない状態だ。」

いつも大丈夫そうにしていたから俺には気づくことができなかった。

普段と違ったのは忙しそうにしていたこと。

なんで忙しそうにしていたのかはもちろん知らない。何か分かっていたら助けたかった。

この話の意味を分かっていない琴美はきょとんとしている。

「何の話ですか?お母さん、お父さん。」

「難しい話。琴美には分からないから気にしなくていいわ。」

「ちゃんと教えなくていいのか?ずっと黙っているつもりか?」

「きっと思い出すはずよ。」

「えっと...。」

「琴美、俺が色々教えてあげるから大丈夫だ。」

「秋さん、琴美をよろしく頼むぞ。」

「はい!」

「では私たちはこれで。」


琴美の両親に会う約束をした理由は、自殺未遂をした理由を聞きたかったから。

誰も知らないことが分かった。

記憶の戻ったとしても簡単に聞けるわけがない。

そんな俺ができることはこれしかないと思った。

「琴美、今日から刃物禁止だ。」

「刃物?」

「そうだ、刃物。」

腕をたくさん切って風呂の中に浸けていたということがあったからもうこれしかない。

刃物禁止、これをすればきっと彼女は同じことはできない。

刃物禁止は日常生活に支障をきたす、だが守るためにはやるしかない。

できないことは俺が代わりにすればいい。

周りが否定しようが俺はやる、もう琴美が居なくなりそうになるのは嫌だから。

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