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異世界は燃えているか  作者: 百目さかき
5/6

賭け

金をズボンのポケットに入れて早速闘技場へ向かう。

ようやく何とか金を手に入れられた。

2時間後か。

話を聞く限りではそこまで遠くはないらしいけど、とりあえず急ごう。


街並みは変わらず、女性ばかりが街にいる。

他の男性はみんな今頃働いているのだろう。

このまま行っても怪しまれないよね…?

闘技場の出場者が軍隊に含まれるとしたら、

「先輩の試合を応援しに来た」

とでも言ったら怪しまれないかな?


大通りをひたすらに駆け抜ける。

気温がちょうど春の少し涼しい空気である事が救いだ。


しばらく走っていると、大きな建物が見えてきた。

あれだろう。

まだ走ってから15分程だ。

時間的には余裕だろう。

少し走るペースを下げた。


闘技場の前には人がたくさん集まっていて、男性の姿もある。

列に並んで建物に入っていく。


円形の建物で、北側と南側で別れているようだ。

こっちはどうやら南側らしい。


正面の壁には二人の男性の絵が大きく貼られている。

出場者だ。

両方かっこよく描かれているが、やはり絵ではなく本人が見てみたい。


質問カウンターに向かう。

「あの、この後の試合の出場者を見ることってできますか?」

「はい、試合開始10分前に一回挨拶があります。その時も券を買うことはできますよ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「いえ、こちらこそ。」


さてどうしようか。

試合前までの挨拶まではあと一時間強ある。

このままボーとするのも退屈だしなあ。

ちょっとここを見て回るか。


闘技場の廊下の端にはたくさんの人が倒れこんでる。

みんなワイン瓶片手に愚痴をこぼしている。

まるで競馬場だ。

数年前に興味本位で親と行ったあの競馬場の景色と瓜二つ。

地面には外れ馬券が散乱していて、これ以上負ける金がないと分かっていてももう一回、もう一回と馬券を買い求める人々の姿には当時驚きを隠せなかった。

そんなことを言っている僕だが、ここにいる時点でみんな一緒だ。

今日の分が外れたら、僕もきっとみんなの仲間入りだ。

でもこんなただのギャンブルなのに、なぜこれほどにも勝てるという自信が湧いてくるのだろう。

こういうものなのかな。


それにしてもお腹すいたなあ。

食べ物を買うにも今お金がない。

一時間だらだらするしかないのかあ…。


スッ……。


ハッ!!!


腰当たりに何か気配を感じた瞬間、素早く腰に手を当てた。

後ろの下あたりを見ると、そこには10歳ほどの子供がいた。

スリか…。

なんとなく危険そうな雰囲気はあったのだが、的中してしまったな。

そして子供を使ったスリはほとんどの場合、見つかってしまったら何か大声で叫んでほかの大人を呼んでくる。

次の決断が重要だ。

さてどうする。


胸ポケットに銀のコインがあることを思い出した。

素早く開いていた左手でコインを少年の足元に落とした。


予想の通り、少年は今にも叫びあがりそうな顔をしている。

行動に移すまでの隙に、先に話しかける。

「あらら、君、コインを落としていまっているよ。」

左手でコインを拾い、自分の右手で軽くつかんでいた少年の右手にコインをそっと置いた。

「気を付けてね。」

軽く声をかけた。

少年はあっけにとられたような顔をして、遠くの曲がり角にいる大人の方へと走っていった。

やはりグルだったか…。


こうなったら長居は良くないな。

速くどこかへ移動しよう。


近くになる階段で上の階へと向かう。

ここでもたくさんの人が居座っている。

スリが多そうだな。


財布を胸ポケットに移す。

そして急いで階段を駆け上がる。

太陽の光が差し込む階段を抜けると、そこは闘技場の観客席だった。

中の様子と比べると、外はまるで違う世界かのように明るかった。


やっと危険のない場所に抜けたなあ。

まだ試合までかなり時間があるのに、前の方で座っている人はもうたくさんいる。


様子見のために後ろの方の席に座った。

席が映画館のような階段状になっているため、後ろでも十分見える。

しばらくここで時間を潰すとしよう。


天気は良く、風も少し吹いている。

心地の良い場所だなあ。


「ああ、落ち着く。」

思わず声が漏れた。

『ほんとだねえ。』


!?


いつの間にか隣に一人の年寄りの男が座っていた。

胸ポケットを確認する。

よかった、財布はまだある。


『そんな慌てなくてもよい。君の金を盗む気はない。』

男はポケットから札束を出して見せた。

『金なんて有り余ってる。君と少し話がしたいだけさ。』


「は、話ですか…。何を話しましょう?」

焦りを何とか少し抑えた。


『この後の勝負、どっちが勝つと思う?』

男はこっちをちらっと見ながら言った。

この目つき、"商人"か…。


「それは、『賭けをしよう』という事ですかね?」

『まだそこまでは言ってないのだがね、察しが良いようだからそれで話を進めよう。』

「何をかけましょうかね?あなたは『金』を欲しがるようには見えませんが。」

『ああ、金は要らない。君が欲しい。』


ああ、なんか嫌な気配がしてきた。

奴隷商売かな?


「私は何をもらえるのですかね?」

『君にさっき見せたこの札束、100万フランをやろう。』

「では、私が負けたら?」

『うちで働いてもらう。』

「その目から見るに、普通の仕事じゃないね?」

『何のことかね?』

「フーン。その賭け、乗りましょう。」


男は目を光らせた。

『おもしろい。ここで勝負に乗るのは君が初めてだよ。』

「ただ、一つ条件がある。」

『なんだね?』

「その100万フランを先払いしてもらいましょう。」

『ほお、先払いか。良いのかね?もし君が賭けに負けたら、私のところで働くだけじゃなく、借金も負うことになるぞ?』

「私はそれで大丈夫ですよ。」


男は薄い笑顔を浮かべ、スーツのポケットから札束を出した。

『ほれ、100万だ。数えてみるとよい。』


1万フラン札が束になっている、数えてみると、確かに100枚ある。

非常に丁寧な造りで、偽札の心配もないようだ。

入れるポケットもないようだし、そのまま手に持った。


「それにしても、なんで私に賭けを?」

『君が若いからだ。そして金に困っているようにも見える。だから来た。』

「なるほど。そういう事ですね。」

『それよりもうすぐ選手の挨拶だ。どちらに賭けるのか考えておくと良い。』


ゴーーーーン


鐘が鳴って、音楽とともに二人の男が出てきた。

観客席はもうすでに人で埋め尽くされ、応援の言葉が四方八方から響く。


さて、どっちの選手が勝つのだろうか。

片方は大柄で筋肉もしっかりついている。

身長は目安で180くらいだろう。


そしてもう片方は小柄だ。

体こそは小さいが、体幹がまったくぶれていない。

入場してきたときもそうだった。

足の使い方、呼吸、遠くても何となく伝わる。

この男は、強い。

おそらく何らかの武道を極めているのだろう。

素人のそれじゃない。


『ちなみにだ、大きい方のオッズは1.12。小さい方は6.0だ。』

「随分と差がついてますね。低い方は何か名声を残していたりします?」

『ああ、彼は去年の総合順位で105人いる選手の中でトップ10に入っている。に対してもう片方は今回が初試合になる新人だ。』

「フーン。では、券を買ってきますね。」


僕が立ち上がろうとすると、彼は僕の肩に手を当てた。

『その必要はない。』

そして彼は軽く手を上げると、後ろから一人の女性がやってきた。

『今ここで買える。』

「え、そうなんですね。」

『初めてかい?』

「ええ、一応。」

『まあよい、注文内容を彼女に言いなさい。』


【はい、何にいたしましょう。】

「あ、ああ、あの小さい人の方にこれを全部。」

【これを、全部ですか?】

「ええ、全部お願いします。」

【承知いたしました。では、こちらを。】

彼女は一枚の券を差し出した。

570という数字がそれには書いてある。


『それは君の番号だ。なくすなよ?』

「気を付けますね。」


『もう片方に1万を。』

【はい、お預かりします。】


「違う方に賭けるんですね。」

『逆に新人に賭けた君が何を考えているのかが不思議でしかたないよ。』

「大穴狙いですよ。そっちの方が楽しいじゃないですか。」

『本心じゃないね?』

「それはどうですかねえ?」

『まあ、良い。どっちが当たるのか見てみようじゃないか。』


それからしばらくして選手の挨拶が終わった。

観客の盛り上がりも最高潮になってきて、闘技場の地面も振動し始める。

いよいよ、勝負の開始だ。

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