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親の無くとも花びらの散るとき

作者: 水井時零



まだ私が高校二年生になって数ヶ月のことだった。


その日、部活も休みで私たちは明日の授業だとか株価だとかそんな話をしながら校門から帰っていた


空は曇天、風は吹いていない。無法者も現れることは無い。現れて欲しいと願ったところでそいつが無法者になる他、方法が無いのだ


ここは平穏そのもの、ヒーローも居ない美少女も居ない私の人生を変えてくれる人間も居ないそんな事を思っていた


「おっ……」


最初にそれを気づいたのは田中英明という名前の男子生徒だ


彼は肩に落ちたそれを雨粒だと思って、バックを頭に乗せる


「あら……雨じゃない感じ?」

「え……マジで?!」


彼の一言に周囲がザワつく


「これ桜じゃね?どこから?」

「馬鹿、お前……桜はほとんど散ったはずだろう?」

「確かに」


時は入学式から数ヶ月が経過していた。桜は新緑に化粧を変え、人々の服装は寒さから身を守るための長袖から暑さから身を守るための半袖へ変わっている


「空だ」


「空から桜が降ってる!」


その発言に思わず下校中の人間はほとんど空を見上げた


本当にそれは桜の花びらだった。小さい頃は見てきた薄いピンク色、先の欠けた花びら


「へー」


ある者にとってそれは興味だった。彼は理学部を目指していた。手にとってしばらく眺めて制服のポケットにしまった


「とりあえず写真撮ろ!」

「そ!いい!」


ある者達にとってはツールだった。彼女たちは動画を撮影してどこかへ公開したのだろう。その目には視界いっぱいに振るはなびらが確かに写っていた


「はぁ……」

ある者にとっては慰めだった。彼は数日前に

彼女から別れを告げられたばかりである。これが彼女に伝えられてればどんなに良かった

のだろうか


もちろん私にとって印象がどのようなものか


「吉行〜もっと嬉しそうな顔しなって」

「ああ」


妹が話しかけてきた。妹は高校一年生でまだ入学して数ヶ月である。彼女にとってこの花びらの様な何かはどう見えたのだろう。数年前に亡くした祖母の優しさか今朝、母がくれたメッセージだろうか


「美幸ゆっくり帰ろうか」

「うん、お兄ちゃん」


私がそれをどう感じたのかは未だに秘密だ。

だけど時々、あの時の反応を思い出しては

悲しみにくれるのだ


ある者にとってそれは青春そのものだったと

いう




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