亜空間収納
転生者特典で亜空間収納をもらった。
容量無限大、時間停止付きだ。
まあ、異世界転生だし、必須だよな。
もろん、全属性の魔法や鑑定能力もある。必須だしな。
稼ぎまくるぜ。
ゴブリンで試し撃ち...ってなんだこいつら中身豆腐かよ。
100匹以上いるゴブリン共が、扇状に広がるストーンバレットを食らうと『ドバババッ!』と飛び散って肉片に変わっていく。
たった3発で全滅させてしまった。
ぐちゃぐちゃだ。気持ち悪くて耳の回収なんかしたくねえ。
よし、オークを狩ろう。
いたいた、けっこうでかい集落だ。
山のような豚肉が取れるぜ。
ウインドカッターを放ちながら集落の中を駆け抜けた。
切り落とされた豚面の首が次々と地面に転がる。
あ、やべ。
棍棒投げやがった。
正面から数本、回転する棍棒がブンブン音をたてながら飛んでくる。
「ストーンバレット!」
カカカカンッ!
ボトッ!
「ぐあっ!」
脇腹に一発食らってしまった。肋骨折れたか。ヒールだ。
やべ、そんな時間無い。また棍棒が飛んでくる。
「ストーンバレット!」
カカカカンッ!
「ストーンバレット!」
カカカンッ!
「はあ、はあ」
うわ、石投げんな!
そんなの迎撃できるか。
ボトッ!
「ぐあっ」
バゴッ!
「あがっ」
し、死ぬ。
どうにか、なんとか、くそっ、頭回らねえ。
この手があった!
足元の土を収納して地獄まで落としてやる。
「落ちやがれ!」
次の瞬間、空を舞っていた。
おおおおおお、落ちてる!?
落ちてる!??
落下しているような感覚に襲われたが気流がない。
無風だ。
頭上も足元も全周囲が青空だ。
そうこうしてパニクっているうちに青空が薄れて星が見えてきた。
頭の方向に星が見え、足元の方向はまだ青空だ。
何が起きてる?
わけわからん。
頭上に見えた星空が急速に足元の方向へ広がっていく。
あるいは、青空が縮小していくとでも言うべきか。
口の中で炭酸がはじけるような感触がある。
太陽に皮膚が焼かれる。
あーっ!
空気が薄くなったのか!
何をやらかしたか気づいて血の気が引いた。
もうここ宇宙じゃん..
その『惑星』を亜空間収納から出した時には手遅れだった。
重力は戻ったが、大気は拡散してしまい、空が青くなるほどの量は残っていなかった。
大気が薄くなったせいで昼でも星がよく見える。
真昼の星空の下でオレの意識は途切れた。
大型動物が真っ先に倒れ、植物は干からびた。
その日のうちに動植物が絶滅した。
微生物も強烈な紫外線に焼かれて地表や海面から消えた。
生き残ったのはごく一部の魔物だけだ。
気圧低下で水の沸点が大幅に下がってしまった。
広大な海がゴボゴボ沸騰しながら冷えていく。
文字通り地獄の惑星だ。
一つの惑星を滅ぼしてしまった。
地殻に穴を空けただけのつもりだったのに。
神様にこってり絞られた。
「まあこちらの仕様ミスでもあるからして、お前を地獄へ落とすのは勘弁してやる。その代わりお前、今後永遠にワシの子分な。お・ま・え・が・滅ぼした惑星を再生できるまで休みは無いと思え」
そして今は、最下級の神の眷族として文字通り24時間365日千年万年睡眠時間ゼロでこき使われている。
「ところで、新しい亜空間収納の仕様は決まりましたか?」
「ふん、やっと出来たところじゃ。今度のは使用者の意志を正確に反映するようになっておる。お主がやろうとしたように、足元だけくり抜くことも可能じゃ」
意志を正確に反映するのかあ。
思い通りになっちゃうのかあ。
そっか、そっか。