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knowing  作者: ぷにぽめ
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ファルマの経験値

 経験値を積むということは、成長するということだ。

 肉体が成長していくことも、職業としての戦士や魔導師としての成長も、ある一定のルールがある。もちろん、数字上で経験値を書き換えるなんて簡単だけれど、それでは真の意味で成長した結果としての実効値にならない。ただの書き割りのハリボテだ。

 だから、その成長過程におけるルールを見つけて、一部改変してやる。

 従来、魔物を倒すとか、魔法やスキルを使うことによってのみ積まれる経験値を、僕だけは、時間経過の中にあること、呼吸すること、筋肉が動くこと、それだけで経験値が積まれるように設定する。

 筋トレなどすれば、あっという間にスキルが生まれる。強いていうなら、寝ているだけで経験値が獲得できるというわけだ。

 …30が、単に悔しかったとか、そういうわけじゃない。多分。

 普通にグリズリーが出る地域なら、経験値30じゃ秒殺される。ファルマに交代すればいいとはいえ、なんというか、男子としてちょっと嫌だ。僕自身が攻撃なり防御なりしないと、経験値が積まれない。ファルマが倒したグリズリーが数体で経験値30って、そんなわけ無いだろう。ファルマが獲得した経験値は、僕に共有されない。経験値は、自分で稼ぐ。ただし、裏技を使って、ね。

 しかし、演算で世界を書き換えることには、経験値は付かないのか。

 結構高度な技術だと思うのだが、経験値30だけだったら萎える。なんの数字なんだろう?

ーーーバカねぇ、天罰でしょ。

 あ、木の枝が頭に当たった、アレか。…天罰だったらもう少し経験値サービスしてくれてもいいんじゃないか。

 毒づきながら、食堂を出ていく皆の後に付いて表に出る。と、ノーコン少年の蹴ったボールが、ベルの顔に直撃した。

 …天罰…。きっちり経験値30獲得した。



 くっ……可愛いベルの顔に傷付けやがって…。

 ドロシーが回復魔法をかけて、

「あとで見せて、ね?」

 と腕を取る。

「ああ…、ありがとう。もう平気だよ」

「ちがうの…、ね?」

「こら小娘。このガキはストレートだぞ、やめとけ」

 ドロシーを小突いて、バルトロウが呟く。

「バルトには関係ないのっ。

 だって、好きって…」

 ドロシーが愛らしく微笑む。

「え?」

 さっきポロっと、ドロシーに対して癒し系で好きだよと言ったことがフラッシュバックする。

「気を付けろよ、お前のハジメテが奪われるぞ」

 バルトロウはニヤニヤして、他のメンバーとはちがう方角へ向かって歩き出した。

 えぇぇええ!?

 ベルは顔を真っ赤にしてドロシーの手を振り解き、手を振り回して慌てる。

「ややややっ、そっ、そんなつもりで言ったんじゃないんだ、ちょ、ちょっと勘違いかなって、ーーっ」

 突然、僕の視界が二重になって、ベルの首が脱力して頭が前に落ちる。

 刹那、腕をバッと広げ、伸び上がってドロシーを睨んだ。

 ファルマだ。

「あたしのベルに手を出したら、あたしが許さない」

 静かだがドスの利いた声で言う。

 ドロシーが「魔人ッ!」と叫んでロッドを握りしめ、身構える。

 僕は、ベルの体のコントロールを失ったことがわかって、少し後ろに下がった。実際…魂の状態に後ろがあるのかわからないけれど、現実が少し遠くなった。

 サンドラに向かって高く跳躍する。3メートルの高さ。ベルの視点がそのまま体感できる。いやいや…ちょっ、高っ! 背中がゾワゾワとする。命綱もレールもないジェットコースターみたいだ。

 サンドラの目と鼻の先に軽く着地して、遊ぼう、と言っている。

 サンドラは、畏怖の中にあっても、好奇心が勝ち、動いた。



 僕の目には、早送りすぎて見えなかった。素手で、拳を繰り出しあっているのだが、いなしているのか当たっているのかも全然わからない。

 時間を引き伸ばすような演算式を作ってみても、エラーになってしまって作動しない。見慣れろってか?

 目線が素早く動き、ファルマがサンドラの拳を見切っているのがわかる。わかるけど、本人じゃなかったら酔うだけだ。

 ただ、拳の動きを追わずに、画面に広がるサンドラの揺れる双丘に集中すると、見れなくはない。ふむ。なかなかの弾力感。

 そうこうしているうちに、ベル視点から、少し上空に位置する形で広い視点を得る、視野拡張演算式が完成した。

 おお!よりMMOらしくなってきたぞ。

 さらに、ディスプレイ上の映像を見るのとは違って、意識の中に真後ろまでもすべて認識される感じになる。

 たとえベルが目を閉じていたとしても、僕には後ろまで認識できるのだ。

 どや! と言いたいところだが、残念ながら僕しかいない。しかも口外できないとあっては、僕の承認欲求は満たされることがない。かつては、自分の痕跡を残して話題作りをしてまで、自己顕示欲を満たしていたというのに。

 まあいい。ファルマとサンドラの鍛錬?が、女子プロボクシングを見ている気分で眺められるようになる。

 サンドラの右手の突きをファルマが左手で弾き、ファルマの右手の突きをサンドラが弾く。それをしばらく、演舞のように繰り返している。

 たまにサンドラがフェイントを入れて角度の違う突きを入れるが、ファルマは巧みに膝を使ってかわし、数手後に同じフェイントを入れて返している。たまにファルマの方が突きを食らってしまうし、パワーも持久力も体格ですらサンドラの方が上だ。殴り合いではファルマはかなり不利だろう。

 だが、サンドラは鍛錬というか、まさにファルマが誘った言葉の通り、遊びのつもりで受けているらしく、すごく楽しそうにベルの動きを見ているのがわかる。

 なんとなく。なんとなくだが、ファルマのボルテージが上がっていくのがわかる。

 だんだんと、応酬が早く、強弱の差が大きくなっていく。

 最後に決めたのは、ファルマだ。

「飛ーべっ!!」

 ファルマはサンドラの突きを弾いた刹那に、両手を後ろに引き、それを同時に突き出す。

 一瞬光が弾けて、サンドラの上体が仰反る。

「わわっ!!」

 とっさに、サンドラは後ろ宙返りの姿勢をとり体勢を整えようとする。が、衝撃波で体が少し浮き、着地に失敗して肩から落ちる。

「…っ!」

 砂埃が舞い、見ていた仲間たちも衝撃波に軽く煽られ、顔をしかめる。

「ふんっ、サンドラ、またやろう!」

 言うが早いか、ファルマはまた後方に高く跳躍し、通りの店の屋根を飛び越え、建物の影に紛れて姿を消した。

 ため息をついている。

「ダメだわ。絶対的に体力がない。たったこれだけで、こんなに疲れるなんて、私にはあり得ないわ。やっぱり、徹底的に基礎鍛錬が必要ねっ」

 呟くと、建物の屋根を蹴り、街灯に飛びついて半回転して降り、階段の中手すりを滑り降り、

手すり終わりでエア側宙を決める。家と家の間の隙間を駆け上がり、屋根にかけた手と腕力で足から躍り上がる。

 うっ。画面が逆さまになるの、つらいわー。

 これ、フリーランニングっていうんだっけ…。酔う。

 正面の視座から少し意識を逸らす。見下ろすと、子供たちがあり得ないスピードで街中を移動していくベルの姿を指差し、わーわーと騒いでいる。大人もなんだなんだと見上げ始め、目線を集め出している。

ーーーファルマ、そろそろ目立ってるぞー。

 やっとファルマは下に目をやって、「あ、やばっ」と立ち止まる。軽く市民に手を振ると、バック宙で屋根から飛び降りた。

 はう。ぐるんと回る視界に、僕はそろそろ限界。口元を押さえて、目を閉じた。

 ベルは少し息が上がっているようだけど、体の動きにはまだまだ余裕がありそうだ。ファルマの化け物さと、ベルのタフさが少し理解できた。


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