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1-2.

翌日からは、21時に投稿します。

 気が付くとわたくしは、暗い海に揺蕩っていた。否、海と表現したけれど、決して冷たくはない。どちらかというと、羊水に包まれた赤子のような感覚だろうか。ふわふわとした、暖かくとても居心地がよかった。

 次の瞬間、一気に沈むように濁流に呑まれた。この大きな流れに対してわたくしは無力で、ただただ流されていくしかなかった。


 ――これは、一体……?


 濁流に呑まれる中で、頭に叩き込まれていく記憶と知識。強制的理解させられていく中で、分かったことも疑問も増えていく。だが、この流れに逆らう必要性がなくなったので、安心して身を委ねた。



≪久しいな、強欲の魔女。否、今世は嫉妬だったか?≫

「残念ながら、貴方様の御慈悲で嫉妬には至っておりませぬ。しかし、聖女であるのに魔女の知識とは……。どのような風の吹き回しにございますか?」

≪気まぐれと、魔女の頃のそなたの願いを叶えたまでよ。今のそなたもまた、まだ聖女でいたいという願いがあったゆえな≫

「そうですか……。神の御慈悲に感謝いたします」



 どこからともなく、神々しく畏れ多さを感じさせる声が聞こえてくる。何故か()は声を出すことが出来て、その声と言葉を交わす。やはり、知識にあった通り、ここは神と神の愛し子の邂逅できる場所。神域、とでも称すのが近い場所だ。

 私が死んだわけでもなしに、こうして神と言葉を交わすことになるとは、一体全体何が起きているのだろう。首を傾げるが、知らない答えを知りようもない。



≪さて、時間もあまりないゆえ。そなたの前世での願いごと、少し手を加えた。どうせなら愉快な方がよかろう、我も愉しいのでな≫

「……有り難いので、知識は有効に使わせていただきますが。前世で得た、異界の女性の記憶まで頂いて、よろしいので?」

≪そうは言っても前世の記憶の継承をするならばついてくる知識であるし、そうでもせねばまた()()()の可能性が残るではないか≫

「返す言葉も持ち合わせませぬ。貴方様に問題がなければ、私に否やはありません」



 「魔女化」、それは聖女から魔女へ転化することをいう。では魔女は何かというと、『()()()()()()()()()()()()()()姿()』である。神殿では堕ちた姿と言っているが、要は人間と魔族の中間という半端者になるということだ。

 そう、この世界、魔族とか色々いるのだ。とはいっても、魔族は普通に生きている種族であり敵対関係ではない。仲がいいとも言えないけれど。


 この神域とも呼べる場に来る前のことを思い出す。やたら歯切れが悪くハッキリしない態度だったファウスト殿下もフィロメーノ兄さまも、私が――「わたくし」が魔女化することを懸念していたのだろう。それでも魔女化する可能性のある場所へ誘導されたのは、きっと国に切り捨てられたのだ。


 聖女とは、この世界において「瘴気」という生き物に悪い影響しか与えないものを祓うことの出来る存在だ。正確には聖属性の魔力を持ち、魔法が使える存在のことを指す。聖属性の魔力を持っている魔族の方もいるのだから、正確には瘴気を祓うのは聖女の専売特許ではないのだが、色々と理由がある。

 まず、人間は魔法が使えない。「魔術」という魔法をグレードダウンというか、人間でも扱えるようにしたものを使って生活している。だから、聖属性の魔力を持っていると魔法が使える、という聖属性の魔力持ちはとても重要な存在だ。瘴気を祓う「浄化魔法」は、魔術に落とし込むことが出来ていない。つまり、人間は聖属性の魔力を持つ者に頼らないと瘴気を祓えないのだ。


 ただ、聖属性の魔力を持つ者と定義するだけならば、「聖女」も「聖女見習い」も同じ存在だ。そこに、更に力を得た存在が「聖女」に認定されて、色々な特権を持つ訳だが。

 「浄化魔法」を扱うだけなら、()()()()()()()()()()


 だから、魔女化する可能性があり、「災厄を呼ぶ」とされる魔女になりそうな状況の聖女は、万全を期して排除されることになった、そういうことだろう。ゆえに「国に切り捨てられた」という表現になるのだ。



≪別に、愛し子が試練を乗り越えることに、幾ら時間がかかろうと構わんのだがな。心が壊れては元も子もない、だから今回は魔女化を防いだ。しかし、今回のみと心得よ≫

「しかと胸に刻みましょう」

≪得た知識をどう扱うかはそなたの自由だ。周りを信じ切れずとも、心を保てば見えてくるものもあろう。では、行くがいい。我が愛し子よ≫

「行って参ります、神よ……――」



 私の現状を表すならば、今世のアウレリアの意識に、前世の強欲の魔女、その強欲の魔女の中にある異界の女性の記憶という名の感情が混ざっている状態だ。そうして、魔女や異界の記憶が混ざることで、あの婚約者はないな、という結論に至ろうとしている。

 18歳の大人になりかけだった少女のアウレリアは泣いているけど、異界の女性が男は幾らでもいるから、星の数が居るから大丈夫、と慰めてくれている気がする。そういうことではない、とは思うけれど何だかそのズレが面白くて笑みがこぼれる。魔女は、あの浮気男から逃げ出すには何が必要かしら、と冷静に考えているようで、ちょっと怒り狂っているようだ。どうやら魔女にとっても浮気は地雷らしい。

 ――そんな、情緒不安定で、でも少なくとも魔女化からは抜け出した状態だった。そして、3つの意識が混ざりあって統合されようとしている。


 私のその状態に、神は満足のいく結果だったのだろう。満足したような気配と共に、私の意識はまた沈んでいった。

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