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エインへリアルの苹果  作者: 朱雀 蓮
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PROLOGUE

どうも、朱雀蓮です。この作品は思い付きで書きたくなった小説です。投稿は不定期ですが、頑張って連載していこうと思いますのでどうぞ応援よろしくお願いします!!


『私のお兄ちゃんは完璧すぎる』も同時連載中なので是非暇なとき読んでいただければ幸いです。

PROLOGUE [D/E]


 ―—あたしは、その日死神の様な天使を見た。

 

 自分でも今の言動に矛盾を抱えてしまっているのは理解しているが、当時のあたしにはこういう表現しかできなかった、だが、偶然にも、ただ奇跡的に、生きている内にあたしはその存在と出会った。


 あたしがそれとの出会いを語る前に、とりあえず前置きというか、自分の居る立場というか、境遇とやらを説明した方がよさそうだ。

 それと、予め先に行っておくが、あたしには名前はない。いや、名前は付けてもらっていたんだろうけど、物心ついた時には覚えてはいなかった。

 

 周りの人間からは『名無し』『ガキ』『糞ガキ』 など見た目のままの呼ばれ方しか呼ばれておらず、名前も無いのであたしも別に気にしていなかったし、名前なんてあたしの住む環境では何の意味も持たない。

 

 当然、あたしには家族も家も居ない。覚えているのは真っ暗な空の下、段ボール箱の中で母親だと思われる女性があたしを路地裏に、まるで飼い猫や飼い犬を捨てるように置いていくおぼろげな背中だけだった。


 当然、家は段ボールやら資源ゴミなどで作った屋根付きの工作ハウス、風が吹いただけで倒れてしまい、嵐が来た日なんか家ごと吹っ飛ばされたこともある。服は拾ったものを数着、どれもボロボロで汗臭く、中にはカビが生えているのもあった。サイズもあってないものが多く夏場でも長袖などよくあった。


 顔は垢や泥塗れで汚れていたし、爪は定期的に削ったりしているが、髪は伸び放題、頭は常に痒く、綺麗な風呂になど入れるわけがないので、偶に川に入るなどでしか身体を洗うことしかできず、正に不潔そのものだった。それこそジャパンのホラー映画で云う貞子といえば想像も容易いだろう。


 そんな環境なので物心がついて最初の頃は路地を歩く家族連れを見るとかつて自分に居たであろう家族に対して憎悪を抱いていた事もあったし、自身の生まれた境遇の虚しさも感じたこともあったが、決して自ら死のうとは思わず、寧ろ時間経過と共に自身の価値観と感情は薄れてゆき、当然周囲間との仲間意識もそこまで芽生えず、自分より小さい子供でも、死にかけの人間であっても、誰にも手を差し伸べない、慈悲を与えない、あたしは非情な一匹オオカミとなった。


 あたしの生まれた国は人種的、環境的な階級差別が激しく、金持ちは肥やした身体に高級ブランド品や煌びやかな宝石を身に付け、それらを見せつけるように歩き、恵みを乞う人間を道端の石ころの様に蹴とばす。

 逆に貧困民は道路の隅にやせ細った身体で固まるものいれば、路地裏にに1人か2人の死体が転がっている・・・そんなみじめで不条理な生活が当り前だった。

 だから、この弱肉強食・・・とまでは言わないが、この本当の意味で最低・・・最も底辺な世界で最低限生き残る術を周りの同類を見て学び、盗んだ。


 貧しい者たちの生き方といえば、炎天下の中、労働量に見合わない給料を貰いながらも働き続け家族を養う者、町の隅で小銭を貰うだけの為に一日炎天下の中、錆びついた空き缶を持ち続ける者もいる。

 女の中には夜の街で自身の身体を売る者や、そういった目的で言い寄ってくる金持ちを殺して金品を巻き上げるなどといった人間として最低な行為をしてでも生きていく者もいた。

 マジで最悪の奴は本当の意味で自分の身体(ぞうき)を売り金を受け取り、一時の金を持つ優越感を得て死ぬ奴も偶に見かけた。


 働く気力も売る身体も持たぬあたしはゴミの中から残飯という名のご馳走を見つけ食べ、時には小動物、虫なども食べ、市場の野菜や肉、果物を盗んだりもした。

 だが、残飯や野ネズミを食べた後お腹を下し、余計にお腹を空かせて死にかけたこともあり、市場の商品の盗みを行った事で捕まり大人にボコボコにされ、死にかけた事もあったが、今では大人を出し抜いて返り討ちにすることも出来る位には強くなった。そんな地獄で11年間生き抜き、上手に世の中を生き抜ける人間になったと思えた。いうなればタフネスになった訳だ。だから、余計な高望みをせず、残りの人生もこんな調子で生きていくだけなんだろうなと思っていた。

 

 だが、そんな日常はある日、何の前触れも無く崩れ去った。


 「泥棒だぁぁぁ!!!誰か!!そのガキを捕まえてくれ!!」


 何時もの様に雲一つない炎天下の中、あたしは人が賑わう市場の中の露店の商品を盗み屋台のオヤジ達に追われ、迷路のような路地を走り抜けていた。

 腕に抱えた品をポケットに入れ、全力ダッシュで人々を潜り抜け、土埃を撒き散らしながら露店のテーブルや椅子を飛び越えスルスルと蛇の如く逃げ回っていた。

 途中何人かにぶつかろうがお構いなし、いつもの様にただ逃げていた。

 

 本人は気がついていないがその動きは正にパルクールそのもので壁や塀を上る際には、巧みに角や凸凹を使いひょいひょいと猫の様に逃げていた。


 「待ちやがれぇぇぇぇぇ!!!!!こんのクソガキが!!!何回目だ畜生っ!!」

 「へへっ、遅いんだよ、おっさん。」


 中年の露天商オヤジが後ろから追っかけているがその差は詰まることはなかった。


 「へへっ、そんな速さじゃ間に合わないよーだ。」

 

 壁をマリオのジャンプの様に壁を蹴りながら建物の屋上に上り、地面を見降ろす。

 

 「いつもありがとね、これお礼ね、バイバーイ!」

 

 と屋根上に積まれた煉瓦を躊躇なく全力で投げ落とした。

 鈍い音と呻き声が聞こえるのを確認し、暫く建物の屋根を走り、町に幾つか造った自分専用の食事場へと向かった。

 建物の屋上から飛び降りゴミ箱付近に積まれたゴミ袋をクッション代わりにしながら見事に着地した。

 落ちた際に生ごみの匂いが蔓延したが慣れているので気にしない。

 

 「今日も大収穫!!やっぱり、野菜類は盗みに限る。」

 

 と一般的なトマトよりは照りも無く少し萎びたものを齧る、水気も甘さもあまりなく寧ろ酸っぱい・・・だがこの国ではこのレベルが普通だし、これも金も払わず食べている為、十分すぎる位だった。

 

 「晩飯どうしよっかな~、どっかの飯屋の食糧庫からパクるか?いや、最近セキュリティが強化されてるし、警察捕まったらめんどくさいしな・・・最近銃撃ってくるやつもいるし、盗みは慎重にしないと、、、」


 昼食を摂りながら、夕飯の事を考えつつ、トマトの苦い蔕まで噛み砕き飲み込み2つ目に手が伸びたところである異変に気がついた。

 

 「何だ?表通りの方が騒がしいな・・・」

 

 今、自分がいる裏通りの奥の奥の様な場所なのだが、車が通ろうが何時も静かなはずなのに今日は音が聞こえるほどの人の大声が響く。

 また、異変はもう一つ、ここから見える広場の空が陰っている事だ。

 滅多に雨の降らないこの国で昼間に陰った事に奇妙な感覚を覚え表通りまで走って空を見上げると、其処には異形な生物がいた。


 ルビーの様に真っ赤に燃えるような眼、真っ黒な皮膚に太陽で輝く刃の様に尖った鱗、足先には太く尖った爪、蜥蜴のような顔に口には巨大な牙。


 それは、昔拾った子供向けの絵本などに出てくる、ドラゴンそのものだった。

 その姿は美しく映え、後光が差すのも相まって神々しさが増した。


 鋭い牙と爪が日光で輝き、背中の翼は動くごとに地面の土や砂が舞い上がり、近くに居る人は目を開けるのが辛くなる。

 ドラゴンはクルルルルと大きく喉を鳴らし、町で一番高い塔の屋根に停まった。

 それを見た裕福層の人々は携帯で自撮り写真を撮ったり、画面をずっと弄っている。また、貧困側の中には龍に向かって先程述べた通り正に神を崇めるように涙を流し膝まづく者まで現れた。

 あたしも、始めて見る非現実的な存在に目を輝かせ、魅入るようにドラゴンを眺めていた。


 だが、ドラゴンは塔の上から町をグルリと眺め終わると同時に、まるで放たれた矢のように人の集まる広場へと急降下した。

 

 「え・・・?」


 それは一瞬だった。広場のドラゴンの真下でカメラを構えていた男の上半身が消えていたのである。

 残った下半身から血が噴き出し、無くなった上半身のコントロールが無くなり、地面に倒れこむ。

 男も今自分に何が起きたかもわからず、自分が見ていた景色が一瞬で切り替わり、目の前にいる他の者が自分を見る顔が恐怖に染まるのを見て漸く、腰回りからの激痛が走り、救いと痛みの声に出す直前にその頭蓋は鋭い牙で噛み砕かれる。


 その鋭い牙から滴る赤い血と、喰い足りないことを証明する透明な涎が零れるのを見た人々は悲鳴を上げながら、逃げ惑うも、それをあざ笑うかのようにドラゴンは人を追い、捕まえ、笑い、喰らい、飢えを癒す。人はドラゴンから逃げ、叫び、嘆き、喚き、命を喰われる。


 その悲惨な光景を見たと同時にあたしの身体は勝手に先程まで食事をしていたゴミ箱の中まで逃げていた。

 全身の細胞が総毛だつ様な感覚に襲われ、次第に震えが身体を襲った。

 町の警官隊が拳銃をぶっ放す音が響くが、30秒もしないうちにやみ始め、悲鳴の量が増えた。

 路地裏のゴミ箱の中に必死に縮こまって、表の路地から聞こえる悲鳴や命乞い、その人を食べる食事の音を聞こえないように必死に耳を押さえる。

 ゴミ箱の中なので吐きそうなほど臭いにおいが充満しているが、今はそんな事を気にしている暇はない。

 

 そして、縮こまりながら怯える中、本能で理解した。

 あれは、人間が勝てる相手ではない。

 そして、頭で理解した。

 ここでやり過ごさないと絶対に私は死ぬ・・・と。


 「はぁー、はぁー、はぁー、はぁー、はぁー、はぁー、はぁー、はぁー」

 

 必死に息を殺そうとするも先程鮮烈に染みついた人の死の瞬間が脳裏に浮かび、自然に息が上がる。


 そして運命の時は直ぐにやってきた。


 ハルルルルルル――――――という喉が鳴る声と、ビチャビチャと涎と鮮血が滴る音がすぐそばの路地裏の入り口で聞こえた。

 ドス、ドス、ドスと重い足音が一歩ずつこちらに近づいてくるのが分かる・・・

 

 必死に高鳴る心臓と息を押さえ、必死に身体を丸めるようにして縮こまった。

 スンスン――と匂いを嗅いでいる鼻音が聞こえ、全身に纏わりつくゴミの匂いがあたしの匂いを誤魔化してくれることに全てを託した。


 そして、鼻音が消え、バサッバサッと空に飛ぶ音と同時に先程まで路地裏にに響いていた喉や涎の音と足音が消えたのを何回も耳で感じ取り、あたしは一気に緊張が解けた。


 『助かった』『生き延びた』『やった!!』などといった歓喜や希望が全身を支配し、今すぐにこのゴミ箱から飛び出してもう一度あの空を見たい、新鮮な空気が吸いたい、という欲求が心を身体を支配し、長い間冒険者を待ち望んでいたミミックが顔を出すようにバッとゴミ箱から出ると―――


 ―———あたしの希望はあっという間に、黒く、淀み、絶望へと変わった。


 あたしの真上の建物の屋根に3()()ものドラゴンがいた。

 6つの真っ赤な眼が薄暗い闇で光り、その視線はこちらをジッと睨んでいる。

 恐らく今から逃げようと一歩でも動こうとすれば、その鋭い爪に捕まって食べられてしまうだろう。


 だが、ここであたしが感じたのは後悔だった、日ごろの行いが倍で跳ね返ってくる感覚とはこの事だろうという事だった、何故なら現状、品定めするようにあたしを上からのぞくその光景はつい先程、選んで盗んだ野菜を自分が店主を見下ろして面白がっている光景そのものだった。


 そう、ドラゴンは紛れも無く食材の調達兼食事を楽しんでいた。

 あたしが隠れているのを匂いで知りながら、その場を去ったふりをして、心から安心し、希望を垣間見た瞬間の表情から絶望に塗り替わるのを楽し気に観察する、まるで性格の腐ったサディストの様に楽しんでいた。

 

 そんな中、あたしはまた一つ違和感を覚えた。

 

 (悲鳴が・・・聞こえない?)

 

 先程まで嫌程聞こえ、必死に耳を塞いで掻き消していた悲鳴が一切聞こえないのだった。

 そこで連想された答えは確認せずとも正解だった・・・皆、喰われたのだ。

 路上に居た人間はパッと見ても30人はいた、だが、相も変わらず3匹ともよだれをダラダラと垂らし、こちらを睨んでいる。町の人全員だけでは足りないのだろうか・・・


 つまり、あたしが怯えている時間はあたしが体感しているよりずっと長く、この街の人々を喰い殺されている間ずっと一人隠れ怯えていた事になる。


 そして、ドラゴンの真下をよく見ると先程、煉瓦をぶつけた跡が額に残っている露天商のオヤジの首が怨みと苦痛が入り混じった表情をこちらに向け、転がっているのを見た。

 

 「おぅぅえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――」


 自然に胃の中のモノが逆流し、口の中を先程のトマトの味と胃液の酸っぱい味が支配した。

 それと同時に股に暖かいものを感じる・・・凄くみっともなく、凄く絶望的だった。

 

 そんな中、三匹のうちの一匹があたしの様子を見て、絶望の表情を見て、我慢できなくなったのか翼を広げ高く上昇し、その大口を開け、真っすぐこちらへ急降下した。

 上を見上げると、真っ黒な穴が広がり、私を丸飲み込まんと、近づいてくる。

 不思議とすべての動きが遅く見えた、と同時に脳裏に色んな思い出が頭の中をぐるぐると廻り、遂には思い出にない光景まで脳裏に浮かんだ―――

 

 ――――そして、その光る鋭い牙と牙で噛み砕かれる・・・路地で見た人たちと同じように全身を魚の骨の様にボリボリと貪られるのだ。

 

 最後はもう目を開けていられなかった・・・どうせなら一思いに殺ってくれとさえ願った。

 上半身を脇腹から衝撃が襲った。不思議と痛みは無かった・・・寧ろ誰かに優しく抱擁されながら浮遊感を感じた、死ぬという感覚とはこういう事なのだろうか。

 

 そして、目を開くとそこは天国ではなく何年間も生き抜き、逃走経路として使っていた町の屋上にいた。

 何が起きたかもわからず、気付けば自分の身体が抱えられていることに気がつき、顔を上に向けるとそこにも一言で言えば現実離れした存在だった。


 それは一人の鎧を着た男だった。

 まるでファンタジーの世界とSFの世界の鎧とバトルスーツが合体したような真っ白な機械の(ヘルム)と鎧が太陽の光で輝いていた。

 その鎧は一分の隙も無く全身を覆っており、人間でなくロボットかもしれないと錯覚してしまう程だった。

 

 そして、その者は何も言わず、抱えていたあたしの身体から手を離すと、兜のスリット部分に映る電子的な目は前方の3匹の方を見据え、腰に帯刀している刀の様な武器を握る。

 

 「前方に3匹確認これより殲滅に入る・・・」

 

 籠った声でそれだけ言うと、(ヘルム)の目が赤く光り、敵を睨んだ。

 その剣は、太陽に反射し輝き、フォォォンと高い音を鳴らしていた、

 だが、抜刀と共に放たれた殺気はどす黒く全身を氷で固められたかのようにその場にいたもの全てを硬直させ恐怖させた。

 あたしもたまらず悲鳴が出そうになったが、恐怖のあまり声が出なかった。代わりにまた股間の付近が暖かくなるのを感じた。


 そして、剣を構えた次の瞬間、そいつの姿は消えた。

 目を離していなかった、恐怖する対象からは瞬きもせずずっと見て居たはずなのに、目の前にいた男は突如として消えた。


 そして、次に現れたときには3匹の内の1匹の首が飛んでいたのだった。

 その背には純白の翼が展開し、ドラゴンと同じく空を滑空していた。


 地面に仲間の首が落下しドチャッと鈍い音が鳴り、首から鮮血が噴き出し男の鎧を赤く染める。

 

 「1匹目・・・」


 仲間の死を見て硬直の解けた龍2匹は眼前のモノを敵と判断し、すぐさま攻撃に転じた。

 その鋭い爪でそいつの身体を引き裂こうとするも、空振り、その爪の斬撃は勢いよく建物を崩壊させた。


 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 あまりの風圧で叫んでしまったが、そんな声をかき消すようにドラゴンたちは目の前の敵に向かい大声で咆哮を浴びせた。


 建物が崩れゆく最中、鎧の男は眼前の瓦礫を豆腐の様にスパスパと両断し、真っすぐに空に舞う一匹のドラゴンの胸部辺りに入り、一瞬で目の前に現れた敵に反応しようもないドラゴンは容赦なく何度も何度も何度も何度も切り刻まれた。

 何度も切り刻まれるその痛みの叫びの咆哮が町に、空に、響く。

 だが、男は躊躇せず、弱りきったドラゴンの首を断ち、胴体と斬り離された首が最後の悲鳴を上げた瞬間、その頭蓋ごと切り刻んだ。


 「2匹。」


 同胞の無残な死と凄惨な亡骸を見た最後の一匹は、初めて己たちより強く、人間(食糧)の姿をした化物に出会い、心の底から恐怖し、その後即座に取った行動は・・・逃亡だった。


 翼を広げ、勢いよく眼前の敵を風圧で吹き飛ばし、全速力で逃げる―――そのシュミレーションを脳内で一瞬の間に幾度も繰り返し、その通りに龍はその翼を使い突風を巻き起こし、その突風は大型台風の様に建物の壁や窓ガラスを破壊した。


 そして、後ろを振り返り全速力で逃げおおせようと躍起になった瞬間、ドラゴンは目を疑った―――何故なら、目の前に先程風圧で吹き飛ばし後方の壁に叩きつける位までの足止めはしたはずの奴が剣を構えているからだった。


 自らと同じ翼をその背に宿し、自分が目指す逃亡の空の直線状に立ち尽くし、その手に持った同胞の鮮血に濡れた刀をこちらへ向ける。


 そして、ドラゴンは悟った、自分の前に居るものは“死”なのだと・・・逃げても追いかけてくるものだと。

 

 だが、ドラゴンは怯えることはなく、絶対絶望の主人公が新たな展開や覚醒を迎える前兆の様な、どうしようもない危機に対する恐怖をかなぐり捨て、その胸に、肉体に、魂に勇気という名の目に見えない限りない力を宿し、目の前の“死”に戦いを挑んだ。

 

 しかし、現実は残酷で勇気は決して逆境を打ち砕く力にはならない、幾ら素手の少年が銃を持った現役の殺し屋の男に対して勇気を出したところで撃たれればお仕舞。無駄で無謀で蕩尽な行為である。

 

 そして、その勇気の結末はバラバラ殺人・・・否、バラバラ殺龍である。

 残りの翼を、腕を、足を、首を、胴体をマグロの解体ショーでもやっているかのように素早く丁寧に残酷に切り刻んだ。

 だが、彼は自身が斬られてでもなお、勇気が見せる眼前の敵を打ち倒す幻影を脳裏に刻み、死んでいった。

 だが、彼にとっては幸いだったのかもしれない、死の恐怖を忘れ、自身が死んだ際の苦痛を感じぬまま死ねたのだから。

 

 無惨に切り刻んだ血肉から降り注ぐ鮮血のシャワーがそいつの鎧全身を濡らし、空中で3匹の死体を眺めるその姿は魂を狩る死神の様に、空にそびえる姿は魂を天に運ぶ天使の様に、相対する二つの存在を感じさせる者はそこに存在した。それと同時に、胸の奥から熱いものを感じた。ドクンドクンと、胸が高鳴り、ワクワクする。


 男は近場の川に勢いよく飛び込み血を洗い流すとあたしのいる建物の屋根に再び戻り、耳付近に手を当てた。

 

 「任務終了。目標討伐、民間人の子供一人を発見、これより帰還する。」

 

 通信らしきものを切り、こちらに近づく血まみれの鎧男に不思議と恐怖心は無かった。

 そしてこちらを見下ろすと、じーっと数秒眺めた後

 

 「生きたいか?死にたいか?お前が選べ。」

 「生きたい!!!」


 考える間はなかった。即答だった。助けてもらった命、偶々だとしても、私は嬉しかった。今まで誰からも手を差し伸べられることなどなかった、けど、この人は助けてくれた。


 「・・・そうか、ならお前を安全な所へ保護する。あと・・・・水を浴びろ、小便たらし。」

 

 と、服の首元を掴まれると、建物の屋上からそのまま川の中へ落とされた


 「ぶはっ!!ちょっと!!いきなり川に落とすことないじゃない!!」

 「煩い。小便たらし。」

 「う~~!!!!あたしにはちゃんと・・・・・ちゃん・・と・・」


 ここで普通なら『私には○○○って名前があるんだから!!』と返せるのだが・・・あたしには――


 「名前・・・・ない。」

 「なんだ、名前がないのか、小便たらし。」

 「だ、だから!!その小便たらしは止めてよ!!」

 「・・・ふむ、なら今日から―――――」


 

 この時、あたしは初めて名前を貰った。死神、否、天使、否、あたしに名前をくれた人間の彼との出会いは、あたしと彼の、運命を大きく変える出会いとなった。

                                        PROLOGUE―END

如何だったでしょうか?もしかすると、『ドラゴン』と表記された部分が謝ってが『龍』になっている可能性や、誤字脱字が見られるかもしれません。もしあれば縁了なくご指摘お願いいたします。


また、感想、評価もバシバシ受け付けております、感想に置きましては必ず返信を致しますので縁了なくお書きください。

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