表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
knowing  作者: ぷにぽめ
9/12

小人との出会い

 どれくらい経っただろうか。ファルマが話しかけてきた。

ーーーそろそろ帰って休ませてあげたいんだけどさー。魔人のままだとまずいから、代わってくんない?

ー……え。

ーーーはあ? 魔人のままじゃ宿に帰れないって言ってんの!!

ーあ、……ごめん、代わるよ。

 打ち込むコードをひとまず中断して、意識をファルマに向ける。

 世界が目の前に飛び出してくる。これは、どう表現していいかわからない。飛び出してきて、にゅっと入り込む感じだ。

「ふう」

 見上げると、すっかり夕方だ。森の木々の間からオレンジの光が斜めに差していて、光の方に湖があった。遠く稜線から水面に夕日が反射して、眩しい。

ーーーえっとー。朝日だよ?

「は? はぁぁあ!?」

 つい、アホほど声を張り上げてしまった。

ー一晩中、動き回っていたっていうのか??

ーーーぜんっぜん、疲れないんだもん。でも、流石に眠いみたいで、しんどいなって☆

ーアホか!!

 僕はうなだれて手を額に当てた。コードに夢中になっていて、時間が経つのを忘れていた。

 精神体は疲れないから、極集中状態であり続けられるらしい。

「はぁ、とりあえず、寝るか…」

 またジェーンに心配されちゃうな。

 と思いながら、周りを見回す。程よい日陰で、枯葉の集まっているところが、見つかった。

 もう眠すぎて、あまり考えることができない。適当な布を演算構成して、枯葉の上に広げ、光が顔に当たらないように気をつけて、倒れ込んだ。

 あっという間に、ベルは眠りに落ちた。

 不思議な感覚だ。

 ベルの脳が起きて意識があるうちは、その脳の影響を少なからず受けるようだ。眠い状態のベルでは、僕は頭が回らない感覚になる。それは、ひどく限定的な僕たちの前提条件みたいなものだ。

 けれど、ベルが寝てしまっても、僕は周りが見えていて、辺りを観察することができる。いまここは、とてもこの世のものとは思えないほど美しい、光のグラデーションが一帶を覆っている。

 木々の間に光が差し込み、朝靄に幾つもの光の帯を作っている。

 ベルの鼻が感じている、朝の匂い、枯れ葉の芳ばしい香り。

 活動を始めた鳥たちが会話を始めている。遠くで、近くで…。

 眠らない僕の意識に、インスピレーションが湧いてくる。

 僕はまた極集中状態になって、コードを追って行った。

 単純に、僕は楽しんでいた。とても気分がいい。

 少し陽が高くなって、そよ風が吹き始めた頃、周りに気配が無数にあることに気づいた。

 だが、姿は見えない。

 神の目には、30ほど数えられる。分析すると、ピクシーと名が出る。

 小さいのか、ステルスなのか?

 周囲の存在に敵意がある場合に発生する、生態信号でアラートが鳴るようにしたのだが、特に反応もない。

 僕は目を凝らして見てみる。でも、見えない。

「全体っとまれ!

 大きい人が寝ているぞ!」

 なんだか小さな声がする。拡大してみる。

「女の子のようです!隊長!」

「ポケットの中に小箱が!隊長!」

 あ、しまった!ポケットの中を勝手に…。

「どれどれ〜

 ……なんと!これは美しい〜!

 これは王家に代々伝わる煌星の雫ではないか!」

「なんと!」

「なんと!」

 なんと…

 声が小さくて甲高く、可愛らしい感じだ。

 本当に、小人がいるのか。

 でも、相変わらず姿は見えない。

「こちらは王女様ではないだろうか!」

「ないだろうか!」

「町まで、お担ぎしろ!」

 おかつぎ…?

 とにかく何かされるらしい。

 抵抗しようと体を動かそうとするのだが、全く動かない。まさか、このタイミングでベルの脳が熟睡していて、体が完全に弛緩している。

 そうこうしているうちに、見えないピクシーは、再び小箱をベルのポケットに押し込んだ。

 枯れ葉の上に敷いた布の下に膨らみが入り込み、枯れ葉を蹴散らしながら、布ごとベルの体を運び始めた。

ーお、おい!

 どこへ連れて行く気だ!!?

 意識だけで叫んでも、誰も答えない。

「えっさ、ほいさ!」

 と掛け声が聞こえて、足並みを揃えて、低空飛行の空飛ぶ絨毯のように、森の底を行く。

 ベルの体はほとんど揺れることなく、滑るように移動していく。

 僕はぼんやりと、田舎の公園に行った時に乗った虫の形の乗り物を思い出した。木々の間を縫うようにレールが敷かれ、ほとんど揺れもせず僕の体を運ぶ。ジェットコースターに乗ったことがある身としては、全然スリルが無くて物足りないんだけれど、ただ無駄に運ばれるというシュールさと、なにか期待感のようなものが、僕を楽しい気分にさせた。

 今もまた、僕は何かに期待しているかもしれない。ピクシーって、7人の小人みたいなのかな…。

 ハイホーハイホー。

 でも、この宝石が盗まれたとか、王女はいないとか、そういうことは知らないのだろうか?

 都合よく利用することはできそうだけど…。

ーーーちょっと!ピクシーに嘘をついたらダメだよ!

ーん?

ーーー嘘つきと怠け者が嫌いなんだって。妖精としての力が強いから、嫌われると…すごい不幸になるって……。マジで嫌われないようにしてよね!

ーんなこと言われても…好かれる方法は?

ーーー知らない! 私も会ったのは、初めて。姿が見えないのね…。そりゃ会えないわ〜w

「いったずっら、えっさっさ!

 いったっずーら、えっさっさ!」

 掛け声がいつの間にか変わっている。

 おい、何する気だ、こいつら…。いたずら?

 だんだん湿り気の多い空気に変わり、木々が暗く生茂り、苔がこびりついた巨石がそこここに現れ始めていた。

「そろそろ起きるぞ!

 お離れしろ!」

 小人たちは、サクサクと音を立てる苔の上にベルの体を乗せると、小人たちはサササッと離れていった。足跡が残っていない。

 僕がベルの指を動かしてみると、素直に動く。

 なんなんだ、一体。

 体を起こすと、刹那のうちに生態信号アラートが爆音で鳴り出し、視野上で赤字点滅する。

 僕は大きすぎるアラート音量に驚き、体をびくつかせて硬直してしまった。音量調節しないと心臓に悪い…。

 あと、どこが発生源なのかわからない。

 360度視野なのだが、物陰が透けて見えるわけではない。隠れている相手は、どこにいるか特定できないんだ。

 使ってみて初めて、問題点が見つかる。

 …それは後でいい。敵は近くに隠れてこちらを伺っているのに変わりがない。

 気がついているというアピールはしたほうがいい。

「何者だ!

 出てこい!」

 声を張り上げて、立ち上がり様子を伺う。

 獣の臭いがする。風向きを見ると、グレーの四本脚が岩の上にのそりと登ってきたところだった。

 鋭い牙を剥き出して、ぐるるる、と低く唸り、べたべたと涎を垂らしている。

 腹が減っているのか…。

 僕を食べても美味しくないぞ…と思った後で、ベルの体だ、美味しいかもしれない…。と思い直した。

 あの牙で噛まれたらと思うとゾッとする。大急ぎでコードを捻り出す。

 タンパク質の合成には少し時間がかかるだろう。どうやって時間稼ぎするか…。

 ぎりっと奥歯を噛んだ。

 と同時に、獣は岩の上から僕に向かって飛びかかってきた。

 僕はその素早い動きに反応できない。体の中に嫌な液体が溢れ出て、身体中の全毛穴が逆立つ感覚を味わいながら、獣のベタベタした鼻面が近づいてくるのを眺めていた。

 軽い脱力感と、ああ、やられる、という思いが頭をよぎる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ