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1-3.

 なんだか、周囲がガヤガヤと騒がしい気がする。気持ちよく寝ていたのに、煩いなぁ、と眉をひそめる。何でこんなに騒がしい場所で寝ているんだろうか、と考えてみる。魔物討伐は一旦区切りがついて、だから国に切り捨てられたのであって、……あれ?

 そうっと、瞳を開くと初めてみる場所だった。まさに『知らない天井だ』状態である。別に、転生したとかなくてきちんとアウレリアという聖女やっていたという認識はきちんとある。ただ、ちょっぴり恋に恋する少女から、魔女とか異界の妙齢だった女性の意識が混ざって、現実を知ったちょっぴり冷めたお子様になっただけで。


 私が起きたことに気付いたのか、枕元近くに突っ伏していた兄さまが反応した。



「アウラが、起きている……?」

「酷いわ、兄さま。私が起きたらいけない、みたいな反応ね」

「そんなことは……っ!」

「国に切り捨てられる程度の聖女だから、仕方ないのかしら?」

「っ、アウラ、聞いてくれ……っ!」



 手を振って、結界魔法を起動する。いつも通りにしたつもりだけど、魔女として研鑽した力も手に入れたらしい。思ったよりも強い結界になってしまい、ベッド周りに軽く張っただけのつもりが、ベッド周辺の人を弾くほどになってしまった。つまり、すぐ傍に居た兄さまはもとより、私が起きたと気付いて近付こうとした医師らしき人も、弾いてしまったわけで。

 ガンガン、と結界を叩いて兄さまが何か言っているが、防音まで装備してしまった結界のおかげで何も聞こえない。


 いやー、別に兄さまに思うところはないんだよ? でもほら、兄さまって国の中枢であるファウスト殿下と仲良しだし、神殿騎士で勤め人だから上の決定に逆らえないじゃん? この世界、異界で言うところの中世ヨーロッパに近い。つまり、封建制度バリッバリで身分が物を言う社会だ。であるならば、私の身が安全と分かるまで、信用できる兄さまとはいえ、排除しないとだよね。

 うーん、悲壮な表情のイケメン、これはこれでオイシイ。


 身を起こして、念の為に髪の色を確認した。ちゃんと、以前と変わらず銀髪だった。いや、前より白に近くてキラキラしているかも?

 この世界、聖女は銀髪、魔女は黒髪、と相場が決まっているのだ。もちろん、色の濃さは人それぞれだけど、少なくとも黒髪は魔女の証だから、人間社会では迫害されてしまう。どうやら魔族では神の寵愛が深い証らしく、この辺どうなっているんだろうね? とりあえず、黒髪になっていたら魔女認定待ったなしなので、銀髪で一安心だ。別に、異界の女性は黒髪だったし、私も黒髪嫌いじゃないけどね。


 そうして自分の体の変化とかを確認していたら、ガンガンと結界を叩く人が増えた。なんかうるさいな、と思ったらまさかのファウスト殿下が駆け付けてくれていた。うーん、私を切り捨てる決定をした諸悪の根源の可能性のある人まで、来てしまった。ただ、たぶんファウスト殿下も抗ってくれたのだと思う。でなければ、あの時にあんな表情はしないだろうし、今もこんなに必死になって声をかけないだろうから。


 可哀想になってきて、防音だけは解くことにした。慎重に、結界から防音だけ抜く。



「アウレリア! 聞いてくれ、お願いだ……。君のことを切り捨てるつもりなんて、なかったんだ……」

「こら、聖女! 俺のことはいいから、フィロメーノの話は聞いてやれ。少なくともコイツはお前を害したりしない!」

「いや、ファウストだって色々とやってくれたじゃないか! 必死過ぎてクラレッタ嬢に疑われたこと、聞いたぞ」

「お前だって大神官長に殴り込みに行ったと……――」


「……仮にも、この国の王族と権威ある神殿騎士が、醜態晒さないでくださいまし」



 なんで、私に話しかけるはずが暴露大会になっているんだ、この人達。なんか気が抜けた、少なくとも対話してもいいんじゃないだろうか。兄さまも、ファウスト殿下も、たぶん完全とはいかなくても、だいたいは味方だ。


 手を振って、今度はこの部屋に防音結界を張った。一応、私に近づけないようにベッド単体にだけ侵入できないよう、結界の範囲は狭めて残しておく。ファウスト殿下は文官の癖に剣もかなりの腕と聞くし、神殿騎士で聖女の護衛筆頭になれる兄さまは言わずもがな。身の安全は図らせてもらいます。


 結界を狭めたせいで消えたように思えたのか、不思議そうにしている2人にちょいちょい、と手招きした。



「私、まだ聖女なんです。魔女化が疑われたんでしょうけど、その辺についてちょっとお話しましょう? この部屋に防音結界を張ったので、人払いお願いしますね」

「……耳を傾けてくれて感謝する。そちらに近付くが、害する意思はない」

「大丈夫です。ちょっと寝起きで過敏になっただけなので。ファウスト殿下のこと、そこまで疑ってませんよ。フィロメーノ兄さまのことも」

「アウラっ! ……目が覚めてよかった」



 素直に近付いてきた2人に、座れる椅子が先ほど兄さまが座っていた1つしかないと気付いた。ちょいちょい、っと手を振って奥に置かれていた椅子を引き寄せる。

 ……前よりも、魔法の行使がスムーズだ。思ったより、魔女の力とは大きいんだなぁ。もっと前から欲しかった、とも思うが大きな力は身を亡ぼすからこれでいいのだろう。強欲の魔女だった頃の記憶が、便利魔法で溢れていることにはコメントしない方がいいのかなぁ、とも思うけど。



「私、神の御慈悲で魔女化を一度限り、防いでいただきました。次はないので、兄さま達は是非ともその辺を考慮したお話をしてくださるとうれしいわ」



 私が用意した椅子に不審げにしていた2人に、にっこりと微笑んでやった。変なこと言ったら魔女化、本当にしちゃうからね、という脅しだ。

 さあて、王子と騎士の2人はどんなことを言ってくれるのかな。心の中で舌なめずりしながら、嗤った。

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