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玻璃一族シリーズ

かかかつき

作者: 川里隼生

 私の名前は玻璃はり世丸せまる。二十三歳。昨年から、故郷の九州で探偵事務所を開いている。兄の光彦みつひこも探偵だ。兄のほうが圧倒的に有名で売れている。ホームページにそう書いた。


 今日、私の事務所を一人の少年が訪れた。中学一年生だそうだ。新型コロナ渦で外出が控えられる中、実に一ヶ月ぶりの来客である。彼は、親戚の死の真相を知りたいのだという。中学生が探偵を頼るとは、よほど難題を抱えた家庭なのだろう。


 私は現場に赴くことは滅多にしない。いわゆる安楽椅子型探偵を自称している。とはいえ、事務所を構えて早数ヶ月、自分の思い通りにはいっていない。結局は事務所を出る羽目になるばかりだ。


 元太げんたというその少年はお茶を一口だけ飲んで、すぐ本題に入った。

「先月の十日なんですけど、叔母が亡くなったんです。自宅で首を吊っていました」

「うん。自殺だね」

「僕には自殺するような人だとは思えないんです。その……遺書もなかったし」


「中学生のあなたには話せないことだって沢山あったはずだよ。それに、自殺する人がみんな遺書を書くとは限らないじゃん」

 それとも殺しそうな人でもいるの? と聞こうとしたけど、やめた。本人が納得しそうだったし、仕事が面倒になるのは正直、嫌だ。


「……わかりました。わざわざ時間を作っていただいたのに、すみません」

 探偵というより、心理カウンセラーになった気分だ。

「いいよ」

「最後に一つだけ、聞いてもいいですか? 玻璃さんはお兄さんと会ったことがないらしいですけど、どうしてですか?」


 その問いには決まってこう答えるようにしている。

「両親の仲が悪かったからね」

 これで相手は離婚とか別居とか、そういう言葉を連想して、掘り下げずにいてくれる。

「でも、同じ墓に埋められてますよね?」


 私の体が硬直した。初めて追求の手を緩められなかったからだし、私の知らない情報を言われたからだ。

「……そう、だったっけ? よく知ってるね」

 動揺は完全には隠せなかった。

「だって僕が玻璃光彦の息子なので」

 間髪入れず、少年が言った。


 終わった。血の気が引くのがわかった。まさか玻璃光彦の親族が踏みこんでくるとは。

「確かに僕には叔母がいますけど、あなたほど若くないですよ。今でも元気に生きてます。最近、インターネットでここのサイトを見つけて、どんなところか見に来たんです」


 私の本当の名前は欠月かつき世丸せまる。新卒で入った東京の会社を半年で辞めて、故郷の九州に戻った。いざこざがあった末に故郷を捨てて東京に行った私は実家に帰る勇気がなく、自分で仕事を作ることにした。何の才能もない私は、本当はいけないことだと知りながら、関係のない玻璃探偵の名前を勝手に使った。


「私を……どうする気?」

 ひねり出した言葉がこれだった。少しだけ私を睨んだあと、少年はくすっと笑った。

「別にどうにもしませんよ。だってまだ『本人』が気づいてないんですから。気づく素振りもないし、このままでいいんじゃないですか?」


 秘密にしておきますから、宝くじが当たったら教えてください、と冗談を残して、彼は去った。夜は心臓の鼓動がおさまらず、眠れなかった。今朝起きても昨日のことは鮮明に覚えている。私は十歳も年下の子に、脅迫された。

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