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1-4.

 ベッドから身を起こしているだけの、如何にもな病人状態の私。そんな私のベッドのすぐ傍の椅子に座り、居心地が悪そうなファウスト殿下とフィロメーノ兄さま。この2人、従兄弟になるからとっても仲良しなのよね。ついでに、一緒に過ごした時間が長いからか、気まずげな表情までそっくりだ。顔立ちは全然違うけどね、文官と武官で体付きも違うし。


 私がにこにこ、と擬音がつけられそうなほど笑みを浮かべれば浮かべるほど、2人の顔色は悪くなっていく。まあ、イジメるのもここまでにするか、と息を吐きだして問いかけた。



「あの浮気男の素行に気付いたのはいつからですか? つまり、魔女化の懸念が始まった頃はいつか、ってことですけど」

「……正直、昔から、としか言えない。我が王家男児の気質とは思えないほど、浮気者な性分でな。お前が盲目に愚弟のことを愛していたから、それに胡坐をかいていたんだろう」

「ただ、一夜限りの相手が多かったのに、ここ1年ほどは特定のあの女だけを伴うことが増えたんだ。だから、アウラの耳に入る可能性を考えてずっと社交界から離していたけど、アイツからも隔離することにしたんだ」

「で、説得や更生に失敗。王族の権威も考えて、ただの支援魔法特化の聖女ならばいいだろう、と切り捨てる方向に舵を取ったのですね」



 説明する言葉だけでなく、項垂れる仕草までそっくりとはこの2人は同い年だし双子じゃなかろうか。髪色も似ているからなぁ。従兄弟が兄弟のように育ったらこうなる、典型例だろうか。

 ――話された内容が衝撃的すぎて、思考が明後日の方向に行ってしまう。「わたくし」だった頃、いくら接する時間が短かろうと男を見る目がなさすぎる……。


 気を取り直して、コホン、と咳払いしてから質問を続ける。



「私、あの浮気男と結婚しなきゃダメですか?」

「……万が一、お前が目が覚めて聖女のままなら、本人の希望に沿うよう約束は取り付けている。お前はどうしたい? 王家の瑕疵だからな、時間はかかるが希望はなるべく取り入れる」

「うーん、結婚したくないです。もし結婚しなきゃなら、殿下や兄さまみたいな信用できる人と仮婚約して時間を稼ぎたい、かも?」

「……お前は、フィロメーノでもいいのか?」

「兄さまなら、浮気嫌いそうですし。私に相談してくれる程度には聖女の理解者だと思っています。そうであれば、愛人が出来たとしても魔女化しないと思える相手ですかね」

「その評価、ちょっと複雑なんだけど……。愛人なんか作らないよ!」



 兄さまは私の愛人作っても、のくだりに文句を言っている。別に愛人作りそう、ではなくて愛人を作るとしてもきちんと説明してくれるだろうと思えるほど、聖女事情に精通している、と言いたかったんだけどな。

 ……ちょっと、それはそれで違うだろう、って思う気持ちもある。これは異界の女性の感覚だろうか、どうやら意識の統合が大分進んでいるようだ。ということは、魔女の力ももっと自分のモノにできるだろう。これは、今後の魔物討伐に行くときにとても役立ちそうだ。


 ファウスト殿下は気になる発言があったのか、やいのやいの騒いでいる私達をよそに考え込んでいた。そして、おもむろに私の顔をじっと見つめて、口を開いた。



「もし、婚約者がフィロメーノに変更、と言ったらどうする?」

「なっ、ファウスト! なにを……」

「うーん、私は問題ないです。それよりも、あの浮気男が婚約者な方が嫌なんですよね」

「その浮気男からの解放が、フィロメーノとの婚約だ、と言えば?」

「乗った! 兄さまなら信用できます。……でも大丈夫なんですか? 聖女を排除したい勢力もいたから、こうなったのでは?」

「その辺は、お前が聖女のまま目を覚ましたからやりようがある。――じゃあ、俺は色々と根回ししてくるからゆっくり休め。しばらく休暇扱いにしておくから、ジャンピエトリ邸宅へ行くがいい。そうすれば、あの愚弟(浮気男)もお前に会えまい」



 ジャンピエトリ邸宅、というのはフィロメーノ兄さまの生家のことだ。つまり、兄さまの帰省にくっついて身を隠しておけ、ということだろう。

 私の生家は、侯爵家だ。一介の侯爵家が第三王子という身分の浮気男を撥ねつけられないだろう。一方、兄さまの生家ジャンピエトリ大公家は王兄が興した家であるのだから、従兄弟である兄さま達ならうまくあしらえる。それを見越しての、ジャンピエトリ邸宅への滞在指示なのだろう。


 何やら悩みが晴れたとでも言いたげな爽やかな笑みを残して、ファウスト殿下はさっさと行ってしまった。まあお忙しい方のことだ、こうして私と話す時間を捻出してくれただけでも有り難い限りなのだろう。

 片や兄さまは、俯いて膝に肘をついて、いわゆる『考える人のポーズ』をとってぶつぶつと何か言っている。ファウスト殿下が勝手に婚姻を決めてしまったのが気に入らなかったのだろうか、それはそれで気に入らないなぁ。


 私は、全ての結界をそっと解除すると、兄さまの頬へ手を伸ばして引っ張ってやった。



「兄さま、その態度は酷いです。いくら自称妹との婚約が嫌だからと、そんな拒否しなくてもいいじゃないですか」

「い、いや拒否してないっ!」

「嫌なら殿下がいる時に反対すればよかったのです。もう、ファウスト殿下行ってしまったから根回しが始まってます。あの方、仕事早いじゃないですか」

「だからっ! 僕はアウラとの婚約は嫌じゃない!」

「なら、不貞腐れた態度もやめてください。私の乙女心が泣きます」



 もごもごと何やら弁明しているが、嫌ではないなら諦めて犠牲になって欲しい。あの現場に連れて行ったこと、ちょっぴり拗ねているんだからね! 事前に教えてくれればもう少し心の準備も出来たのに、とたぶん禁止されて板挟みだったであろう兄さまを見る。私が引っ張ったせいで頬が少し赤いが、元のイケメン顔に戻ったからまあ大丈夫だろう。

 うーん、兄のように慕っていた相手と結婚かぁ。どんな感じなんだろう?

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